日律帝國最後の反抗10
mitotayo
お久しぶりです。諸事情でかなり投稿が遅くなってしまいました。中途半端な所で区切ってしまいましたが、出来るだけ早く続きを出すつもりですのでお許しください……。
〈十四章 海戦の始まり〉
皇暦2515年7月18日午後3時21分。怜軍機動艦隊は遂に第二機動艦隊を航空機の航続距離範囲内に捉えた。
「エンタープラネット、ホレステルに伝達。攻撃隊は直ちに発艦、目標は敵艦隊の殲滅だ」
レイブン皇国の大東海機動艦隊司令官、マイク・スレーブ・ヒルチャーの号令によって、ウォール島沖海戦の火蓋が切られた。
「潜水艦、甲11より入電!怜軍艦隊より航空機が多数発艦した模様!総数、約40機!」
「全艦に艦隊防空に徹するように伝えろ。マッツウェークの様に各艦が孤立してはならない。孤立した艦艇から狙われるぞ」
日律帝國の第二機動艦隊旗艦「朝日」の艦橋では、真田三郎が険しい顔で命令を出していた。
──やはりウォール島には間に合わないか……。援軍もすぐ近くまで来ているはずだが、なんとも間が悪い……。
「真田中将、ウォール島に航空支援を求めてはいかがでしょうか?」
真田の思考を断ち切るかの様に参謀が提案をした。
「秋山中佐か……」
真田は秋山に目線を向ける。
「ウォール島からこの海域まではおよそ300キロメートル。ウォール島に配備されている戦闘機は陸軍の二式戦闘機です。航続距離は十分ですし、怜軍の航空機にも対抗できる性能を持っています。空母を失った今、頼れるのはウォール島所属の航空隊のみです」
秋山は真田と目を合わせて説明する。
「……分かった。ウォール島基地司令部に航空支援を要請してくれ」
「はっ」
真田は秋山を信用することにした。
「第二機動艦隊より電信!航空支援を要請する、とのことです!」
ウォール島基地司令部では、先の電信が届いたようだった。
「了解した、と返信しておけ。……戦闘第三航空隊、第四航空隊を発進させる。一秒でも早く第二機動艦隊に向かわせろ」
その指示が出されてから数分後、ウォール島からは三十機以上の二式戦闘機が飛びたっていった。
「敵の迎撃機が居ない戦闘なんか楽ちんだな」
怜軍機動艦隊から発艦した艦上爆撃機「LSG、ロス・ストロンガー」の編隊の無線からそんな声が聞こえた。
「上のヤツらも敵を舐めているんだな。護衛機がエンゼルタイガー10機ってさぁ」
今度は違うパイロットが嘲笑の混じった声でそんな事を言う。
「まぁ分からんこともないがな。敵に空母が居ないのを知ってるのに護衛機を出すなんて戦力の無駄使いだ」
「へへっ、違いねぇ」
無線の中で小さな笑いが起こる。
「お前ら私語に無線を使うな!作戦中だぞ!」
「しかし隊長。現に敵の迎撃機は居ないんです。ちょっとくらい良いじゃないですか?」
隊長の注意をものともせず、食い下がる部下。敵に対する警戒心は皆無だった。
「ん?あの雲の後ろ、なんか居なかったか?」
談笑しつつ飛行し5分ほど過ぎた頃、1人のパイロットが無線を通して味方に問いかけた。
「え?すまん見てなかったわ」
「そうか?気のせいじゃないか?」
どうやら誰一人見ていなかった様だ。
「おっかしいなぁ……。確かに居た気がするんだけど……おっ?」
LSGパイロットの目線の先には、イルカのノーズアートが書かれたエンゼルタイガーが上昇していく姿があった。
「あの機影……怜軍のものでは無かった……」
イルカのノーズアートの機体を操縦するアウグレット・フェルトはそう呟いた。
「おかしい……。オールトラニア空軍の機体がここまで来れるはずもない……。だとすると」
アウグレットの脳裏に1つの国旗が浮かんだ。
「……日律帝國……っ!!」
不意に操縦席が暗くなった。アウグレットは息を呑むと同時に上を見上げる。そこには、
「日帝……陸軍……だと」
ウォール島から飛び立った二式戦闘機の編隊が高速で後方へ過ぎていった。
「っ……なんてこった!」
アウグレットは180度旋回して二式戦闘機の後を追い始めた。
「くそっ、なぜ今まで気づかなかったんだ!ウォール島の日帝陸軍機がここまで足を伸ばせるなんて!」
アウグレットは悔しさを滲ませながらも懸命にエンゼルタイガーを駆って二式戦闘機を追いかける。
「何故だ?480km/hを超えているはずなのに一向に差が縮まらない……!どれだけ速いんだ!」
アウグレットは無線の有効圏内に入ると大声で怒鳴りつけた。
「敵だ!日帝陸軍機が迎撃しに来た!真正面だぞ!」
無線内が慌ただしくなるのと同時にアウグレットは高度を下げて退避した。
「敵だ!日帝陸軍機が迎撃しに来た!真正面だぞ!」
いきなり無線から大声で怒鳴りつけられた怜軍パイロット達は、まさに混乱しかけていた。しかし、混乱は一瞬にして悲鳴に変わる。
「うわぁぁ!本当に来たぁ!」
「たった助けてくれぇ!死にたくねぇ!」
「くそっ!応戦だ!各個に敵機を追いかけろ!」
「早すぎる!追い付けねぇ!」
二式戦による一撃離脱によって、怜軍の戦闘機隊は一気に半数を削られた。攻撃隊の損害はまだ小さいが、離脱した二式戦が反転してもう一度一撃離脱を仕掛けた。
「させるかっ!」
アウグレットは反転した二式戦を見てすぐさま機首を上に向けて上昇に転じた。
「よしっ、ドンピシャ!」
二式戦が第二撃を始める直前にアウグレットは十五ミリ機関銃の引き金を引いた。
「まずは2機!」
十五ミリ機関銃を翼に受けた2機の二式戦は、1機は右翼がもげて錐揉みを起こし、もう1機は左翼から燃料が噴き出して燃え上がり、しばらくして爆散した。
「そうか……!速度が速いのも、機動性が高いのも、装甲を犠牲にしてるから出来る技なんだ!だったら……」
何かを思いついたアウグレットは、無線機のマイクに口を近づけた。
「こちらアウグレット!敵機は高速かつ機動性が高いが、装甲が薄い事を確認した!多少照準からズレていても撃った方が良いぞ!」
言い終わると同時に視界に映った二式戦に片っ端から銃撃を加える。機体が進む先に十五ミリ徹甲弾を注ぎ込み1機ずつ撃ち落としていく。
──さっさと諦めて帰ってくれ!
アウグレットは心の中で叫ぶ。まるで味方を案じるかのように。
「なっ!」
一瞬の隙を突かれ、アウグレットの後方に二式戦が回り込んできた。
「ああもう!」
アウグレットは苛立ちながら機体を捻って急降下を始める。
「付いてくるか!?」
アウグレットは後ろを振り返るが、二式戦は追いかけてこなかった。それと同時に残っている二式戦が全てウォール島に向かって帰っていった。
「敵は撤収した。各機、高度6500メートルを飛行している攻撃隊と合流する様に」
「ふぅ」
無線から隊長の声が聞こえ、アウグレットは一つため息をついて、高度6500メートルまで上昇を始めた。合流後、アウグレットは、6機のエンゼルタイガーと8機のLSG、そして5機の「ESG、エス・リベンジャー」を失ったことを知った。
新しく登場したオールトラニアについて少し説明。
オールトラニアはこちらの世界を言う所のオーストラリアによく似ています(特に名前)。歴史背景もある程度はオーストラリアに近いですが、オールトラニアの場合は現地の先住人がある程度の秩序を持った政府を持っていたことからブイリル帝国が政治を支援する形でオールトラニア政府が確立しました。