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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第二章:一般人男性、振り回される。
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第二章:"Takes off"

三人称視点です。

───“金色のワンド“は素人。


銃で武装した歩兵程度を相手にするのにかかった時間。

無意味に、広範囲に展開し続ける魔法障壁。

それらを遠目に見ていた魔導師たちは、早々にそう判断した。

隆夫が誤魔化しているつもりの”遠慮”も彼らは見抜いている。

そしてその甘さを経験不足から来るものだと断じた。


それでも彼らは”金色のワンド”を甘くは見ない。

いかに同調者が素人であろうと、特に「魔法障壁の強度とそれを常時展開し続ける魔力」は警戒すべきと考えた。


そんな思考の末に彼らが選択したのは、包囲しつつ距離をとり、継続的に魔法をぶつけて魔力を削るという戦法。

場所が森という移動が難しい地形なのも相まって、素人には対処不能だろうと考えた。

また隆夫を生け捕りにしたかった彼らとしては、魔力切れによる戦闘不能ならば生命に影響もなく捕獲もしやすいという望ましい結末になるという事情もあった。


そうして始まった戦闘は、彼らの思惑通りに進んだ。

移動を著しく制限され、また回避も覚束ない”金色のワンド”は早々にサンドバッグのような状態に陥る。

その魔法障壁の強固さと持続力が予想を大きく上回るものであったことに面食らいこそしたが、その点も彼らを焦らせるには至らない。


───”金色のワンド”の同調者の魔力量がどれほどのものであろうと、このまま無意味な浪費を強いれば魔力が尽きるだろう。


彼らは決して細田隆夫という人物を侮っていたわけではない。

むしろ素人に向ける警戒としては破格、まさしく石橋を叩いて渡るという表現が相応しい戦い方を選択していたと言っていい。


彼らはただ、知らなかっただけだ。

「細田隆夫はこの世界の常識で測れる存在ではない」という事実を。


「……は?」


その間の抜けた声は、一体誰のものだったのか。


魔導師たちは一様に空を見上げていた。

突如として大量の……遠くからでも感じられる程の魔力を撒き散らし、空へと舞い上がった”金色のワンド”を呆然と見つめていた。


この世界において空は、いまだ人類の支配領域には程遠い。

鳥や魔獣、そして幻想種と呼ばれる強力な個体が自由に飛び交うその領域は、人類にとってあまりにも危険な場所だった。

故にこの世界は飛行機械の発展が遅い。

他の技術と比べれば異常と言える程に。


飛行魔法は存在するが、それを行使できる魔導師たちも好んで空へは向かわない。

魔力消費が多いなどの問題もありごく短時間、よほど急いでいるか陸に選択肢がない場合の非常手段的な使われ方がほとんどだ。

”ワンド”との同調時でも同様。


それらの理由に今回は「”金色のワンド”の同調者は素人」という判断も加わり……あるいは早々に「まともには飛べまい」という思考のもとに廃したか、いずれにしても魔導師たちの思考からは完全に”空”という場所が抜け落ちていた。


対する隆夫には「空もまた人類の領域である」という認識があった。

そして大量の魔力を放出することで飛行可能な背部バーニアと、それを支える規格外の魔力量があった。

それらが彼を”空”に導いた。


「日曜午前九時キーーーーック!!!」


そして、金色の流星が降る。


隆夫にとってはある種の様式美とも、礼儀とも言える叫び。

それと共に繰り出されたのは、落下の勢いに魔力による加速が上乗せされた蹴り。

シンプルながらも”必殺技”と呼んで差し支えのない暴力が、一体の“ワンド“を吹き飛ばす。

咄嗟に展開された魔法障壁などまるで役に立たない。

魔石こそ無事であったものの、一撃で許容量以上のダメージを受けた“ワンド“が青白い煙となって消失する。


「これ中の人大丈夫か?」


一瞬の静寂の後、隆夫のまるで誰かと会話しているかのような声が響いた。


それを合図として残り二体の“ワンド“が魔法を放つが───当たらない。

“金色のワンド“が再び大量の魔力を撒き散らしながら空へと舞い上がったことで目標を失い、その先にあった木々を焼きまたは凍らせる。


その時点でようやく魔導師たちはひとつの懸念を抱いた。

今なお展開し続けたままの強固な魔法障壁。

空を自在に飛び回る、間違いなく魔力に由来した飛行能力。

「この“金色のワンド“の魔力量は、自分たちの想定を遥かに超えるのではないか」という懸念を。


もしその懸念を抱いたのが戦闘開始前であったなら、彼らは戦いなど挑まず逃走と証拠隠滅を優先していただろう。

だが現実はそうではなかった……というより「そうはなりようがなかった」と言っても過言ではない。


「もう一丁!」


再び上空からの蹴りが降ってきたことで、さらに一体の“ワンド“が吹き飛び消失する。


空を舞う“金色のワンド“の行動を制限するものは何もない。

一方で魔導師たちは木々に阻まれ、行動が著しく制限されてしまっている。

相手を嵌め込むはずだった状況に、自分達が陥った形だ。

どちらが有利かなど語るまでもない。


そして、三度目の流星が降る。


轟音。

そして最後の一体の消失。


森に響き渡った喧騒は、かくして終わりを告げた。



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