日律帝國最後の反抗8
mitotayo
明けましておめでとうございます。投稿期間が大幅に空いてしまい申し訳ありません。インフルエンザって怖いですね。さて、今回からは試験的に個人の視点で話を書いていきます。視点が変わる時は一行開けますので参考にどうぞ。
〈十二章 敗北と責任〉
皇暦2515年6月30日、私……森下綾香は武くんと話をしていた。
「このマッツ……ウェーク海戦?てのは勝ったの?」
私は武くんに聞いた。
「大本営は勝利したって報道したね。だから勝ったんだろう」
武くんは少し暗い表情で答えた。
「……いつもの癖、出てる」
「いつもの癖?」
「そう。武くん、いつも嘘つく時暗い顔して目線逸らすんだよ」
多分今の私は意地悪な顔をしているだろう。そしたら武くんが観念したようにため息を吐いた。
「やっぱり綾香には嘘は通じないな……」
「今のが嘘って……じゃあ負けたって事?」
私は武くんに少し近づいた。
「うーん……。俺は軍人だからこれ以上は言えない」
「……じゃあ、一つだけ答えて」
私は武くんにもう一歩近づいた。顔を上げて武くんの顔をじっと見る。
「近いうちに武くんは戦いに行く事になる?」
武くんは少し考える素振りをして口を開いた。
「そうなると思う。少なくとも休暇が終わるまでに」
武くんの返事で私は完全に理解した。
──お父さんが大事な局面と言っていた戦いで、この国は負けたんだ……。
同日、海軍省舎の一室。
「諸君、よく集まってくれた」
海軍大臣、飯田新平がそう言った。
「マッツウェーク海戦の話は聞いているな?空母四隻を有する第二機動艦隊が、怜軍艦載機の攻撃で主力を軒並み喪失して我々の制海権内を目指して撤退している。しかし、手負いがいる艦隊は航空機からすれば格好の的だ」
飯田は続ける。
「そこで、第二機動艦隊の護衛、追撃してくる怜軍艦隊の迎撃を任務として一個艦隊を投入する事が決定された。そして、どの艦隊をこの任務に充てるかを決めたいんだ」
「少し宜しいですか?」
一人の男が話しかけた。
「ああ、いいぞ。高田中将」
「はっ」
名指しされた男……高田史明は口を開く。
「現状、動かせる艦隊は第一機動艦隊と、戦艦が主力の打撃艦隊、それから小型艦主体の駆逐艦隊と潜水艦のみの潜水艦隊ですが、この中で一番迅速に動けるのは第一機動艦隊です」
「ああ、その通りだ」
「つまり、第一機動艦隊を送るべきです。いえ、第一機動艦隊にしか遂行できないと考えます」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、なぜこの事を相談する必要がある?」
高田の口調が少し荒くなる。
「そう熱くなるな、高田。こうやってよく相談してからの命令だったら下の連中も言うことを聞くかなって思ったんだ」
飯田はそう答えた。
「そうだったか……いや、すまない」
「それはいい……が、人がいる前でそんな口調を荒くすんな。バレたらお前の立場が悪くなるぞ。まあ居るのは森下だけだがな」
飯田はニヤッと笑ってこっちを見た。俺は肩をすくめる。
「あんまり話を振らないでくれ。俺はいつ腹を切れって言われるかヒヤヒヤしてるんだ」
「何言ってんだ森下?お前に責任はないぞ。無論、責任は真田にある……と言いたいところだが、責任を負ってもらうのは真田の参謀達だ。」
飯田はそう言った。高田も当然と言った顔で頷く。
「そりゃそうだが……、戦いに負けた以上責任を取らねばならないだろうに」
俺は言った。実際、自分で責任を取るつもりでいるのだ。
「ん?俺は森下に責任を取らすつもりは無いぞ。なにせ見せしめのつもりで、生きて帰ってきた真田の参謀を処分するからなぁ」
飯田は少し怒気を含んだ声を出す。
──友人が言ったことを無視した上に戦いに負けたのだから当然だろうけど。
「話が脱線したが、とにかく第一機動艦隊を任務に送るで良いな?」
飯田の発言に俺は頷いた。
〈十二章 戦いの前奏〉
戦艦「西日」。第一機動艦隊旗艦にして、39センチ連装砲4基8門の重武装を持つ大型戦艦である。そして、ここ曽根軍港には西日を始めとした第一機動艦隊の艦艇が並んで停泊している。
「第一機動艦隊は、これより第二機動艦隊の救援に向かう!諸君には、大切な休暇を投げうって戦わせる事になってしまうが、どうか許してほしい」
壇上では、高田長官が演説をしている。無論、俺……白石武は長い話は大っ嫌いだ。だから早く終わらしてほしいのが本心だけど……。
「曽根軍港を出たら陣形を維持しつつ出せるだけの速度で救援に向かう。一秒でも早く到着出来るように死力を尽くしてくれ……。では、総員直ちに乗艦し、発進準備に移れ!以上!」
高田長官が壇上から降りると同時に、周りの人間が蜘蛛の子を散らすように走って行く。俺も真鶴へ走り出す。
「少尉殿!早くしないと乗り遅れますよ!」
声がした方をみると、草加部広宣が走ってくる。
「分かってる。急ぐぞ」
「了解です!」
草加部は笑顔で返事をする。……うん、やっぱりこいつは暑苦しい。
「少尉殿、忘れ物はありませんか?」
草加部の後ろから水島隼人が走ってきて言った。
「ん?忘れ物なんか……、あ」
──荷物を入れていた鞄がない!どこいった?
辺りを見渡すとさっきまで自分が立っていた場所に置いてあった。
「水島……お前、分かってて言ったな?」
「……そうですよ?」
……てめぇ。怒りたい気持ちを押し留めて俺は鞄を取りに行った。……つくづくあいつは性格が悪い。とにかく、これで時間を無駄にした俺達は中隊長の中里雄二大尉に嫌な顔をされたのだった。
大東海を東に急いで向かっている艦隊がいた。旗艦は魚雷を受けたような穴があり、乗組員達も疲労が顔に滲んでいた。艦隊の名前は第二機動艦隊。マッツウェーク海戦で敗北し、追撃を受けている艦隊だ。当の追撃を仕掛けている怜軍(レイブン皇国軍)は、未だ攻撃が出来ていない。ただただ追いかけっこを続けている。しかし、やはり損傷艦がいる第二機動艦隊の方が足が遅い。怜軍艦隊はジリジリとその差を埋めていく。そんな日が1週間ほど続いている。
「真田長官、このままではあと1週間もしないうちに敵航空機の攻撃圏内に入ってしまいます」
旗艦「朝日」の廊下の一つで、マッツウェーク海戦の時にいた参謀組にはいなかった参謀が言ってきた。
「ああ、分かっている。3日前に暗号で電信が来た。救援艦隊がこちらに向かっているとな」
私はそう言って彼の目を見た。純粋な目で私を見返している。
「合流まで大体5日かかる。それまで逃げ切れば問題無いだろう」
「はっ」
私が言い切ると彼は黙った。彼が最初からあの参謀達を止めてくれていたら、と思ってしまうのは何故だろうか。
──ともかく、今の私に出来ることは残存する艦艇を一隻でも多く本国へ撤退させる事だけだ、それだけを考えれば良い。
そう心に言い聞かせて自室へ向かった。
同日、レイブン皇国が日帝海軍の第二機動艦隊に送った暗号の解読に成功した事を、彼らには知る由も無かった。
設定を練り直していたら、気づけば2月になっていました。すみません。さてさて、今回は個人個人の視点を物語として書いています。最近読んでいる小説がそんな方式で書いていて、これ良いなと思って導入してみました。次からもこんな感じで書いていきますのでよろしくお願いします。