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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第三章:一般人男性、皇帝に拝謁する。
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第三章:その1

早朝にオーレスコを発った俺たちは、帝都オルテュスを目指し街道をひた走っていた。

先に街を発ったり留まったりで、来た時よりはその数を大幅に減らした車列。

あの巨大建造物みたいなトラックの姿もない。

何でもサイズがサイズなこともあってメンテナンスが大変なんだそうだ。


さてそんな車列が走る街道だが、これがまた非常によく整備されている。

整備されたといってもアスファルトで舗装されているわけではなく土の道だが、しっかりと固められているせいで車がほとんど揺れない。

そしてその上道幅が広いときた。

白線が引かれている訳では無いので正確には分からないしそもそも交通ルールも違うだろうが、俺の世界で言う片側二車線の道路くらいの幅はあるように思う。

正直、土の道を走っている感じは全くない。

かなり快適だ。

オーレスコを出てからの長い距離、ずっとこんな整備された道が続いているのは帝国という国が豊か故になんだろう。


「あとどれくらいで帝都?」


俺は助手席から運転席の少尉にそう問いかけた。

もはやこの位置関係もお馴染み、定位置と言っても過言ではないように思う。

後ろで座れもしないのに座ったポーズをとるベルガーンにも、車内に響き渡る野郎のハイトーンボイスにもデスボイスにももう慣れた。


……慣れはしたが、少尉の音楽の趣味はちょっと激しすぎるように思う。


「昼までには着くと思うよ」


俺なら途中で嫌になるほど長時間、少尉たちは一度休憩を挟んだだけで運転しっぱなしだ。

俺には真似できない、すげえ体力と集中力だと思う。

自分で運転してたら追加で二、三度は休憩を要求していたことだろう。

というか言うに言えなくて黙っているが、座りっぱなしも地味に辛い。

主に腰が痛い。

たぶん言えば休ませてくれるんだろうけど、自分で運転してるわけでもないので言い出しにくい。

そして時間だけが過ぎていく、という具合だ。


『あの城壁は何だ』


そんな時間がまたしばらく流れた後、それまで黙っていたベルガーンが唐突にそんな声を上げた。

それに反応し顔を上げれば遥か彼方、草原の向こうに確かに壁のようなものが見える。


「え、めっちゃ遠いよなあれ。デカくない?」


現在地からあの壁までは間違いなくキロ単位で距離がある。

にもかかわらず存在を確かに認識できる程度には高い。

しかもそれが俺の視界の端から端まで、とんでもなく長い距離続いているのだ。


「あれはオルテュスの第一城壁」

「第一って、複数あるのかよ」

「市街地を取り囲む第二城壁、城の周りに第三城壁がある」


多いわ。

というかこの世界、まだ出てきてないだけで巨人でもいるのかよ。

まあさすがに巨人の侵入を防げるほど高くはないみたいだが、それにしたってとんでもない規模だ。


『力を誇示する意図もあろうが、凄まじい労力と金をかけたものだな』


俺の世界にも万里の長城という長い長い防壁がある。

正直現実に存在するのが信じられない、死ぬまでに一度見てみたいと思っていた代物だ。

目の前にある第一城壁はその平地バージョン……しかもおそらく高さは長城を上回るだろう。

下手をすれば長さも比肩ないし凌駕するのではないか。


なんというか、興奮した。

写真に納めたいと強く思った。


「キミみたいな人多くてね、観光地にもなってるよ」


そんな俺の心境はどうやら少尉に筒抜けであったらしい。

とは言えそれはベルガーンも同じだろう、ここはキミたちと言って欲しい。

そう思って後部座席の方を振り返れば……関心はあれどそこまで興奮はしていない様子のベルガーン。

どうやら身を乗り出してはしゃいでいたのは俺だけらしい。

よって少尉の言葉が俺単体向けなのは何も間違っていなかった。


そんなわけで恥ずかしいから静かにしていようとは思ったものの、段々と第一城壁の威容がしっかり見えるようになってくると話は変わる。

何しろ元の世界ではフィクションの中にしか存在しない巨大建造物だ。

見た目もまさしくファンタジー。

テンションが上がるのはもうどうしようもないと言いたい。


巨大な門の左右に掲げられた真紅のタペストリー。

そこに描かれた翼を広げた生物……恐らくはドラゴンと思しきものが帝国の紋章なのだろう。

完全な偏見だが”紅”と”ドラゴン”ってなんか帝国っぽいよな。


そして次に見えたのは……門の左右に整列する、美しい鎧に身を包みハルバードを携えた数体の”魔法の杖(ワンド)”の姿。


「あれって”アームド”?」

「アレは作り物」


鎧が外付けっぽいので”アームド”なんだろうなと思っていたが、まさかの作り物である。

まあただでさえ魔力を使う”魔法の杖(ワンド)”を長時間立ちっぱなしにさせるのは大変だろうとは思うが……うーん観光地として整備されすぎている。


「暇になったら見学ツアーにでも来たら?」

「是非」


観光地だけあってツアーがあるらしい。

もうおのぼりさんだと思われてもかまわない。

こんな通り過ぎるタイミングだけではなく、時間をかけてじっくりとこの城壁を見て回りたい。

いつか必ず来ようと固く決意した俺は、車列が門を通りすぎるまでの間ずっと首を左右に振り回し周囲を観察していた。


当たり前の話だが、少尉とベルガーンにはドン引きされた。


三章開始です。


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