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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第一章:一般人男性、異世界に触れる。
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第一章:その3

突然だが、降伏や投降のための動作には色々なものがある。


両手を広げ上にあげる。

頭の後ろで両手を組む。

それも立ったままだったり跪いたり。

地面にうつ伏せに寝るというのもあったはずだ。


俺が今やっているのは両手を頭の後ろで組んで跪く奴。

俺はそのポーズで抵抗の意思がないことを示しつつ、必死で命乞いをしている真っ最中だ。


「怪しい者じゃないし何も持ってない!」


強い強い警戒の色とともに銃を向けてくる複数人に向けての、届くかわからない必死の弁明。

若干どころではなくマジで泣きそうだ、怖い。

銃が本物ではなくモデルガンの可能性もワンチャンくらいはあるかも知れないが、俺のあてにならない勘が九分九厘本物だと告げている。


───どうしてこうなった。


愚痴とも後悔ともつかない言葉を脳内で呟きながら、俺はこの状況に至るまでの経緯を思い返す。


例の白銀の騎士を駆る魔導師に会うため、意気揚々と階下に降りた俺が目にしたのは……得体の知れない集団。

砂で薄汚れたシャツとズボンを身に纏った連中が城の壁や床の調査をしているというのは、その挙動やルーペやらメジャーらしき道具が目についたりしたのですぐに分かった。

正直ファンタジー感は皆無な光景で、一瞬某名作探検映画シリーズか似た作品の撮影にでも迷い込んだのかと思った程だ。


そんなわけで俺は予想外な見た目の連中を見て呆けていたし、同様に連中も突然現れた俺を見つけて固まっていた。

顔が「誰だこいつ」と言っていたので間違いない。


そうしてしばらくの間何とも言えない空気が流れたのだが……その沈黙を破ったのは俺でも探検家連中でもなかった。


「動くな!!」


そんな怒声とともに現れたのは”軍隊”としか言いようがない集団。


深緑色のヘルメットに、同色のボディアーマーとバックパック。

そしてアサルトライフルにしか見えない銃。

現代の軍人たちの格好をした連中を見た瞬間、俺はやっぱりこれは映画撮影にでも迷い込んだんだろうと思った。

ファンタジーらしくなさは悪化の一途、空気感は完全に戦争映画かパニックホラーのそれだと断言出来る。


そしてその”軍隊”が銃を向ける相手は、俺。

「動くな」というのも俺に対しての命令。

連中にとって俺は、紛うことなき不審人物だったのだろう。

否定する要素がまるでないし、そう思われても仕方ないと思う。


そしてそんな状況で俺がすべきことは一つ。

「跪いて手を頭の後ろで組め」という指示に従い、害意が全く無いことを示す、それだけだ。

というより他に選択肢はないと思う。

あるなら教えてほしい。


そして今に至る。

命乞い、届くと良いなあ。


『何をしとるんだ貴様』


俺が聞きたいよ。

本当に、どうしてこうなった。


存分に哀れみが込められた魔王の視線を浴びながら、俺はまたその問いを繰り返す。

というか魔王、兵士たちに自分が見えてないのをいいことに完全に他人事ぶってやがる。

心底羨ましいから代わってくれ。


「何者だ!何故ここにいる!」


そうこうしている間に兵士たちは俺を取り囲み、変わらず銃を突きつけながらそんなことを聞いてきた。


まずい。

その質問はまずい。

いや当然の質問なんだが、状況を好転させるような答えが用意出来ない。


「き、気付いたらここにいた!」


俺は正直に言った。

だが兵士たちは明らかに信じてくれてない、どうしろってんだ。


助けてくれ、せめて知恵を貸してくれとベルガーンの方を見れば、奴は物珍しげに兵士たちの装備を眺めている。

俺への心配どころか興味も存在しないらしい。

あまりにも酷いと思う。


「あー、たぶん信じてくれないと思いますけど、異世界から来ました」


仕方なく俺は説明を続ける。

とは言え説明したところで警戒は解けないだろう。

実際周りの兵士も、それを遠巻きに眺めてる連中も明らかに信じていない……というかもはや困惑して顔を見合わせている。


自分で言っておいて何だが、俺ならまず信じない。

というか突然こんなことを言い出す奴とは関わりたくもない。

この言動から想定される人物像はあんまりにもあんまりなのしかないんだから当然だ。


さっき俺は咄嗟に「怪しい者じゃない」って叫んだわけだが、言葉を重ねれば重ねるほど怪しさが増してる気がする。

正直泣きたい、誰か助けてくれ。


「そういうわけで当然何も持ってません……あ、水もないんですけど良ければいただけません?」

『薄々わかっていたことだが、貴様図太いな』


弁明の途中、不意にめちゃくちゃ喉が渇いてきたのでダメ元で要望も混ぜ込んでみたところまおからツッコミが飛んできた。

うるせえよこっちは必死なんだ。


「水を分けてやれ」


不意に、期待していなかった言葉が聞こえた。

えっ、今水くれるって言いましたか?マジですか?


声のした方を見れば、そこには軍服らしきものに身を包んだ男の姿。


男の年頃はだいたい俺と同じか少し上だろうか、刈り上げた金髪にキリッとした眼鏡、なんというかいかにも仕事ができそうな面構え。

そして顔もいい。


「よろしいのですか少佐」

「この状況で水を要求する図太さに免じてやれ」


なんというか、面と向かって図太いと言われると照れるべきか恥ずかしがるべきか反応に困る。

人間は極限状態になると本性が出るというが、俺はそんなに図太いんだろうか。


そんなことを考えながら兵士が差し出してきた青いペットボトル……らしきものを受け取る。

俺の知っているそれとは形や材質に微妙な違いがあるが、これはきっとペットボトルだ。


馴染みの動作で蓋を開け、中身を口に含む。

中身は紛うことなき水だった。

それ故に美味いし、ほっとする。

ようやく一息ついたと、そんな気分だ。


……いやまあ銃は向けられたまんまなんだけど。


「落ち着きましたか?」

「あっはい、ありがとうございます」

「それは良かった」


少佐と呼ばれた男がにこやかに微笑む。

やはり仕事が出来そうな男だ。


「私はこの調査隊の責任者、ウィリアム・ロンズデイルと申します。良ければお話を聞かせていただけますか?」

「そりゃあもう喜んで」


即答する。

そもそも断る理由は特にないし、何より水をもらった恩もある。


促されるまま、割と前向きな気持ちで立ち上がった俺は……流れ作業のように後ろ手に手錠をかけられ、拘束された。


『だから何をやっとるんだ貴様』


うるせえよ魔王、それはこっちが聞きたいことだ。

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