第三章:その2
第二城壁、第三城壁とやらの話を聞いた俺はてっきり、門を抜けるとすぐにそれが見えると思っていた。
それこそ巨人が出てくる作品みたいな感じで。
だがどうやらそれは間違いだったようだ。
眼前に広がる緑豊かな平原の先に見えるのは地平線。
城壁も城も、全く見えないのである。
「いや広」
思わずそう呟く。
もしかすると第一城壁は万里の長城みたいに一方向を防ぐ形の防壁で、あの門は関所みたいなものなんだろうかと思って少尉に尋ねてみたところ、返ってきた答えは否定だった。
どうやら第一城壁は、帝都とその周囲にある広大な農地を取り囲むように存在するらしい。
確認のため横を向いてみたがやはり第一城壁はとんでもない、それこそ地平線まで続く程の長さがある。
どんな長さだよ、そしてどんな広さだよ。
というかこれ農地なのか。
そう思って外を見れば、なるほど確かに生えているのは雑草というより作物だし、所々用水路のようなものも見て取れる明らかに整理された空間だということがわかる。
のどかな風景なのは間違いないが、そこにファンタジーらしさはほぼない。
どうもこの世界……あるいはこの国では大規模農業とかいうかなり近代的なものが行われているらしい。
所々に建っている家や何に使ってるのかよくわからないデカい建物、あとはたぶん収穫物を保存するためのものと思われるタンクなども俺の世界ののどかな田園風景と酷似している。
俺の世界との違いがあるとすれば、農地を耕すか収穫するかしていると思しき変な機械だろうか。
なんだあの機械。
というか農耕に機械使ってる時点でやっぱりファンタジー要素は皆無だな。
色々と聞きたいことはあるが、少尉は第一城壁を越えてからずっとベルガーンと兵糧がどうの略奪がどうのと物騒な話をしていて割り込みづらい。
その手の知識は織田信長が野望を持つゲームの分くらいしかない俺が入っていい会話ではなさそうなので黙っているが、正直寂しい。
「それにしてもすげえなあ……」
窓から見えるのは小麦のようなものが植えられている畑と、その中に見える色々な案山子たち。
案山子の装いは騎士や魔法使いを模したものやピエロのようなもの、あとは大晦日の歌合戦に出てきそうなとんでもねえ装飾の奴まで様々。
その中に黒い胴体にカボチャの頭が乗せられただけの案山子もあって吹き出しそうになった。
異世界に来てまで反省を促されるとは思わなかったよ。
さておき、先程の第一城壁もそうだったが雰囲気が完全に「おいでませオルテュス」だ。
今街道沿いに掲げられていたデカい看板、書いてあることは全く読めなかったがアレにはきっとそんなことが書いてあるのではなかろうか。
それにしても窓の外に広がるのどかな光景は、第一城壁の時ほどテンションがあがるわけではないが不思議と飽きない。
先程の謎の機械もそうだが、見たことのない動物や鳥、あと得体の知れない巨大な植物とか訳のわからないものがけっこう多いのだ。
そしてそんな中に牛や馬みたいに見覚えのある生命体がいると、なんか妙に面白い。
まるで異世界に迷い込んだ気分……いや実際迷い込んでるんだけども。
あまりにも俺の世界と似通っている上に、今は車とかいう文明の利器に乗ってるせいで麻痺する。
「見えてきたよ」
「うお」
そうこうしているうちに姿を表したそれを見て、俺は思わず声を上げた。
恐らくは第一城壁と同程度の高さを誇る壁。
その向こうには塔ともビルともつかない、この世界ならではだろうって感じの高層建築がいくつも見て取れる。
壁と高層建築、どちらも大概圧巻だったが俺が声を上げるほどテンションがあがった原因はこいつらではない。
それらの中にあってそれらよりも強い……もはや圧倒的な存在感を放つ巨大建造物。
城、あれは間違いなく城だ。
意匠は元の世界で見た、海外にあるような城に近いだろうか。
ただそのサイズは縦にも横にもとんでもなくデカい。
少なくとも比較対象は実在するものではなく、創作物に出てくるような代物になる。
『あの城の名は?」
「ヴェールドメインって呼ばれてる」
隣から少尉とベルガーンの会話が聞こえたが、ほとんど頭には入ってこなかった。
城の出来がその国の国力を示すと言うなら、果たして帝国の国力はどんだけヤバいんだろう。
正直第一城壁の時点で相当だったようには思うが、その感覚はより強くなった。
───強き帝国。
その圧倒的な力を象徴するように、誇示するようにそびえ立つ巨大な王城。
俺はしばらくの間、そこから目を離すことができなかった。




