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日律帝国最後の反抗  作者: mitotayo
帝都空襲
20/20

日律帝國最後の反抗20

mitotayo(みとたよ

小出しにしていた所もありましたが、気づいたらエピソード数が20になってました。飽き性の自分がここまで書いたとは私自身とても驚いています。節目とかそういうものではありませんが少し嬉しく感じています。

〈二十四章 森下和重の苦悩〉

 「綾香……そんな所で一体何をしているんだ?」

 森下和重は落ち着いた表情で自分の娘に問いかけた。

 「由美子ちゃんがお母さんとはぐれたって言ってたから探しに来てたの……!」

 綾香が言い終わると同時に森下の後ろの方にあった木造の家屋に、焼夷弾が炸裂したのか爆発して燃え上がった。

 「……時間がない。早く防空壕に戻りなさい」

 森下は少し考えたあと綾香に言った。

 「そ……そんな!……私、残って探すもん!」

 綾香はそう言って走り出そうとしたが、森下が腕を掴んで離さない。

 「お父さん離して!離してよ!」

 「お前のお人好しな性格はきっと母さん譲りだろうな……。自分の危険を顧みずに他人ばかり助けようとする」

 「何が言いたいの……?」

 「たとえ他人を助けようとして自分が命を落としたとしても、それすらも割り切って考える」

 「…………」

 「それなのに他人の事は割り切れない」

 「……だから何よ!」

 綾香は掴んだ手を振り払おうとした。

 「私はな、お前に母さんみたいになってほしくないんだ」

 「……え?」

 「綾香……この際言っておくが、お前の母さんはただ空襲で死んだわけじゃない」

 「…………え?」

 「母さんが空襲ごときで簡単に死ぬはずが無い……そう思っていたんだがな」

 「…………」

 森下は悲しそうな表情で綾香を見る。

 「お前と同じだよ。近所の子供がお母さんとはぐれたって言って泣いていてな、それを見て防空壕から飛び出して行ったんだ」

 綾香の腕を掴む力が強くなる。

 「私はお前のおもりを頼まれてな、空襲が終わったあとすぐに母さんを探したけど……、見つからなかった」

 「…………そんな」

 森下は今にも泣きそうな顔で綾香を見る。

 「……だからお前もそうなるんじゃないかって思ってな、行ってほしくないんだよ」

 綾香は森下の顔を見た。

 ──本当に私のことを心配してくれているんだと思う……。けど……、

 綾香は口を開いた。

 「だけど、私は由美子ちゃんのお母さんを助けたい」

 「…………」

 「もしかしたらどこか違う防空壕に逃げただけかもしれない。それでも私は探しに行きたい」

 「……たとえそれでお前が帰らぬ人になったとしてもか?」

 「…………うん」

 「お前が死んだら白石くんはどんな顔をすると思う?」

 「…………」

 綾香は分かっていた。自分が死んだら白石がどうなるのか、白石がどんな事をするか、なんとなく察しがついていた。

 「お前は若いし、悲しんでくれる人もいる」

 木造家屋を音を立てて崩れ始めた。綾香と森下が居る道沿いに建っている建物は今にも燃え広がりそうな家屋ばかりだ。

 「もう一度言う、時間がない。綾香は防空壕に戻りなさい」

 「……え?」

 森下は何か覚悟を決めた顔で続けた。

 「由美子ちゃんの母親は私が探すから」

 「いや……嫌よ!私も探す!」

 「いいから言うことを聞け!」

 綾香は驚いて押し黙った。普段は温厚な父親が初めて綾香に怒鳴った瞬間だった。

 「親の言う事は聞きなさい。それが自分にとって到底納得できないことだとしてもだ」

 「…………はい」

 綾香は防空壕に向かい走り出す。綾香の目尻には涙が光っていた。

 「……悪く思うなよ、綾香。何もまだ若いお前を失う必要はないんでな」

 森下は綾香の最中を見送ってから空を見上げた。


 「まさかここまで卑怯なことをするとはな……。見損なったよ」

 白石達が最初に迎撃していた囮も合流したのか、B42は20機余りに増えていた。

 「戦争に参加していない大勢の民衆に危害を加えるとは……。この報い、いつか必ず…………」

 怜軍のB42爆撃隊は残りの焼夷弾を投下しながらそのまま西に向かって飛んでいく。その機影を睨みながら森下は歩き始める。森下の腕時計は、既に午後10時を回ろうとしていた。

 「石原さーん!何処かに居たら返事をしてくれー!」

 まだ焼夷弾の雨が降り注いでいる中、森下は由美子の母親を探す。

 「いしはらー!」

 森下は呼びかけながら近場にある蒲島川に向かった。蒲島川につくと、森下は河川敷を見やった。

 「なっ…………」

 川には火に巻かれて川に飛び込んだのか、いくつもの焼死体が浮いていた。

 「レイブン皇国のクズ共が…………」

 悪態をついて森下は蒲島川沿いに歩き始めた。道を挟んで川の反対側は完全に業火に包まれた住宅街だ。

 「…………」

 森下は道の端を見るといくつもの遺体が転がっていた。煙を吸って倒れたのか火傷の少ない遺体ばかりだ。森下はその遺体の顔を一人ずつ確認していく。苦しそうな顔、泣いている顔、絶望した顔……、森下は目をそらしてしまいたい気持ちを我慢して確認していく。

 ──いないな……。石原の事だから川沿いに逃げたものだと思っていたんだが……。

 森下は一つ息を吐いてまた歩き始めた。ふと川を見ると何か動いているのが見えた。

 「もしかして生きている者が居るのか?」

 森下は近くの階段から河川敷に降りた。広い河川敷にはやはり火傷のひどい遺体がたくさん横たわっている。

 「ん…………」

 森下はひどい匂いに顔をしかめながら何かが動いていた場所に向かった。

 「…………猫か」

 そこにいたのは毛が少し焦げた三毛猫だった。

 「まだ子猫だな……」

 三毛猫はにゃんと鳴いて森下の方に駆け寄って足に頭を擦り付けている。

 「…………、仕方ない」

 森下は三毛猫の小さい体を抱き上げて、軍服の横腹あたりにある大きいポケットに入れた。三毛猫はポケットから顔を出してあくびをする。

 「……ふふ、可愛いものだな」

 森下は少し口元を緩めてそう呟き、歩き出した。

 「…………そこに、だれかいるんですか?」

 森下の背後からそんな声が聞こえた。森下は振り返って声のした草むらに向かった。

 「ああ、居るぞ」

 「よかった、もう誰も来ないんじゃないかと思っていました」

 「怪我をしているのか?」

 「ええ、もうそろそろ限界に近いのです」

 「分かった。すぐ軍病院に連れて行ってやる」

 「いえ、その必要はありません。もう手遅れですから」

 「…………」

 森下は押し黙った。暗闇と草で顔は見えないが、その人物に察しがついていた。

 「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」

 「……ああ」

 「私の名前は石原沙都子(いしはらさとこ)と申します。貴方の名前は?」

 「…………森下和重だ」

 「……だと思った。やっぱり貴方なのね、和重」

 「ああ、不思議なものだ」

 「けど、腐れ縁もここまでね」

 由美子の母親、石原沙都子は残念そうにため息を吐いた。

 「ふん、沙都子らしくないな」

 森下は沙都子をおぶった。

 「ん?この子は…………」

 森下は沙都子の横で倒れている小学生くらいの男の子をみてそう言った。

 「由美子とはぐれて、私1人で逃げている時に出会ったのよ」

 「…………沙都子は昔から何も変わらないな」

 「当たり前……よ」

 沙都子が顔をしかめた。

 「大丈夫か?」

 「言ったでしょ、もう限界に近いって」

 森下は静かに頷いて少年を抱き上げた。

 「とにかく2人とも重症であるのは間違いない。軍病院は一応空襲の被害は受けていないようだから、そこまで連れて行く」

 「悪いわね」

 森下は階段を上がり道に出た。

 「何年ぶりかな、沙都子と2人で話すのは」

 「まあ、2人だけって言うなら20年ぶりくらいかしらね」

 「あのときは若かったな、お見合いなんて何回したことか」

 「お互いその沢山あったお見合いの中の一つの出逢いに過ぎないのに、何故ここまで縁があるのかしらね」

 「さぁな、そんな事は誰も知らんよ」

 森下のポケットの中で三毛猫が鳴いた。

 「和重、貴方一体何処に猫入れてるのよ」

 「ふん、さっき河川敷で拾ったんだ」

 「貴方も昔から変わってないわね」

 沙都子は微笑んだ。

 「あのね、貴方はもう忘れちゃったのかもしれないけど、私はまだ覚えてるわよ。あの時貴方が言った言葉」

 「自分が言った言葉を忘れるほどまだ老いぼれちゃいないよ」

 「俺は軍人だ。戦争になったら死ぬために戦場に行く。どこか遠い所でくたばるかもしれない奴を、君は愛せるのかい?だなんて随分かっこいいことを言っていたものね」

 「ほっとけ」

 森下も少し口元が緩んだ。

 「あの時、私は何言ってるんだろうとしか思わなかったけど、今はその意味がすごく分かる」

 「沙都子の旦那は…………本当にすまなかった」

 「もう言わないで。貴方が悪いわけじゃないもの」

 森下は苦虫を噛み潰したような顔になった。

 「確か、巡洋艦の艦長だったのよね、あの人は」

 「そうだな。俺があの時………敵からの砲撃を食らった時、すぐにあいつを艦橋から連れ出せば助かったんだ……」

 「でもそれは結果論じゃない。起きてしまったものはしょうがないわ。」

 「…………そうだな」

 森下の眼の前には蒲島飛行場が近づいていた。

 「久々に沙都子と話せてよかったよ。ほら、もう軍病院は近い」

 「そう……。私は助かるのかしら」

 「ここには名医がいるからな、きっと大丈夫だ」

 そう言って森下は病院の玄関を上がった。

 「む、和重じゃないか」

 森下が入るとすぐに白い髭を生やしたいかにも老人に見える男が出迎えた。

 「やあ、おじさん。元気にしてた?」

 「うむ、わしは元気いっぱいじゃが……、どうやらお前さんが連れて来た人達はそうでもないらしい」

 「ああ、急いで治療してほしいんだ」

 おじさんと言われた医者は沙都子と少年を見た。

 「ふむ、火傷が目立つな……分かった。わしが責任を持って治療しよう」

 「お願いする」

 医者は看護婦を呼んで2人を病室に運ばせた。

 「ありがとう、和重」

 「ああ。由美子ちゃんが待ってるんからすぐに治してしまえよ」

 「……ええ、頑張るわ」

 森下は2人を見送ってから男と向き合った。

 「それでおじさん。あの2人は助かるのか?」

 「…………あの少年の方は軽症だから問題ない。だがあの女性は少し気がかりなことがあってな」

 「一体何が気がかりなんだ?」

 医者は少し言いづらそうに口を開いた。

 「うむ……あの女性、火災で崩れた建物……恐らく木材だろう、その……だいぶ細いし小さいが、胸に刺さっておった」

 「…………え?」

 「あの様子だと恐らく肺も貫通している可能性がある。」

 「じゃあ沙都子は…………」

 「ああ、わしでも救えんかもしれん。勿論やれるだけの事はするが……」

 「…………分かった。」

 森下は大きくため息をついた。

 「だいぶ疲れているようじゃな」

 医者が森下の顔を覗き込んでニヤッと笑う。

 「大方娘さんに振り回されたんだろう?」

 「よく分かったな」

 「そりゃわしはお前さんの血縁者だからな」

 「んなこと関係ないだろう……」

 森下は今にも閉じてしまいそうな瞼を擦る。

 「ちと睡眠を取るといい。一部屋貸してやる」

 「ああ、ありがたく借りさせてもらうよ」

 森下はそう言って医者が案内した部屋に入っていった。

 ──……明日はきっと忙しくなるだろうな…………。

 ベッドに寝転がった森下はそんな事を考えながら睡魔に引きずり込まれていった。

石原沙都子について

石原由美子の母親、石原沙都子の旧姓は「近衛」。由緒正しい家の娘です。10代後半から20代前半までの間に数え切れないほどのお見合いをした中で会話が続いたのは、森下和重と結果的に結婚した旦那さんの2人だけでした。決して人見知りではなくただ男が嫌いなんだそうです(本人談)。逆に森下和重は有名な血筋とかではなく、家系三代に渡って軍の高官を務めていたのでその伝手で縁談が回ってきたようです。2人の第一印象は、森下が「お人形?」で、沙都子が「のっぽさん」でした。

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