日律帝國最後の反抗4
mitotayo
また今回も投稿が空いてしまいました。本当にすみません。最近忙しくてちょっと文字数少ない上に投稿が遅くなると思います。許してください。
〈八章 野球の聖地〉
皇暦2515年6月26日、森下綾香の邸宅の周りを散歩していた白石武と綾香は、2人が最初に出会った公園を訪れた。
「懐かしい雰囲気だな」
白石は呟く。予科練の寮に引っ越してから7年、一度も行けなかった思い出の地面を白石は踏み締める。
「あの時は全然人いなかったけどさ、今は子供がよく遊んでるんだよー」
綾香はニコニコしながら話す。どうやら子供好きらしく、よく遊んであげているらしい。
「あー!綾香おねえちゃんだー!」
遊んでいる子供達の1人がこっちに走ってくる。
「あらら、由美子ちゃんだー、何してるの?」
綾香が少女に気さくに話しかける。由美子と呼ばれた少女は答える。
「やきゅうだよー!最近みんなでやってるんだー」
白石は少女……由美子が来た方向を見る。木の棒で書いたであろう各塁とバッターボックス。マウンドらしき所ににいる少年は振りかぶってボールを投げている。
──へー、最近の子供も野球するんだなぁ……。
白石はそう考えると同時に小学生の頃を思い出す。
──まだ金銭に余裕があった頃にお母さんがグローブ貰ったからってボール買ってくれたなぁ……。今もあるだろうか……。
「綾香おねえちゃん、となりのおにいさん誰?」
白石の思考は由美子の質問で破られた。
「んー?ああ、私の未来のお婿さんだよー」
綾香が悪戯っぽく言う。
「え?……そーだよ、綾香の旦那の武ですぅ」
白石は困惑しつつも乗っかって自己紹介をする。
「ちょっと旦那って……」
綾香は赤くした顔を手で隠す。
「ふぅん……綾香おねえちゃんのだんなさんかー。よろしくね武おにいさん!」
由美子はニコニコしながら言う。白石は無邪気な子供を見て心が癒されながら頷く。
「ねぇ綾香おねえちゃん、一緒にやきゅうしよーよ!」
由美子は綾香を誘う。
「いいけど……グローブあったかなぁ……。ちょっと待っててね」
綾香が答えて走って自宅に行く。白石はそれを見送って由美子に問いかける。
「ねぇ由美子ちゃん、俺も入って良い?」
「いいよー!人は多いほうが楽しいもんね?」
由美子は快く頷いてくれた。白石は心の中で喜んで家にグローブを取りに行った。
「はじめっ!!」
審判の少年の合図の下、試合が始まる。片方のチームは綾香が投手を務め、もう一方は白石が投手をすることになった。白石も、綾香も力一杯の投球で打者を圧倒する。白石が打席に立てば綾香が抑え、綾香が打席に立てば白石が抑える。そんな事を繰り返していくうち、綾香がバテて打たれ始め、続けて白石も打たれ始める。七回の裏が終わり、参加した人全員が疲れ切ってしまったので試合終了となった。
「くっそー負けたぁ」
白石が悔しがる。試合結果は6対7、綾香のチームが勝利した。
「当然よー、由美子ちゃんが頑張ったもんねー」
綾香が由美子を見て言う。
「そうだなぁ……なんか由美子ちゃんに打たれまくったなぁ」
由美子の完璧な打撃に白石は舌を巻く。7点の内の半数は由美子の打席で取ったらしい。
「あーあ、疲れたなぁ……家帰ろっかぁ」
綾香が白石に言う。綾香は相当疲れたらしく、ふらつきながら立って白石と帰路へ着いた。気づけば太陽が傾き始め、西が橙色に染まりかけていた。
綾香の自宅に着くと綾香の父、森下和義が迎えてくれた。
「おかえり、今日は外に食べに行こうと思うが……いいかな?」
「良いけど……、どこ行くの?戦争でだんだん品薄になってるけど」
綾香が問う。綾香の言う通り、戦争の影響で日用品や食料が品薄になり始めている。なぜか、
──軍が買い占めて前線の部隊に配給として持っていくからか……。
白石の思考通りである。
「いつもの店だったら何かあるだろう、とにかく行ってみよう。白石君、今日は私の奢りだ」
森下は白石を見てニヤッとして言った。
「まったく……、いっつも無計画ね」
綾香はぼやきながら家を出る。白石が続き、森下が玄関の扉を閉めてそのまま先を進む。
「行くぞ、まだ夕方だから人も少ないだろう」
森下が歩く後ろを白石と綾香がついて行った。
「いらっしゃーい……あら森下さん!それに綾香ちゃんも!大きくなったねー」
店に入ると、いかにも女将風の女性が森下と綾香を見てそう言った。白石と綾香が4人掛けの卓にすわり、森下が座りながら女将に聞く。
「女将さんも元気そうで何より……。それより、いつものってあるかな?」
「残念だけど全然手に入らなくってねぇ……、何せ天ぷらの油でも高いんだもの」
「そうか……、じゃあ何かあるものは?」
「えーっと……、魚介系ね。お寿司と、お造りと……鯨のステーキくらいかしら」
「じゃあ……どうする?2人が決めて良いぞ」
森下が白石と綾香に向き直って聞く。
「うーん……武くんはどうする?」
「鯨ステーキかな……、あとご飯があったらそれで良いけど」
「じゃあ私もそうしよ」
2人が見合って頷いたのを見て、森下が女将に注文する。
「じゃあ……鯨ステーキみっつとご飯が大盛りふたつと……並がひとつでお願い」
「はーい、じゃあ作りますね」
女将は注文をメモしてから厨房へ入って行った。
「あの……ここってなんのお店なんですか?」
白石が森下に恐る恐る聞く。
「ああ、ここは……食堂ってことになるのかな?……いまいち分からん、が美味しければいいだろう」
森下が肩をすくめて答える。白石は頷いて、目の前に置かれている箸を見つめる。
──竹のお箸……、手作り感があって良いな……。
そう考えている内に、厨房から女将が出てきてそれぞれの席に料理を運ぶ。
「鯨ステーキです……あとご飯ですね」
目の前に置かれた料理に白石は目を輝かせる。
──ほっかほかのステーキに炊き立てのご飯……ご馳走だなぁ。
「じゃあ……食べるか」
森下の呟きに応じて3人は箸を持ってご馳走をいただく。
「うまいな」
「……美味しい」
「おいひいー」
それぞれが料理の感想を言う。女将は満足そうに笑い、3人の食べっぷりを眺める。それぞれほぼ同じタイミングで食べ切り、空の茶碗と皿が3枚ずつ並ぶ。
「美味しかったよ。これ代金」
森下が卓にお金を置く。
「まいどあり!また来てね」
女将が笑顔で3人を見送る。
見送られた3人はすっかり暗くなった夜空の下、月に照らされた道を歩いていた。
「綾香、お前食べながら喋るなっていつもいってるだろう?」
森下が綾香に言う。
「良いじゃんちょっとぐらい」
「良くないんだってマナーってもんがあるんだ」
「良いじゃんちょっとぐらい」
「ダメなんだって」
言い合いをしながら森下はため息をついて白石を見る。
「白石君はこいつで本当に良いのか?」
「はっ、問題ありません」
「マナーの欠片もないぞ」
「はっ、問題ありません」
「問題ありませんしか言えないのか……?まぁいいか、お似合いだからな」
森下は半分呆れながら言う。その一歩後ろ、白石と綾香は目配せをして笑った。
──父親……ってこういう存在なんだなぁ。
少し森下をからかった白石は温かい感情が心に溜まる。父親が居ない白石にとってこのような経験は無かったのだから。
家に着いた3人は、門の前で待っている男がいる事に気づいた。その男は、森下を見た途端歩み寄って敬礼した。
「森下大将閣下!緊急のご報告があって参りました」
「分かった、話せ」
森下は顔を引き締めてそう言った。男は頷いて息を吸った。
「マッツウェーク島へ向かっている第二機動艦隊が先程、戦闘を開始しました!」
今回は本当に紹介するものがないです。
〈日律帝國〉
石原由美子。皇暦2508年3月31日生まれ、7歳。
女将。森下宅の近くの食堂(?)の店主。