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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第一章:一般人男性、異世界に触れる。
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第一章:その5

「クロップ少尉、状況の説明を優先したまえ」


クロップという名前らしいエルフが剣に手をかけ、一触即発としか言いようがない雰囲気が支配する場にロンズデイルの声が響いた。


「命令だ」


良く通る声だった。

そして、威圧感がある。


この場に至るまでのロンズデイル、柔らかな雰囲気を纏った男という印象は彼の一側面でしかなかったのだろう。

”出来る男”というイメージはそのまま、むしろ補強されたとすら言える。

めっちゃ部下を使うのが上手そう。


「……間抜け面の男の横に、屈強なオーガの思念体が」


警戒は解かぬまま、ベルガーンに鋭い視線を向けたままクロップさんが言葉を紡ぐ。


間抜け面って俺か。

いや否定は出来ないけども。


『エルフの小娘よ、余の姿は見えているようだが声はどうだ?』

「その腹立たしい物言いもちゃんと聞こえているよ」


腕を組み、挑発的な笑みを浮かべるベルガーン。

それに対し抜き身の刃物のような視線と殺気を向けるクロップ。


怖い。


俺の位置関係が二人の間に挟まっている形ということもあって、怖いとしか言いようがない。

クロップさんはロンズデイルの指示がなかったら斬り掛かってるだろうという確信めいた予感があるし、もし斬り掛かれば確実に俺も被害を被る。

というか最悪死ぬ。


この空気感を第三者として体験しているのは俺だけだから、この場にいる誰とも気持ちを共有できない。

横にいる兵士二人とか、クロップさんしか見えないせいで全く状況がわからずただ困惑してるだけになってるし。


「状況の説明をお願いできますか?ホソダさん」


ここで俺。

ロンズデイルが説明を求めた相手は、まさかの俺である。


「えーっとですね……」


求められたのでとりあえず説明する。

必死に説明する。


実はずっと自称魔王のベルガーンさんが思念体で横にいたこと。

ここの人は誰もベルガーンのことが見えてないようだったのと、ただでさえ異世界人とかいう頭のおかしい立ち位置での自己紹介を強いられる状況でこれ以上頭のおかしいポイントを増やしたくなかったこともあり、説明せず黙っていたこと。

何なら俺にしか見えないのでこれから先も説明不要だと思っていたこと。


まずはこのあたりを謝罪しつつ説明していて気付いたんだが……これたぶんカマかけられたな。


そもそもクロップさんに説明させたあと俺にまで説明を求めたこと自体よく考えると謎だ。

それも「何か見えますか」という問いかけではなく見えていることが前提のような口ぶりで。


もしかすると俺は「何かよくないことを企てているのでは」くらいには疑われていたのかも知れない。

隠す意味もないし隠さなかったが、もし俺が誤魔化した回答をしていたらちょっとキツめの尋問に移行した可能性もある。

全力で謝罪しつつ説明したのがいい方向に向かうかはわからないが、理解してもらえることを祈るしかない。


あと説明したのはベルガーンが昔この城に住んでたらしいことと、城の名前がアルタリオンと言うらしいこと。

先程の流れの後、この期に及んで隠し事をするのは抵抗があったが俺の魔力云々や世界の狭間の話はちょっと言う方が危ない気がしたので伏せた。

特に魔力とかはバレたら研究所に直行、とかになる可能性があるし流石にちょっと怖い。


そして一通り俺の説明が終わる頃、緊張状態としか言いようがなかった場の空気はだいぶ弛緩していた。

その代わりと言わんばかりに俺に向けられる、何とも言えない視線。

クロップさんはもとより兵士たちすら、俺をかわいそうな奴でも見るかのような視線を向けてくる。

ロンズデイルの表情は変わらないが、逆に怖い。


『今回に関しては運がなかったな』


本当だよ。

まさか見えるやつがいるなんて思いもしなかったわ。


「まあいいでしょう。何かするつもりならとっくにやっているはずだ」

「そこは神に誓って大丈夫です」


言って思ったがこの世界に神様っているのかな。

まあいなくてもニュアンスが伝われば良いやと思おう。


とりあえず、どうやら疑いが晴れたわけではないにしても全力で警戒すべき存在ではないとみなしてもらえたらしい。

良かったと心から安心したせいで長い長いため息が漏れてしまった。


「ただ申し訳ありませんが明日以降、改めて貴方自身やこの城跡……アルタリオンについてお話を聞かせていただくことになります」

「はい」


そりゃそうなるよなって話だし、それで済むなら御の字だろう。

この城のことはベルガーンも語りたそうにしてるし、むしろ望むところかも知れない。


俺の身の上は……何聞かれるんだろうなあ。

答えられる質問だと良いんだが。


「彼用のテントを用意して差し上げろ、大切なお客様だ」


ロンズデイルの指示を受けた兵士がテントを出ていく。


「今日はゆっくりお休みください。明日からよろしくお願いしますよ、ホソダさん」

「はい」


こうして、俺の過去イチ密度の濃い一日が終わる。

まだ昼間なのでこの表現は早いかも知れないが、もう今日は何もしたくない。


疲れた、ただひたすらに疲れた。





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