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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第二章:一般人男性、振り回される。
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第二章:その9

翌日の俺はというと、暇ではなかった。

やはり「常に暇な奴」とか言われるとどうしても意識してしまう。

見たかメアリにベルガーン、俺は暇じゃなかったぞ。

明日はどうなるかわからないけどな。


「よろしくお願いしますホソダさん」


さて本日の俺の用事、面談の相手となるのはロンズデイル。

彼との面談はこれで三度目になるのだろうか。

これまで特段問題が起こったことがなかったこともあり、話が来た瞬間二つ返事でオーケーした。

これが考古学者連中からだったら間違いなく一度は居留守を使ったことだろう。

まあばれて引きずり出されるまでがワンセットだろうけど。


「エドワード・オーモンドです。よろしくお願いします」

「あっはいよろしくお願いします」


あとこの場にいるのはベルガーンと少尉とあと一人、見たことのないゴツい男。

年の頃は俺より少し下だろうか。

目を引くのは貴族らしい洒落たデザインのベストと白いシャツ、そしてその下で激しく自己主張する筋肉だろうか。

ベルガーンの岩山と評したくなる筋肉までは行ってなさそうだが十分ゴリラを名乗っていい筋肉量のように思う。

いやゴリラを名乗るって何だ、俺が勝手に呼んでるんじゃねえか。


「妹がお世話になっているようで」


そしてこのエドワードなる筋肉男はメアリの二人の兄のうちの一人である。

顔はあんまり似ていないように思うが、髪の色は全く同じ茶色。

並んで兄妹だと言われれば何となく信じられそうな気がする。


そして彼は二人の兄のうち武芸に秀でるとされている方なわけだが、「まさしく」以外の言葉が出てこない。

何しろ軍人で鍛えてるはずのロンズデイルや少尉と比べても一回り以上デカいのだ。

圧も凄いし存在感も凄い。

格闘漫画に出てくるとしたら強キャラ間違いなしだろう。


さて、何故そんな人物が俺とロンズデイルの面談に立ち会っているのか説明しよう。

まず彼は断じて妹をたぶらかした年上の男に制裁を加えにきたわけではない。


「妹がお世話になっているようで」


話の腰を折られた。

しかもこれ二回目なんだけど。

どんだけ大事なことなんだ。


これ本当に妹をたぶらかした年上の男に制裁を加えに来た訳じゃないんだよな?

エドワードの顔に張り付いた笑顔がだんだん怖くなってくる。

そもそも俺は本当にたぶらかしてないからな?


「オーモンド卿、冗談はその辺りで」


どうやら冗談だったらしいそれを諌めてくれたのはやはり出来る男、ロンズデイル。

もはや神と崇めたいレベルである。

というか目がマジだった気がするんだが本当に冗談なんだよな?


……この件についてはもう考えるのをやめて、頑張って話を戻そう。

俺がここでロンズデイルとエドワード、あとは少尉に囲まれて座っている理由だ。


「それではベルガーン様、あなたが“デーモン“と呼んだ存在について教えて下さい」


彼らが何かを聞きたい相手は俺ではなくベルガーン。

俺はその通訳、いつものことだ。


そして彼らが聞きたい内容は俺や少尉が“死の砂漠“で対峙した、”魔法の杖(ワンド)”の形をした得体の知れない何か。

ベルガーンが“デーモン“と呼んだ存在についてだ。


これを聞く場にメアリの兄貴がいる理由について、俺は特に説明を受けていない。

まあ何か政治的な理由でもあるんだろうとは思っているがさすがにそれは俺が関知することでもないし、同席することに何か問題があるわけでもないので特に突っ込んで聞くつもりもない。


『“デーモン“は魔獣や“ワンド“と同じく魔石を核とし、魔力によって生まれた存在だ』


ベルガーンによると“デーモン“はある特殊な方法を用いて召喚された”魔法の杖(ワンド)”であり、魔獣のように個別の意思と知能を持った存在なんだそうだ。

知能に関しては人間並かそれ以上。

戦闘面ではかなり強力な魔法を極めて精密に扱うことができる上、格闘戦のスキルも熟練の戦士並。

聞いていて「それ相当厄介では?」と思ったが、実際ベルガーンの時代でもかなり危険な存在として認識されていたらしい。

そりゃそうだ。


「実際に戦ったクロップ少尉から見て、その評価は納得できるかい?」

「私の感想と合致します」


エドワードの問いに少尉が短く答える。


俺としては強さよりウザったさの方が印象として先に来る。

魔獣をけしかけつつ自分は遠距離からバカスカ魔法を撃ってくる戦法とか、誰が戦ってもウザったいと思うはずだ。

あれはまさしくベルガーンが「人間並かそれ以上」と評した知能に由来する小賢しさなんだろうな。

確かに厄介極まる。


「それで、特殊な方法というのは?」

『生贄を用いた儀式だ』


ロンズデイルの問いに対する、ベルガーンの短い回答。

それを直接聞いた少尉、そして俺から伝えられた二人は皆一様に顔をしかめていた。

この世界でもやはり生贄の儀式というものに対する嫌悪感は存在するのだろう。


……きっと俺も同じような顔をしているはずだ。


『生贄の数や質によって“デーモン“の格は決まる、砂漠で現れた個体は恐らくそれなりに格が高い』


格の低い個体を“レッサーデーモン“、高い個体を“グレーターデーモン“。

昔はそんな、俺にも聞き覚えのある格付けがなされていたそうだ。


砂漠の個体は”グレーターデーモン”ではあるがあくまでもそれなり。

正直アレより上、何ならはるか格上が存在するかと思うとけっこうゾッとする。


「そんな危険な存在が、何故どんな文献にも口伝にも登場しない?」


エドワードの疑問はもっともだ。

話を聞く限り“デーモン“は個体としても危険だし、生贄を用いた儀式という召喚方法も危険だ。

“デーモン“を使った破壊活動を行う連中や神の如く崇める連中がいてもおかしくない……というかいて当たり前な設定だと思う。

にも関わらず帝国の軍人や貴族が一切聞いたことがないとかありえるんだろうか。


『わからぬし見当もつかぬ、少なくとも連中はそう簡単に消え去る存在ではなかった』


かくして“デーモン“という存在に関する知識を得た俺たちは、新たな疑問と謎に直面することになった。


何故これまで存在が確認されなかったのか。

何故今になってその姿を現したのか。


そして、それが俺とベルガーンがこの世界に現れたのと同時期であることに何か関係性はあるのか───だ。


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