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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第四章:一般人男性、入学する。
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第四章:その19

購買部を名乗る大型スーパーを出た俺たちが次に向かったのは、競技場。


「ドームじゃねえか」


お出しされたのは半球形の屋根に覆われた巨大建造物。

所謂ドーム、土地の広さを表現する際に単位として使われてそうな建物である。

この世界は何でもあるなという感想と、この学園は色々ありすぎだろという感想が同時にやって来た。


「アーカニアドームとか帝国ドームとか、そんな名前?」

「いえ、特に名前はありません。ただ競技場としか」


まさかの名無しドームである。


俺の世界だと何億かで命名権売ってそうなシロモノなのに名無しかよ。

さっきのスーパーも「購買」って名前らしいしこの世界、あるいはかこの国の人々は建物の名前にこだわりがないんだろうか。

いやでも王城にはヴェールドメインって名前つけてたな、何故それでこういう建物には名前がついてないんだ。

この世界に生きる連中の感性がよくわからない。


「では最後に訓練場に向かいましょうか」


そして残念ながらドーム見学はここで終わり。

中も気になって仕方ないが、何でも大規模清掃中とかで本日立ち入り禁止で見物不可能。

実に残念である。

何をやるための場所なのかからしてわからないが、きっと今後見に来る機会はあるはずなのでその時を楽しみにしておこう。


そうしてアンナさんに連れられて向かった本日最後の目的地。

そこには体育館らしきものを含む何棟かの建物、そして壁やフェンスに囲まれたいくつかの区画がある広大なエリアが存在した。

建物はこれまで見てきた巨大建造物に比べると小さく、華美な装飾がされているわけでもないが十分に綺麗で立派。

何と言うか、広さも含めてスポーツ強豪校の設備といった趣がある。


まあ行われてるのはスポーツの練習じゃなくて戦闘訓練なんだけど。

見た限り屋外だけでも魔法に剣術が、それぞれ生身と”魔法の杖(ワンド)”を用いてのものに別れて行われている。

恐らく屋内にもそれなりの人数がいることだろう。


「今訓練してるのって上級生ですか?」

「どうでしょう、外部の方と合同で訓練することもありますので」


学園の訓練場は帝国軍や貴族の私兵、傭兵たちもなにかの折に利用することがあるらしい。

何故かと言うと見学にしろ参加にしろ、後に戦場が身近になり得る生徒たちにとっては”現役”の人々から学びを得る貴重な機会となるからだ。

場合によっては学園側から打診して施設を利用してもらうこともあるそうで、軍事とスポーツの違いはあれど「まるで強豪校がプロのチームと練習試合をするみたいなノリだな」と思ってしまった。


「私たちはこれから教官に挨拶を───」

「アンナ、私”たち”って私も含まれてる?」

「当然でしょう、挨拶せずに帰るつもりですか?」


アンナさんの言葉に少尉は天を仰ぐ。

理由はわからないが、どうやら少尉はその教官とやらに意地でも会いたくないようだ。

少尉はその後もしばらくの間抵抗を続けていたのだが、結局「後で何か言われても知りませんよ」というアンナさんの言葉で折れた。


少尉の場合、その人に会いたくないのか誰とも会いたくないのかで言ったら後者じゃないかと思う。

最近この人かなり人付き合いが苦手というか嫌いだってのがわかってきたからなあ。


「失礼しました、ホソダ様。私たちはこれから以前お世話になった教官に挨拶しに行くのですが、こちらでお待ちになりますか?」

「ああ、良ければついて行ってもいいですか?」

「ええ、大丈夫です」


俺としては彼女にここまで会いたくないと思わせる「教官」なる人物への興味もある。

なのでついてくるなとか言われたらどうしようかと思ったが、さすがにそれは杞憂だったらしい。


かくして最近戻っていたテンションが再び急降下した風情のある少尉を最後尾に、俺たちは立ち並ぶ体育館の一つへと向かう。

元の世界でも見覚えがあるカマボコ型の建物なので、たぶん名称は体育館で合っているはずだ。

そして扉を開けた時、目に入ったのは中央で行われている一対一の立ち合い。


一方は剣、もう一方は槍。

いずれも木でできた得物を携えた青年が二人、激しく打ち合っている。

二人は頭にヘッドギア、身体にがっしりしたプロテクターという具合のフル装備だが、それが彼らの動きを阻害している様子はない。

おそらく見た目に反して相当軽いのだろう。

俺には剣術だの槍術だのの良し悪しはさっぱりわからないが、機敏な動きや攻撃の勢いを見るに二人ともたぶん強いんだろうなとは思う。

至極当然の話として、俺がやったら瞬殺されるだろう。


「なんだい、随分と懐かしい奴らが来たじゃないか」


声のした方を振り向けば、そこは銀色の髪をオールバックポニーテールにした女性の姿。

声の雰囲気からいってそれなりのお年のようだが、俺くらい高い背とスラッとした体型、そして細身ながら白いタンクトップから覗く筋肉がバキバキなせいで非常に若々しく見える。

というかただ立っているだけなのに威圧感が凄い。


「お久しぶりです、教官」


そう言って深々と頭を下げるアンナさんと舌打ちをしながら雑に頭を下げる少尉……って舌打ち?今舌打ちしたよなこの人。


「相変わらず礼儀のれの字もない奴だねアンタは」

「キミは相変わらず五月蝿いね」


え、なんでこんな険悪になってんの?


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