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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第二章:一般人男性、振り回される。
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第二章:その18

「タカオ明日出発だっけ?」

「そうだが、結局最終日まで来たなお前」


夕暮れの研究所、俺にあてがわれた部屋。

俺はメアリととりとめのない会話をしながらクッキーを食べていた。

当然ながらクッキー、そして脇に置いてある紅茶はメアリの差し入れ。

甘過ぎずそれでいて紅茶に良く合う、正直美味い。


誘拐事件以降もほぼ毎日メアリはこの部屋にやってきた。

そうして差し入れに持ってきた物を食べながらとりとめのない会話をして帰っていく……もはや日常化してしまった光景だ。

そんなメアリが唯一来なかったのは事件翌日。

詳しくは聞いてないが、家族と色々あったらしい。

まあそりゃそうだよなと思う、何もない方がおかしいと思う。

とはいえそれもその日だけの話で、次の日からはまた普通にやってくるようになった。

家族サイドが折れたのか、それとも元々縛る気がなかったのかは分からない。

ただ来る時間が夜から昼に変化し、同行してくる護衛がやたらと物々しくなったので、ここに来る条件とかはしっかり話し合われたんだろうなと思っている。


ちなみに護衛は黒服&黒塗りの高級車からフル武装の兵士&装甲車にランクアップした。

物々しいにもほどがある、もはや見た目が令嬢の送迎ではない。


俺としてはそこまでして来るんかいと思う反面、メアリがここに来れるほど元気そうで良かったと安心もしている。

メアリと話すのが楽しいのは確かなんだよな。

あんまり認めたくはないんだが、来なかった日も何やかんや寂しかった。


「しばらくタカオやベルガーンと会えなくなるんだね……」

「そうだ……しばらく?」


何だ今の引っかかるワードは。

この場面で使われる言葉は「もう」だろう。

公爵令嬢とこれから研究対象になる男の間の接点など、この街を出たらなくなると考えるのが普通だ。

まさかメアリは領地の外まで会いに来る気か。

何なら俺が収容される建物に侵入するかコネを駆使して入ってくる気なんだろうか。

メアリならやりかねないがさすがにそれは洒落にならんだろう。


なお名前の出たベルガーンはどこかに行って行方不明だ。

行き先も目的も全くの不明、

この街に来てからは俺の横にいる時間の方が少ないのではなかろうか。


「タカオ行くの帝都っしょ?アタシも春から帝都で学校通うんだよね」

「マジかよ」


異世界でも世間は狭かった。

帝都の規模は知らないが、同じ街にいるならそりゃメアリなら遊びに来るだろうなという確信がある。

その際は是非穏当な方法で会いに来てほしいものだ。


それにしても春、春か。

こっちの世界の季節なんぞ気にする暇もなかったが、今は「もうすぐ春」くらいの時期らしい。

言われてみれば過ごしやすい気候だ。


そしてこの世界のというか帝国の年度始め、入学卒業就職お引っ越しのシーズンは日本と同じで春のようだ。

この世界にも離職RTAとかあるんだろうか。

ちなみに俺が見た最速は初日の昼まで、RTA界隈ではきっと小物だろうが見た時は驚いた。


「学校ってーと、どんな場所なんだ?」

「アーカニア魔導学園って言って、ちょっとした町みたいな場所」


魔導学園。

これまた実に異世界ファンタジー的な名前が出てきたな。


メアリによるアーカニア魔導学園とやらの説明はこうだ。


魔導学園貴族の令息から平民まで身分や種族の別なく年齢層も幅広い人々が通う学舎。

そこは義務教育的なものではなく通いたい者だけ通う場所なのだが、貴族にとっては教育だけでなく将来的な人脈作りの場でもあり、余程の事情がない限り一定の年齢になったら子供を通わせるのが当たり前になっている。


平民にとっては高度な教育を受けるチャンス。

当然ながら学費はそれなりにかかるのだがそれを自力で貯めた者や借金してでも通う者、各貴族や商人あるいは帝国自体に見出されて投資のような形で学費を払ってもらう者もいるなど様々。


なんというか、まさに物語の舞台になりそうな空間である。

ツンデレの令嬢に異世界から召喚されたり、悪役令嬢に転生したり。


「メアリは……悪役令嬢ってガラじゃないな」

「ごめんだいぶ意味不明」


思考を口に出してしまった。

確かに意味不明だろう。


まあ今は異世界学園ファンタジー物も色々ある。

メアリの場合は乙女ゲームの主人公……はないな、こいつ自身のキャラが濃すぎる。

攻略対象としては人気が出そうな気がするな。


……なんで俺はこんな真面目に魔導学園を舞台にした物語を考えてるんだ。

いや魔導学園とかいうロケーションが悪いな、想像力を掻き立てられ過ぎる。


まあただ目の前にいる女の子をそれに当てはめて考えるのは失礼極まりないな。

すまんメアリ。

詫びがてら年長者らしい言葉をかけてやろう。


「まあ色々あって大変かもしれないが、頑張れよ学生」

「え、おっさんくさい」


こうして俺の心に深い傷を負わせながら、オーレスコでの最後の日もなんとなく過ぎていく。


色々あったがいいところだった───俺の感想は、そんなところだ。


これにて第二章の方は終了となります。

三章が書き上がり次第投稿再開する予定ですので、今後ともよろしくお願いいたします。

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