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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第三章:一般人男性、皇帝に拝謁する。
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第三章:オレアンダーとベルガーンその2

三人称視点です。

『俄かには信じられんな、竜族が総じて弱体化したと言うには貴様はあまりにも強い』


ベルガーンから見たオレアンダーの強さは、これまでに見てきた数多のドラゴンたちと比べても強い部類に入る。

それも「特に」あるいは「群を抜いて」という修飾語がつく程に、だ。

さらに言えば、ベルガーンが知るのはドラゴンにとっての全盛期。

衰退だの破滅だのとはまるで縁遠い、圧倒的強者として世界に君臨していた時代だ。

当時のドラゴンたちと比して尚その評価を下さねばならない程強大なドラゴンが目の前に存在するような状況で、衰退だの破滅だのを信じられる者がどれだけいるだろう。


他のドラゴンは自身に向けられる恐れという糧を得られなくなったから弱ったと言う。

仮にそれを真とするならば、オレアンダーほどの力を維持するためには相当な量の糧を得る必要があるはずだった。

その点に関しても理屈が通らない。

人のフリをしながらどうやって───その疑問が頭に浮かんだ瞬間、ベルガーンの中で何かが繋がった。


「結論にたどり着いたようじゃな、聡い聡い。いや、これは妾の説明が良かったせいか」


そう言ってニヤニヤと笑うオレアンダーを見、魔王は舌打ちをひとつ。


人の身でありながら多くの恐れ、あるいは畏敬の念を得る手段。

それは、彼女が竜の姿のままであったならむしろ不可能な方法。

人間たちが持つ特性とも言える社会という概念、それを利用したのだ。

社会の中で長、王と呼ばれる存在ともなれば自国のみならず他国から恐れられるということも当然起こる。

かつて、他ならぬ魔王自身がそうであったように。


───大国オルランティアの皇帝。


その立場に、肩書に向けられる畏敬の念は果たしてどれほどのものか。


「妾はこう見えて昔は弱いドラゴンでな。生きていく術やら強くなる方法やら、必死に考えたものよ」


そして彼女はその方法にたどり着いた。

恐らくは賭け以外の何物でもなかっただろう。

何しろドラゴンという形を捨て、人間に混じって生きる必要があるのだ。

一歩間違えば糧を得る手段を失い衰えることになるし、下手を打てば簡単に死ぬ。

それでも現状維持という名の緩やかな破滅を良しとしなかった彼女は、そこに全てを賭けることを選び───そして勝った。


『どうやって玉座に座った、乗っ取ったのか?』

「英雄になれるだけの力を持ち、そしてならざるを得ない状況にいた男に手を貸した」


その男はオレアンダーの……ドラゴンという強力な存在の助けを得て偉業を成し遂げ、そして最終的に一国の王となった。

とはいえ彼は望んで王となったわけではなく、さらに言えば王宮よりも市井で生きるのを好むような性分。

逆に玉座を求めたオレアンダーに対し、彼はあっさりとそれを譲り渡した。

「お前の方が俺よりうまくやるだろう」などと言い放って。


『と言うことは、歴代皇帝とやらは全て貴様か』

「いつまでも同じ顔で居座れるわけがあるまい、妾は不老不死の魔王になりたいわけではないのじゃ」


影武者に適当に子を産ませ、それらしいタイミングになれば譲位という名目でその子に化け、入れ替わる。

オレアンダーはずっとその方法で見せかけの代替わりを行ってきた。

全ては「王は人間である」ということを演出するために。

同一人物がずっと玉座に在り続けているなどということが知られれば、その瞬間帝国は社会から弾かれると彼女は理解していた。

得体の知れない存在が統治する国として忌避されることになる、と。

名目上とはいえ皇帝の代替わりは、帝国を”人間の国”とすることは、それを避けるためにどうしても必要なことだったのだ。


「千年かかった、これほどの力を得るまでにな」


帝国から遠く、霊峰と呼ばれるある山で採掘される希少な水晶。

一般的な測定用水晶では測れないほどに強大な魔力を測定するために用いられる希少品。

過去にそれを割ることが出来た者は伝説、あるいは空想の中にしかいなかった。

彼女は長い年月をかけて、その領域に到達するだけの力を得たのだ。


「それを容易くやってのけたあの異邦人は何なのだ」


そして今度はオレアンダーが魔王に問いかける番。

彼女から見ても、細田隆夫という人物の有する魔力は常軌を逸している。

その力は異世界でも異質な存在だったのか、それともありふれた才能なのか。

いずれにしても彼の才能の根幹と由来を、どうしても彼女は知りたかった。


『余とて知らぬ』


しかしベルガーンはその問いに対する答えを持ち合わせていない。

隆夫がいた世界がどんな場所だったかについては既に聞いていたし、短い付き合いながら人となりについても理解している。

ただ肝心の神如き魔力、その由来と底がまるで見えない。

何しろそれは他ならぬ隆夫本人ですらわかっていないこと。

それを他人が推し量るというのも無理な話だ。


「フン、まあ今回はそういうことにしておいてやろう」


そう言って鼻を鳴らしたオレアンダーの顔には、不満と不信の色がありありと浮かんでいる。


「お主とはこれから長い付き合いになる故、いくらでも問いただす機会はあるじゃろうしな」

『何度問われても知らぬことは知らぬと、その頭が飾りでないなら早々に理解せよ』


敵意を多分に含んだ言葉の応酬。

二人の会話は、そこで終わった。


かくして帝国の夜は更けていく。

様々な思惑を覆い隠すように。


これにて第三章終了です。

多くの方に見ていただけているのは嬉しい限りです。

次回四章が書き上がりましたら投稿再開予定ですので、またよろしくお願いします。

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