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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第四章:一般人男性、入学する。
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第四章:その15

「久しぶりじゃのう!久しぶりじゃのう!元気しとったか!?」

「アッハイ元気です」


とりあえずべしべし背中叩くのやめて欲しい、地味に力強くて痛い。


「お久しぶりですストーンハマー教授」

「おおクロップ少尉!相変わらずの美しさじゃのう!うちのカミさんの若い頃にそっくりじゃ!!」


おっさん既婚者だったのか。

そして過去形とはいえ少尉そっくりとかすげえ惚気だな。

もし本当だったら心底羨ましい。


それにしてもおっさん、教授かあ。

確かに砂漠でロンズデイルにそう呼ばれていた気がしなくもない。

ここにいるということはこの学園で教えているということなんだろうが、まるでイメージが湧かん。

俺にとってストーンハマーのおっさんといえば、土と埃にまみれながら現場で生き生きと動き回る変な人というイメージしかない。

実際”死の砂漠”やオーレスコでは服も髪もボロボロだったし。

ここではビシっとした正装なんだが、すげえ違和感がある。


「お久しぶりです、ストーンハマー教授」


次いで深々と頭を下げたのはロン毛とその取り巻きたち。

こいつらが頭を下げるってことは、やっぱり立場のある人間ってことなんだな。

すげえなおっさん、やっぱりイメージ湧かないけど。


「おお、サウスゲイト卿。君の評判は聞いておる」


───誰だこいつ。


ロン毛の方へ向き直り、奴の肩をポンと叩いたおっさんを見た瞬間俺はそう思った。

温和な笑顔、威厳に満ちた口調……つい数秒前まで俺の背中を笑いながら叩いていたおっさんと同一人物とは思えない。

ちなみに叩かれた背中はまだ痛いので、おそらく俺の背中にはおっさんの手形がついていると思われる。


「公爵家自慢の逸材、我々も大いに期待しておる……励むんじゃぞ」

「はっ!努力いたします!!」


なんか俺の周りの人間、感度良い切り替えスイッチ搭載してる奴多くないか?

今のおっさんなら学園で教鞭をとってても違和感はまったくない。

「誰だこいつ」という疑問が延々ついて回るのだけは困りものだが。


「ところでホソダくん!!」


はい、切り替わった。

どっちが素かといえば間違いなくこっちだろう。

明らかに生き生きとしてるし。


「学園長に君のことを是非紹介して欲しいとねだられておってのう!今暇か!?暇なら是非この機会に紹介したいんじゃがのう!!」


有無を言わせぬ勢いでおっさんが迫ってくる。

すごい圧だ。

暇だけど帰りたいです、とはとてもじゃないが言えない。

言える空気感も言うタイミングも存在しない。


「教授、私もご一緒して構いませんか?」

「おおメアリくん!もちろん歓迎じゃ!!」


機を逃さず、これ以上ないタイミングでメアリが会話に入り込み、あっさりと許可を得る。

それはいいしむしろ感心するくらいの会話スキルだと思ったが、しれっと俺が応諾する前提で話進めるんじゃねえ。

確かにロン毛の誘いを断るにはちょうどいいかも知れないが……などと思いながら俺はロン毛の方をチラリと見た。見てしまった。


引きつった笑みを浮かべたロン毛の、まったく笑っていない目。

それが俺の方を見つめている。


思わず目をそらす。

おそらく、俺がロン毛に何らかの感情をまともに向けられたのはこれが初めてだったろう。

これまでこいつは俺のことを邪魔な石ころ程度にしか思っていなかったはずだ。


───この野郎。


ロン毛の俺に対して今抱いている思いを言葉にするなら、きっとこんなシンプルなものになるだろう。


メアリとストーンハマーのおっさんは俺からするとなんかよくわからん嵐みたいな連中だが、こんなんでも肩書は公爵令嬢と教授。

恐らくロン毛のような格の貴族にとっても、会話すること自体に価値がある存在なのだろう。

二人に対する態度を見ればそれは容易く理解できる。

そんな二人が俺という平民を、公爵家の長男である自分より優先しているという現状は腹ただしいに違いない。


───勘弁してほしい。


マジで何もしていないにも関わらず、俺の平穏学園ライフは今日始まる前に終わった気配がある。

まあ元々そんなもんなかったのかもしれんのだが。

もうなるようになれって感じだ。


「それじゃあ行こうかのう!!」


指が食い込みかねない勢いで、ストーンハマーのおっさんが俺の肩を握る。

確かになるようになれとは思ったが、せめて俺の返事を待ってから行動決めてもらえないだろうか。

俺まだ行くとも行かないとも言ってねえんだよ。

あと引っ張らないでほしい。おっさん力が結構あるからガチで痛い。


「それではごきげんよう、サウスゲイト卿」


そう言って会釈したメアリが振り向きざま、ロン毛たちに見えないように舌を出したのが見えた。

こいつ、やっぱりわかっててやりやがったな。


ロン毛は表情が固まったまま、無言。

奴の背後の取り巻きたちは露骨にオロオロしている。


そのマイナスの感情を俺にぶつけるのは勘弁してほしいと切に願う。

だがきっと、その願いは叶わないだろう。


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