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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第二章:一般人男性、振り回される。
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第二章:その17

戦闘終了後俺たちは少し待機した後、後続としてやってきたロンズデイルたちの部隊にあとを任せて一足先に街へ帰ることとなった。


「なんだこの事故車」


……のだが、帰還にあたって使用することになった車は、俺が思わずそう呟いてしまう程度にはヤバいことになっていた。


悪路を走るためにあるようなデカいタイヤに高い車高。

この世界では何という名前の車なのかはわからないが、一応の分類として俺の世界と同じオフロード車ということになるだろう。

それが所々ひしゃげ、傷が入り、フロントガラスはクモの巣みたいなヒビが入ってるしサイドミラーなんかは片方取れている。

何があってこうなったのかは分からないし聞けもしないが、オフロードにも限度があったということだろう。

高そうな車だけどこれ間違いなく廃車だな、もったいねえ。

というかどう見ても軍の車じゃないんだけどどこから持ってきたんだろう。

謎は尽きない、というか次々湧いてくる。


「気にしないで乗って」

「するわ」

「し、失礼します……」

「乗るのかよ」


ツッコミで忙しい俺をよそに、メアリは促されるまま凹んだドアを開き後部座席に乗り込んでいく。

とはいえ顔が明らかにひきつってたし、ドアを開けるときも微妙に躊躇っていたので抵抗はあるんだろう。

というか公爵令嬢を明らかな事故車に乗せて大丈夫なんだろうか。

疑問は増える一方だ。


「キミ助手席ね」

「マジで?」


そして俺が乗るよう指示された助手席だが……そちら側のフロントガラスには、例のクモの巣状のヒビが入っている。

俺はこれを運転中ずっと見てなきゃならんのか。

気が滅入るなんてもんじゃない。


「他に車は」

「ない」

「あっはい」


当たり前の話だが、後続の部隊が来ているので車はある。

だが少尉はどうあってもこの車で帰る気らしい。

早く乗れと、少尉の目がそう言っている。


「……乗ります」


そして俺に逆らう気力はない。

正直今の少尉は顔も服も血まみれでめっちゃ怖いのだ。

そんな状態で無表情に見つめてくる様は、その美しさも相まって映画の殺人鬼感がある。

しかも実際に全部返り血。

直前の戦闘によるものらしいが、いったいどんな戦い方をしたらそうなるんだと言いたい。


とはいえそれでもシートにガラスが散乱していた場合は乗車を拒否ろうとは思っていたのだが、そんなことはなく普通に着席。

問題があったのはドアの方で、三度目の開閉でようやくしっかりと閉まった程度には歪んでいた。

むしろよく閉まったなとすら思う。


そして血塗れの少尉が運転席に座り車は走り出したわけだが……果たしてこのひどい揺れは路面状況のせいなのか車のダメージのせいなのか。

考えないようにしつつ、俺はシートに身体を預けて外をぼんやりと眺めていた。

当然前はヒビで見えないので横から。


森の中では誰も何も言葉を発さず、微妙な空気感が続いた。

重苦しいという評価にならなかったのは車内に流れる、恐らく少尉の趣味だろうと思われるやたらとハイテンポなハードロックのせい。

俺としては二度目にしてもうお馴染みとなりつつあるこの車内BGMだが、やっぱり戦闘後のクールダウンには向かないような気がする。


「今回は寝ないの?」


少尉が口を開いたのは俺がいい加減沈黙に耐えられなくなってきた頃、何か言おうかと考えていたタイミングだった。


「さっきまで気失ってたからな……」


殴られた首は相変わらず痛い。

というか眠れないのはこれのせいな気がする。

帰ったら湿布的なものか、この痛みが消える便利な魔法がないか聞いてみよう。


「まあ、キミもメアリ様も無事で良かったよ」

「助けに来てくれてありがとうございまーす」

「腹立つ」

「感謝してるのは本当だっての」


少尉にとても感謝してるのは確かだ。

どうも一人で来てくれたみたいなんだが、あれより遅かったら間に合ってなかったかもしれないし、本当に頭が下がる。


「そういえばメアリは怪我───」


怪我してないか、と聞こうとして後部座席の方を振り返る。

首だけ回すと痛いので身体ごとだ。


俺の目に映ったのは相変わらず意味はないのに座ったポーズのベルガーン。

そしてドアにもたれ掛かり、目を閉じて静かに寝息を立てるメアリの姿だった。


『寝ておる、起こすでない』

「わかってるよ」


そういえば車が走るスピードも少尉にしてはおとなしい気がする。

たぶんルームミラー見て気付いたんだろう。

揺れはあるがたぶんこれは仕方ない。


「俺も寝るかな……」


そんなことをポツリと呟いた時、車がちょうど森を抜けた。

そして日が昇り始めた光も見える。


ようやく事件は終わったのだと実感し、その瞬間身体がふっと軽くなる。

意識はしていなかったが、どうやらまだ力んでいたらしい。


今なら眠れるのではないかと目を閉じる。

首が痛くて眠ることはできなかった。


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