第一章:その2
「“ワンド“ってのは何だ? ロボット?」
白銀の騎士がサンドワームに肉薄したことで、ひとつ判明したことがある。
それは、騎士はおおよそ人間のサイズではないということだ。
サンドワームの口が俺やベルガーンの背丈と同じくらいの大きさなら、騎士はその倍━━━約四メートル程度はある巨人だ。
そんなサイズ感となると各種ロボットや某巨人型変身ヒーローしか浮かばない。
ファンタジー的には巨人族って可能性もあるな。
『“ワンド“というのは魔導師にとって触媒であり、剣であり、鎧でもある存在だ』
「てことは近くに魔導師がいる?」
『あれと同化している』
なるほど、“ワンド“ってのはそのまま“魔法の杖“のことか。
ベルガーンが言うには、“ワンド“と同化している間は魔法の威力も上がるらしい。
その状態での戦闘こそが、この世界における魔導師の戦い方なんだそうだ。
ということはあれはやっぱりロボット……いや、いやどっちかというとパワードスーツ的なものが近いだろうか。
たまに巨大ロボの登場するファンタジーを目にするが、ここもそういう世界観なんだな。
「俺の世界で魔法の杖って言ったら棒きれのことだが、この世界は派手なんだな」
『太古の昔はこちらでも棒きれのようなものであったと聞くが、余の時代では既に“ワンド“といえばあれを指していた』
どういう経過をたどれば“魔法の杖“の定義が棒きれからパワードスーツに変わるのかは興味がある。
機会があれば調べてみようと俺は心に決めた。
視線の先では”魔法の杖”……白銀の騎士の戦いが続いている。
その戦いぶりには華があった。
地面を、あるいは空中を滑るように素早く動きながら、流れるように攻撃を見舞うという動作。
そもそも美しい鎧の意匠と、白銀のそれが光を浴びた事による輝き。
何なら直球で「美しい」と言ってしまいたいほどに見入ってしまう。
「ところでサンドワームから出てるあの青黒い煙、何?」
剣に斬られ、突かれ、抉られ、深い傷を負ったサンドワーム。
しかしそんな状態にも関わらず、出血しているような様子は一切ない。
その代わりに傷口から立ち上っているのが、青黒いガスのような何か。
なんとなくダメージエフェクトっぽくは見えるが、何なんだあれ。
もしかして毒ガスとかそういうのだろうか。
『あれは魔獣を構成する魔力だ』
「サンドワーム、魔力で構成されてんの?」
『魔獣は狼や猪のような獣とは違う、あれらは血の通った生物ではない』
この世界には“魔石“と呼ばれる物質があり、それに自然界の魔力が一定以上流れ込むと魔獣が形作られるらしい。
地域や環境によって大きさ・強さなどはまちまちで、獣に似たものから怪物としかいいようのないものまで千差万別。
それでいて極めて狂暴という性質は共通する、はた迷惑な存在とのこと。
『そして魔石に我らや人のように知恵ある者が魔力を注ぐと“ワンド“が形作られる』
「つまりあれは天然と養殖の戦いか」
『言っている意味がまるでわからんが、おそらく違う』
違うのか、うまいこと言ったと思ったのに。
『あの魔導師はなかなかの使い手のようだな、“ワンド“の質も良い。サンドワームがまるで相手になっておらん』
実際、戦いは一方的なものだった。
サンドワームは白銀の騎士の姿など全く視界に捉えられていないだろう。
まあそもそも目という器官はないのかも知れないが、いずれにしても全く騎士の存在を感知できていないのは確かなはずだ。
明らかに攻撃を食らってから反応してるし。
やがて全身を切り刻まれたサンドワームが力尽き、ゆっくりと崩れ落ちる。
そして全身から青黒い魔力を吹き出し━━━いや、肉体が青黒い魔力となって、消えた。
こうして、戦闘は終わった。
この世界での戦闘を初めて観戦した感想は「実に見応えのある戦いだった」ということに尽きる。
手に汗握る戦いだったということもあるが、まるでゲームがそのまま現実になったような光景だったということもあって俺のテンションは爆上がりだ。
「よし、会いに行こうぜ」
『待て、何にだ』
ノリノリでそう言った俺に、ベルガーンが怪訝な顔を向けてくる。
いやこれ疑問形だが明らかに答え分かってるな、分かったうえで言外に『正気か?』と言ってる。
「魔導師様にだよ。こんな砂漠の真ん中で人に出会えるとか幸運もいいところだろ?」
俺は至って正気だし、冷静だ。
強いて言うならテンションは高いかも知れないが、このくらいなら誤差の範囲だろう。
そうして俺は足取りも軽く、何ならスキップでも始めそうなほどにノリノリで階下へと向かった。