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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第四章:一般人男性、入学する。
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第四章:その4

『随分と臭うな』

「……早かったじゃねえか」


「ふらりと」としか言いようのない足取りで部屋にやってきたベルガーンは開口一番、不快そうに呟いた。


ベルガーンなら大丈夫だろうという確信と、「見つけられなくて帝都を彷徨ってたらウケるな」というとても邪な期待。

それらがあって俺は不在のベルガーンを放置してこの寮に移動したのだが……大方の予想通りこいつはあっさりとここに到着した。


ちなみに少尉が何も言わなかったのは俺と同じ感覚だったのか、そんなことを考える余裕がある精神状態ではなかったのかはわからない。

正直今の少尉……部屋の隅で丸まって座っている姿を見ていると後者のような気がする。

もう帰って寝たほうがいいんじゃないかこれ。


『貴様一人探し出す程度のこと、造作もない』

「左様ですか」


ベルガーンの態度は勝ち誇っているとかではなく、ただ淡々としている。

正直少しは恨み言とかも言われるかと思ったがそれもない。

こいつにとっては本当に造作もなく、そして誇るようなことでもないんだろう。

「どうやって」というのは聞いてみたいが、聞いても教えてくれなさそうだし聞かないでおこう。


「酒飲んだの俺じゃねえからな」

『それはわかっておる』


とりあえず話を変える、というより弁明をしておく。

先程まで、昼間にも関わらず酒を浴びるように飲んでいたのはオレアンダーだ。

俺は飲んで……あまり飲んでいない。

確か空けたのは二本ほどだ、飲んでない部類だと断言できる。

酔ってもいないし大丈夫だ、飲んでない。


まあ俺が飲んだ量はどうでもいいな、オレアンダーの話をしよう。

奴は散々飲むだけ飲んで帰っていった。

最後まで「妾は忙しい」と言っていたが、忙しい奴はこんなところで昼間から酒を飲まないだろうと言いたい。

何にしても今部屋が酒臭いのは主にオレアンダーのせいだ。

何しろ冷蔵庫に押し込まれていた酒のほとんどを空けていったのだ。臭くもなる。

もう量に関しては感心を通り越してドン引きだよ、肝臓死ぬぞ。

窓も開けて換気しているが、いかんせん空けた酒の量が量な上に帰ったのがついさっきなのでまだ臭気が抜けきっていない。


ちなみに部屋はアンナさんが即座に綺麗にしてくれた。

もはや酒盛りの痕跡は臭い以外に存在しない。

今は空き缶の山を捨てに行っているが、とてもすごい手際だったと思う。

やはり本業のメイドさんはひと味違う。

オレアンダーももう少しメイドらしく……無理か、無理だな。


「それにしてもお前、毎回オレアンダーに会えないな」

『オレアンダーというのは……確か皇帝だったか?』

「そうそう」


ベルガーンとオレアンダーは何故か毎回すれ違う。

偶然とか間が悪いとかなんだろうが、さすがに三度目ともなると気になるものだ。


『そのうち会うこともあるだろう』

「まあそうだけどよ」


基本偉そうにしている、一人称からして偉そうな二人が出会ったらどんな会話をするのか純粋に興味がある。

想像しやすいのはオレアンダーがウザ絡みして、ベルガーンが迷惑そうにしている絵面だろうか。

まあオレアンダーにベルガーンの姿が見えるかどうかはわからんけども。


『ところで、ここが貴様の新しい住処という認識で構わんか?』

「そんな感じ」


魔導学園に通うことになったというのは既にベルガーンに伝えてあったが、さすがに寮の話はしていなかった。

何しろ俺自身が今日の出発寸前に知ったことだ、どうしようもない。


「一人メイドさんが来たから後で紹介するわ」

『余が見えればで良い』

「ごもっとも」


紹介したところでベルガーンのことが見えなければ何の意味もない。

そして正直言って望み薄だろうなとは思う。

何しろこれまでにベルガーンのことを認識できた者は、俺が知る限り少尉とメアリの二人だけ。

どういう基準で見えるのか俺にはよくわからないが、何にしてもかなり少ないを通り越してほぼいないと言っていい人数だ。

顔を合わせる機会も多くなりそうなアンナさんが見える側の人であれば喜ばしいが、可能性としては宝くじ以下ではなかろうか。


「ただいま戻りました」


そんなことを考えていた時、ノックとともにドアの向こうからそんな声が聞こえた。


「おかえりなさい」

「失礼いたします」


アンナさんは俺が促さないと部屋に入ってこない。

それに毎度深々とお辞儀をしながら入室してくる。

カラオケボックスの店員みたいに、歌ってようが踊ってようが構わず入ってくる感じで俺は構わないのだがそうもいかないのだろうか。

一応今度言ってみよう。


さて、そんな礼儀正しいアンナさんは顔を上げた瞬間、とても怪訝な表情を浮かべた。

視線の先にいるのは寛いでいる俺ではない。

いつも通り腕を組んで偉そうにしているベルガーンの方を、彼女は見ていた。


「……もしかして、見えてます?」


俺の問いかけに、部屋の隅で丸まっていた少尉も顔を上げアンナさんの方を見る。


「そちらのナイスバルクな方が、常人には見えないと噂の魔王様ですか?」


もしかしてアンナさんも変な人なのか?

突然そんな不安が俺の頭をよぎった。


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