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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第十章∶一般人男性、北へ行く。
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第十章∶その28

「儂をお呼びみたいだね」


周囲から視線を浴びながら、ゲイェが「どっこいしょ」という声でも聞こえてきそうな動作でゆっくりと立ち上がる。

そしてそれに応じるように次々と他のオークたちも立ち上がっていく。

まるでそれが当たり前であるかのように。


この後にどんな展開が待っているかと言えば、間違いなく戦闘だ。

それも一応とはいえ同族を相手どってのものだが……彼らの目には強い意志が宿っている。

こういうのを「戦意が高い」と言うのかも知れない。


一方でそれを見渡すゲイェの表情は、正直よくわからなかった。

少なくとも苦笑ではあったと思うが、そこにはなんか色んな感情がこもっていたような気がする。

僅かではあるが、哀しさのようなものも。


「負傷してる奴はついてこんでいい」


そしてゲイェが口にしたのは短く、突き放したように聞こえる言葉。

ともすれば反感を買いそうな物言いだったが、オークたちはそれに反論しなかった。

実際のところオークたちの中に万全な者は多くない。

特に投石や倒木を反射的に防御してしまったのか腕を負傷した者が目立つ。

酷い者だと折れていそうだし、そうでなくとも彼らの武器は重く大きいため使用に支障が出ることは容易に想像できる。

そんな状態の者たちには、恐らく戦力にならないという自覚があったのだろう。

彼らは口惜しげに、歯噛みしながら静かに下を向いている。


「皆々様の代わりになるかは分かりませんが、私が同行させていただいても?」


そんな少し重苦しい雰囲気の中、凛とした声で突拍子もないことを言い出した者がいた。

言わずもがな、ウェンディである。


「戦力は一人でも多いほうがよろしいかと思いますので」


堂々とした佇まいで、恐れなど少しも抱いていないかのような表情での物言い。

一方で、オークたちは心底面食らったような顔をしている。

そりゃあそういう反応になるだろうな。

オークたちは明らかに俺たちのことを頭数に入れていなかったし。


「いやこれは儂らの問題───」

「皆様に勝っていただかないと、私たち帝国の疑いを晴らしてくださる方がいなくなるではありませんか」


そうなのだ。

これはオーク同士……部族間の因縁であって俺たちは関係ないみたいなノリだが、実のところ全然他人事ではない。

サバリたちが勝ってしまうとオークたちの侵攻を止める者がいなくなってしまう。

というか連中はそのために、邪魔者と証拠を排除するためにここにいるのは火を見るより明らか。

ぶっちゃけ、俺たちとしてはゲイェに勝ってもらわないと困るのだ。

「ここまでお世話になったのだから」みたいな情ももちろんあるが、それ以上に実利の問題がデカすぎる。


「それに私は手加減なさっていたとはいえゲイェ様と渡り合った身、決してお邪魔にはならないと思いますわ」


手加減の部分を強調し、勝ったとは言わない。

この物言いはウェンディなりの遠慮だろうか、それとも本心だろうか。


「言うじゃねぇか」


いずれにしてもそれを聞いたゲイェは笑った。

どうやら、提案は受け入れてもらえそうな雰囲気だ。


「いざとなったら儂らを見捨てて逃げてほしいが……」

「善処いたします」


軽い返事。

完全に「行けたら行く」くらいのノリ。

まあウェンディがこの手のお願いを聞くことはまずないだろうし、さもありなんという感じだ。


「俺も行ったほうが良いよな?」

『貴様は行ってもあまり意味がない』

「えぇ……?」


割とモチベーション高めに言ってみたのだが、ベルガーンに切って捨てられた。

いや何故に、俺とか少尉とかも行くべきシチュエーションじゃないのかここは。


『”オルフェーヴル”があるなどと考えているのだろうが、貴様は小さい者の相手は上手くあるまい』

「それは……まぁ……はい」


魔法の杖(ワンド)”のサイズはだいたい四から五メートルで、身長二メートル強のオークのだいたい倍。

俺がこれまで戦った相手は魔獣にせよ”魔法の杖(ワンド)”にせよ同等以上の大型ばかりで、そういうサイズ差の相手との戦闘経験はないに等しい。

辛うじて一度、誘拐された時にテロリストと戦いはしたが……適当にその辺の木引っこ抜いて振り回してただけなんだよなあ、倒せてないし。

なのでそれを前提に「行かないほうがいい」と言われると「確かに……」と言うしかない。


『貴様はここまで十分働いた。あとは武働きを得意とする連中に譲ってやれ』

「それもそうだな」


そもそも俺が何かの役に立ったこと自体が完全な想定外。

俺はベルガーンのおまけ、それ以上のものではなかったはずなのだから。

根拠は特にないがウェンディなら大丈夫そうな気がするし、最悪少尉とアンナさんもいる。

よし、なんか考えれば考えるほど俺の出る幕はない気がしてきたぞ。

ここは当初の想定通り黙って成り行きを見守っていよう。


そう納得し顔を上げた俺は───ゲイェと思いっきり目が合った。


「兄さんの方もなんか決まったようで何よりだ」


半笑いでそんなことを言うゲイェ。

かくして俺の変人度がまた上がった、上がってしまった。


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