シンデレラは離婚したい!〜階段で追いつかれました、王子が意味わかりません〜
「待ってください!」
「ご、ごめんなさいっ! 私っ!!」
時計が12時を打ち始めてしまった。魔女の魔法が解けてしまうっ!
焦った私は、急いで王城から出て、階段を駆け下ります。靴が片方脱げてしまいましたが……しょうがありません。なりふり構っていられませんもの。
そんな風に焦っていると、目の前に王子様が。
「靴を落としましたよ」
「え?」
今、お城のドアの前にいましたよね? どうしてここに?
予想外の展開に理解が追いつかず、足がもつれて階段から転げ落ちました。
そして強く頭を打って思い出します。
これは童話の世界で、私はもう何度もシンデレラを繰り返していることを。
*
元々、私は普通の大学生だった。
『あーあー、シンデレラはいいなぁ』
彼氏の浮気で失恋したばかりの私は、飲み屋で親友に散々愚痴を言った後そう溢す。なんとなく、私にとってシンデレラは幸せな女の子の象徴だった。小さい頃によく読んでいたからかもしれない。
『えーでも虐められるんだよ?』
『それでも最後は勝手に見初められてスパダリと結婚でしょ? ……結婚といえばあいつさーー』
飲んで、飲んで、飲んで。
泥酔した状態で飲み屋を出て、帰っている途中に居眠り運転のトラックに轢かれ、そのままあの世行き。
その後は前世の記憶ありなしを繰り返しながら、何度も何度もシンデレラになってきた。話ごとに相手も世界も少しずつ違くて、さすが名作といった所だ。
それでも話の大筋だけは変わらない。今回も、同じ風に落としてきたガラスの靴で見つけられてハッピーエンド……のはずだった。
*
ところが今回の王子は瞬足だった。あの数分で私に追いつき、落とした靴をその場で渡してきた。いくらなんでも瞬足すぎる。某メーカーの靴でも履いていたんですか?
倒れた私を王子は横抱き……ロマンを考えるならお姫様抱っこする。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ……。っ魔法が!!」
手袋が消え、ティアラが消え、ドレスがボロ服に変わってゆく。
ああもうおしまいだ。作者出てこい。私にクリエイティブな頭はないんだけど!? どうすればいいのよ!
「……美しい」
「はい?」
思わず聞き返してしまう。
この王子、ボロ切れを着た女を美しいと言って、ジロジロと舐め回すように見ている。しかも鼻息まで荒くなってきた。
王城の外の大階段でみすぼらしい女を抱き上げて変態のように興奮している王子。こんなの幼児に見せられない絵面だ。
「結婚しよう」
「何故ですか!?!? ……っ頭が!」
さっき頭を打ったばかりなのに大声を出しすぎた。猛烈な痛みとともに意識が落ちてゆく。
「い、嫌……です……」
そうして気がついたときには、王城にいて。事情は全て知られている上に、囲まれていた。起き抜けに婚姻届を書かされ、次の日には結婚式。意味がわからない。
……けれど、もっと意味がわからないのは王子だった。
「君に着てほしい服があるんだ!!」
そう言って王子が初夜に持ってきたのはあちらこちらが破れたボロボロの服。特殊プレイすぎませんか?
「あの時私は気づいたんだ。君は汚い格好が世界一似合うと!!」
本当に意味がわからなすぎる。
「さあ、着てくれ!!」
その場で吐いた私を許してほしい。不可抗力だ。というか吐いてくれた私の体に感謝したい。これじゃあゲロデレラ? もう物語が破綻しているのだし気にしない。
こうしてゲロデレラになったおかげで、初夜を回避した私の最初にしたことは、離婚届を手に入れることだった。今度は追いつかれないように、部屋に置いてこっそり逃げ出す。
特殊プレイ好きの王子となんて結婚してたまるか!!!
塀を登り、柵を乗り越えて、林を抜けて。こうして実家の前に戻ってきた。
ああなんてホッとするのだろう。
家に入れば、いつも通りの醜悪な顔三人組がいる。
「シ、シンデレラ!? どうしてここに!?」
こんなに顔も声も意地悪な継母が女神様に見える。後ろにいる義理の姉でさえ神々しい。
「ここでもう一度こき使ってください!!」
酔った私へ。世の中にはこんなシンデレラもいるようです。シンデレラになっても碌なものじゃありません。
一方その頃、王子は離婚届を見つけて破り捨てた。シンデレラを連れ戻しにくるまで、あと三分。
読んで頂きありがとうございました! こんなイかれた話ですが、普段の連載では海鮮を食べる元悪役令嬢の話を書いております。
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