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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第二章:一般人男性、振り回される。
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第二章:その11

「そういえばなんで少尉まで護衛に?」


市内観光の途中、メアリが少し席を外したタイミングで俺は少尉に問いかけた。


今回の観光、護衛は少尉の他に黒服が数名。

そう、この世界でも護衛は黒服である。


ちなみに少尉は白いシャツにデニムという格好で腰に剣をぶら下げている。

ラフなスタイルでも美しい。


美しいのはいいんだが、少尉までついてくる必要はあるのかと思う。

少尉自身はどう見ても命令で嫌々ついてきただけだが、その命令が出されるに至った経緯がよくわからない。

人数は十分では?と思う。

実力的なものに関しては知らないけど。


「それは少佐に聞いて」


斬って捨てられた。


「公爵家がそのままキミを持って帰る可能性を捨てきれなかったとかじゃない?可能性は低いと思うけど」

「え、そんなこと起こりうるの?」

「ややこしいんだよ、この国」


そんな前置きとともに少尉が説明してくれた内容はこう。


まず前提として、貴族は帝国軍に所属しているわけでも、人員を拠出しているわけでもない。

そして“皇帝直属の軍隊“である帝国軍に対して指揮権とかを持っているわけでもない。

どちらが上の立場かとかも決められていない。

ないない尽くし、全くの無関係である。


そして貴族は貴族で各々が私設の軍隊を持っている。

しかもこれは勝手にやっていることではなく、国から公に認められた貴族の権利だと言うから驚きだ。

しかも規模に上限はないため、例えばオーモンド公爵家は当然のように小国並の規模の軍を抱えている。


こんな有様のため、帝国内部では日々帝国軍と貴族の間で縄張り争いや主導権争いが発生している。

そして当然ながら貴族同士、軍内部でも同じような事例は発生しているわけで……なんというか、カオスだ。

よく国として成り立ってるな。

アレか、もしかして皇帝陛下のカリスマ性で何とかまとまってるとかそんな感じの国なのかここは。


「よく反乱とか起きないな」

「たまに起きるよ」


起きるんかい。

いやまあ起きそうな環境以外の何物でもないとは思うけど、そんなあっけらかんと言われても困る。


少尉が実際に目にした反乱は軍に入ってから二度、入る前も数度ある。

千年を超える帝国の長い歴史を考えれば、総数はかなりのものになるだろうとのことだ。


なんというか、多すぎやしないだろうか。

いや大国ならこんなものなのか?


「速攻で鎮圧されるけどね」


だが少尉が知る限り、帝国で体制に影響を与えるような反乱は起こったことがないらしい。

早々に瓦解するか鎮圧されるか、いずれも長く続いたためしがない。

そのせいか反乱を起こした者の呼称はだいたいが“間抜け“か”無能”となる。


そこまで言わなくても……とは思うが、実際関係者から見ればそんな感じなんだろう。

あとは酷評することによって続く者を減らすイメージ戦略という面もあるのかも知れない。

まあいずれにしても当事者に向けられる冷たい視線が容易に想像できる。

そして想像すると怖い。


「オーモンド公はそういう噂もないし軍との関係も良好な人だから、キミの外出許可も取り付けられたんだろうね」


そんな中でオーモンド公爵家はというと、軍との関係は良好。

流石に腹の中まではわからないものの帝国に対する忠誠心も高いと目されており、各方面から信頼される貴族という位置付けだ。

だからこうして俺がオーレスコの研究所で一時預かりみたいなことになったり、”デーモン”に関する情報を共有する場にエドワードが呼ばれたりしたんだろう。


とはいえそんな公爵家でも、軍にとって百パーセント信頼できる相手かといえばそうではない。

そのため念の為に少尉が同行する、そんな話の流れらしい。


なんというか、めんどくさい関係性過ぎると言わざるを得ない。

そういう世界で生きる人たちは大変そうだ。

俺には絶対無理、速攻で音を上げるか散々いいように使われてポイされるかのどちらかだろう。


「政治の話は私詳しくないから、興味があったら少佐に聞いて」

「いや、いいです……」


俺が知ってどうするんだって話だし、正直聞いたところで俺の頭では理解できるかかなり怪しい。

というかさっきの軽い説明でもうお腹いっぱいだ。


「まあ今私にとってはお偉方の思惑より───」


少尉が一瞥もくれずに指差した先。


「キミと彼女が突拍子もないことを始めないか、心配で仕方ないよ」


両手にソフトクリームを携え、こちらに向かってくる笑顔のメアリの姿があった。


「お待たせー、はいお土産」

「お、おう」


受け取りながら考える。

この世界、ソフトクリームあるんだなと。

機械がないと作れない食べ物だが、この世界には機械があるので作れてもおかしくはない。

おかしくはないが……やっぱり異世界で見知った食べ物をお出しされると若干反応に困る。


お、美味い。


一口食べてみたところ濃厚な牛乳……牛乳だよな?の味わいとほどよい甘さが口一杯に広がる。

元の世界で食べたソフトクリームと比べても美味い部類だ。


だが一度抱いてしまった微妙な疑念が頭から離れない。

これ、牛乳だよな……?


「なあメアリ、これって───」

「それじゃあ次行こう次!」


何故だろうか、俺はこのソフトクリームの原料については当分知れない予感がする。


無論根拠はない。

だが、確信に近い予感だった。


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