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日律帝国最後の反抗  作者: mitotayo
帝都空襲
21/21

日律帝國最後の反抗21

mitotayo(みとたよ

お久しぶりです。2カ月以上空いてしまい申し訳ありません。色々あって執筆活動から離れておりましたが、これからまた少しずつ書いていきますので、よろしくお願いします……!

〈二十五章 焼け野原で見つけたもの〉

 夜が明けて、炭と灰の更地となってしまった蒲島の街を歩く人影があった。

 「酷いものだな……」

 白石武は無惨にも破壊され尽くした故郷の街並みを見回した。

 「うん、ひどいね」

 白石の隣を歩く森下綾香は相槌を打ち、白石を睨んだ。

 「レイブン皇国も、武くんも」

 白石は目を逸らした。

 「爆撃機を撃ち落としに戦いに行ったのは分かった。けど、クロちゃんを置いて行ったことの言い訳にはならないよ?」

 「…………」

 「武くんにとって最後の家族なんじゃないの?」

 綾香は今にも泣き出しそうな目で白石の横顔を睨む。白石はまだ目を合わせない。

 「武くん……もしかしてクロちゃんの事、もうどうでも良いと思ってない?」

 「っ……そんなわけ無いだろう」

 白石は苦虫を噛み潰したような顔でそう答えた。

 「……じゃあ!」

 「それでも行かないといけないんだ!」

 綾香の言葉を遮るように白石は叫んだ。

 「俺は軍人だ。だから……自分より国を優先しないといけない」

 「…………」

 「1秒でも出遅れたら負けるんだ。昨日の空襲だって、もっと迎撃が早ければ東湊に1発たりとも爆弾を落とさせなくて済んだかもしれないんだ……」

 白石は綾香と目を合わせた。

 「戦場とはそういうものなんだ。1秒も無駄にできない、だからどうしようも……」

 「でも、それでも!」

 今度は綾香が白石の言葉を遮った。

 「武くんはクロちゃんをお父さんに預けることくらいできたはずよ!」

 「それは……」

 白石は言葉に詰まる。

 「じゃあ、武くんが家を出たときお父さんはなんて言ったの?」

 「……何も言わなかった。俺も……何も言わなかった」

 綾香はため息を吐いた。

 「あなた達はほんっとに……」

 綾香は何か言いかけて口を閉じた。

 「……良いわ、今回は私が何とかしたからもう言わない」

 「…………」

 白石は綾香の顔色を伺うように恐る恐る顔を覗いた。

 「……なによ」

 「いや、何もない」

 「……もう怒ってないから」

 「……え?」

 綾香は立ち止まって呟いた。

 「……ばか」

 白石は怪訝そうな顔をした。

 「え……なんて?」

 「っ……なんでもない!」

 綾香は恥ずかしそうに顔を赤くして、白石の胸を殴った。

 「いたっ……やっぱり怒ってるよね?」

 「うるさい!」

 綾香はもう一度白石の胸を殴った。

 「いたい……」

 「怒ってないって言ってるじゃない!」

 綾香はそっぽを向いた。

 ──最近綾香の気持ちが全然分からなくなってきたな……。

 白石はふとそんなことを考えながら綾香のご機嫌を取ることにした。


 「あらら!森下さんの娘さんじゃない!」

 そのまま道を歩いていると、食堂の女将さんと出会った。

 「あ、おはようございまーす!」

 ──態度の切り替えがすごい……!

 さっきまでの態度とは打って変わって明るく振る舞う綾香を見て白石は僅かに引いた。

 「あと、この前来てくれた森下さんの部下の方じゃない!」

 「あ、どうも……」

 「おばさんはここで何してるの?」

 綾香は白石の言葉と被せるように言った。

 「空襲のあと片付けよ。全く酷いことをしてくれたものだねぇ」

 「そうですよねぇ」

 綾香と女将が談笑している間、白石はひとり辺りを見渡していた。

 ──俺が不甲斐ないばかりに……東湊と、ここに住む人達の生活を守れなかった……。

 白石の瞳には、焼け跡の前げ立ち尽くしている人、瓦礫をどかして誰かを探している人、地面に蹲って泣きじゃくっている人がそこかしこに居るのが見えた。

 ──俺が不甲斐ないばかりに、沢山の人達の命を守れなかった……。

 白石の視界が滲む。

 ──俺が不甲斐ないばかりに……、俺が……無能なばかりに……!

 白石の頬には涙が伝っていた。


 「ねえ、綾香ちゃん?」

 「なんですか?」

 「あれをご覧なさいよ」

 綾香は女将が指を指したほうを見やった。

 「……あ」

 「軍人さんはね、ああやって心の中で自分を責め続けるんだよ」

 「そうなんですか?」

 「俺がもっと強ければとか、俺は役立たずだとか、そういったことばかり考えるのさ」

 「…………」

 「うちの旦那もね、手紙でよく書いてんのよ」

 そう言って懐から封筒を取り出した。

 「これ読んでみなさいな」

 「わ、分かりました……」

 綾香は手紙に目を通した。


 晴子、俺はまた部下を失ってしまった。俺がもっと早く命令を出しておけば助けられた命なんだ。俺は何と無能な上司だろうか……。晴子は元気でやってるかい?俺が生きてる限り、陸からはレイ公共を本土に絶対行かせないからさ、安心しておいてくれよ。あぁ、また晴子の料理が食べたいものだ……。


 「どうだい?軍人なんてみんなこんなもんさ」

 「……そう、だったんですね」

 手紙を持つ綾香の手が震えた。

 「私は、武くんの事をなんにも分かってあげれてなかったんですね……」

 「普通に暮らしてるだけじゃ理解できないものさ、これからあの子の事を知っていけばいいのよ」

 綾香は手紙から目線を動かした。

 「もしかしたら、だいぶ深刻かもしれませんね」

 綾香の目線の先には、白石が立ち尽くしている。

 「……あの子の事、好きなんでしょ?」

 女将の問いかけに綾香は静かに頷いた。

 「なら、後ろから抱きしめてやりなよ」

 「えぇ!?」

 「そんくらいしないと、あの子が壊れちゃうよ?」

 「っ……分かりました」

 綾香は渋々頷いた。


 ──俺って何なんだ……、なんの為にここまでやってきたんだ……。

 そう思い悩んでいる俺の前を数人の女性の集団歩いていく。

 「あの子も誰か失くしたのかしら」

 「まだ若いのに可哀想よね」

 「私あの子見たことある気がするんだけど」

 「確か森下さんの所の」

 「だとしたら軍人さんなのかもねぇ」

 集団全員が心配そうに俺の顔を見てそのまま通り過ぎていく。みんな俺の事を見てる、きっと俺がこの街を守れなかったのを恨んでるんだ。そう思うと余計に涙が止まらない。

──何が撃墜王だ、街ひとつ守れなかったのに。何が天才だ、俺は何ひとつ守ることのできない無能だ……!

 「武くん」

 急に誰かに抱きつかれた。いや、こんな事するのは綾香しかいないか。

 「もう自分を責めちゃだめ、ね?」

 「綾香には分からない事だよ」

 「ううん、分かる」

 綾香は俺を抱きしめる力を強くした。

 「武くんが何でここまで泣いてるのか、分かる」

 「…………」

 「どーせ"俺は無能者だ"とでも思ってるんでしょ?」

 心臓が跳ねた。

 「……なんで」

 「今思えば簡単だよ、昔の優しい武くんはまだ心の何処かで生きてるんだよ」

 「違う、俺はもうあの時みたいに人に優しくなんて……」

 「できるよ!」

 綾香が俺の言葉を遮って叫んだ。

 「それができるから今武くんは泣いてるの!違う?」

 「…………」

 俺は、あの時とは違う。

 「目を覚ませ武!君は優しい人間だよ!」

 綾香の鼻声になった声が背中に響く。その声に、嘘偽りはないと思えた。

 「泣くな!泣いてたって何にもならないのは武も分かってるでしょう?」

 「…………」

 綾香の腕の力が息苦しいほど強くなる。

 「自分を責めるな、白石武!」

 これはきっと俺を綾香なりに慰めてくれてるんだろう、そう思うことにした。自惚れでも良い、今はそう思いたかった。

 「……分かったよ」

 「……ほんと?」

 「あぁ、ここまで言われては仕方ない」

 背中からため息が聞こえた。

 「……ねぇ」

 「ん?」

 「私今、すっごい恥ずかしいの」

 背中から伝わる体温がすごく熱い。

 「私だけこれじゃ恥ずかしいの」

 「そうか」

 綾香は腕の力を少し弱めた。

 「そうか、じゃないでしょ?」

 「……何がだよ」

 「…………いじわる」

 俺は小さくため息を吐いて、覚悟を決めた。

 「……いじわるで」

 綾香の腕の中をもがいて方向転換する。

 「悪かったな……!」

 「ひゃっ」

 俺は綾香に向き直って思いっきり抱き締めた。

 「……これで合ってるか?」

 綾香は返事してこない。それどころか、顔を上げてすらくれない。

 「もしかして、違ったか?」

 俺は離れようとした。

 「ダメ、離さないで」

 綾香の腕が思いっきり胸を締め上げてきて、滅茶苦茶息苦しい。

 「合ってるよ、武くん」

 綾香が顔を上げた。林檎(りんご)みたいに赤くなった可愛い笑顔で、こう言った。

 「やっと……振り向いてくれたね」

 食堂の女将さんについて

 食堂の女将、晴子さんは皇暦2515年で64歳、日律帝國が惨敗した第一次世界大戦も経験しています。夫は第一次世界大戦でも陸軍で参加したのですが、どうやら臆病らしくあまり活躍できず……。夫曰く、「俺は内地で事務作業向き」だそうです。晴子さんはもう自分の住む街が焼け野原になるのは慣れっこ、のようです。

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