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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第十章∶一般人男性、北へ行く。
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第十章∶その26

地面に整列させられた三つの死体を眺めながら、俺はもう一度手を合わせる。

さっきベルガーンに言われた『この動作が変に作用したのかも知れない』という言葉が頭にチラつくが、この状況で手を合わせないという選択肢は俺の中にはない。

死者はとりあえず悼むべきものだと思うし。


そんな俺をよそにゲイェたちオークは皆、真剣な表情で何かを話し合っている。

まあ話し合うことならたくさんある……というかできただろうな。


死体の検分をしているオークたちの会話を聞く限り”猪頭(ボアグラク)”の片方を撲殺したのはやはりあのハンマーで間違いなく、しかもそれは”豚頭(スワインゴル)”の彼の得物。

そしてもう片方の”猪頭(ボアグラク)”もやはり、彼によって頭を引き千切られて死んだらしい。

現代日本のように詳細な現場検証やら検死やらをやったわけではないので正確ではない部分もあるだろうが、三人の死因は予想通り「ここで戦って相討ちになった」ということになりそうだ。


「これ、どうなりますの?」


ウェンディの声には明らかに不安が混じっている。


「狩りに向かったオークの集団が密猟者たちに襲われ、殺された」というストーリーはかなり疑わしいものとなった。

先んじて死体として見つかっていた者たちも、この”猪頭(ボアグラク)”やその仲間たちによって殺された可能性すらも出てくるのだ。

図らずも俺たちは速攻で疑いを晴らした……までは行かずとも前提の一部を崩した形となったわけだが、これからどうするかは結局オークたち次第。

真相が揉み消される可能性も十分にあり得るので、不安に思うのも致し方ないだろう。


『ゲイェの言うように王が慎重派であるならば、少なくとも侵攻は保留されるだろう』


そんな中でベルガーンの予想は俺とだいたい同じ。

というか最低限そうなってもらえないと困る。

いくつもの奇跡が重なってここまでたどり着いたのに、これで「見なかったことにして攻めます」と言われたらもう完全にお手上げだ。


『ここにいるのが我々とゲイェの部族のみなら疑われたやも知れぬが、今回は無関係の連中も多くいる故信憑性も問題にはなるまい』


確かに、こうしてみるとこの場に俺たちを殺しに来たオークの集団がいるのは僥倖っちゃ僥倖か。

俺たちとゲイェたちだけだったら、あまりにも短時間で手がかりを発見したことにむしろ疑念を持たれていたかも知れない。

こういうのを「悪運が強い」って言うんだろうな。


「待たせたね」


しばらくしてゲイェは俺たちの方に戻ってきた。


どうやら、三つの死体をこの森の中に置いていくことになったらしい。

以前聞いたオークなりの弔い方……土に帰るか獣の胃袋に入るかをしたいというのもそうだが、運び出そうにも道具がないというのも大きいそうだ。

確かにただでさえデカくて重いオークの死体とか、めちゃくちゃ運びにくそうと納得した。


「まあ亡骸はここに置いて帰っても大丈夫だろうさ」


証拠となる死体はここに置いていくことになるが、証言の信憑性は他のオークたちもいるので問題ないだろうとゲイェは言う。


「侵攻の方は最低でも保留になるだろうね」


今後についても含めて、オークたちの予想は俺たちの予想とだいたい同じ。

あとはこの場にいるオークたちの怒りが、俺たちから”猪頭(ボアグラク)”へと移っていることをこっそりと教えてくれた。

侵攻が保留になる代わりに内戦になりかねない雰囲気のような気がするが、大丈夫かこれ。


「で、後は帰るだけなんだが……兄さんは他に何か見えたり聞こえたりするものはないかい?」


そして最後にそう尋ねてきたゲイェの顔に浮かんでいるのは、半笑い。

案の定というかなんというか、この爺さんの中で俺は変なものが見えて聞こえるヤベー奴になってしまっているのはもう確定だろう。

それでいて放置……関わらないようにするには役に立ちすぎているのだからたちが悪いと、そう思われているに違いない。

「心底扱いに困る」という心情がありありと浮かんでいる、そんな表情だ。


「えーっと……うわぁ!?」


そのイメージをどうやって払拭しようかと考えながら周囲を見回した俺は、驚いて飛び上がりかけた。

例のオークの幽霊が目の前にいたのだ。

マジでビックリした。

心臓止まるかと思った。


「一応お聞きしますけど見えては……」

「見えないねぇ」

「ですよねぇ」


ゲイェはもとよりベルガーンを始めとする他の面々も、やはりこのオークの幽霊の姿は見えていない。

こんな至近距離にも関わらず、気配を感じるとかそういうのもなし。

不可思議すぎて、本当に俺が幻覚見てるだけなんじゃないかと疑いたくなってくる。


「えーと……」


「どういったご用件でしょうか」と尋ねようとした時、不意にオークの幽霊が深々と頭を下げた。

対象は、俺。

これは感謝の気持ちを表しているってことでいいのだろうか。

「見つけてくれてありがとう」的なやつ。


「ど、どういたしまして……?」


返事が疑問形になったのは自信がないからだ。

頭を下げるという動作が、オークの中では別の意味で使われる作法という可能性も全然ある。

まあ流石に今回ばかりは俺の予想で合ってるだろうと思うけれども。


そして幽霊は次に周囲を……この場にいる他のオークたちの様子を見渡し、そして最後にゲイェに対しても頭を下げ、消えた。

ふわりと、まるで風に霞が散らされるように。


「今ゲイェさんにも頭下げて、消えました」


最後の様子をゲイェに伝える。

「消えた」という部分を伝えるのは少しだけ抵抗があったが、そのまま伝えたほうが良いだろうと思った。

俺に対するイメージの方は、もう後でいいや。


「……そうかい」


ゲイェの顔に浮かんでいる感情は、寂しさだろうか。

俺はオークの幽霊……無も知らぬ彼とゲイェの関係を知らない。

ただゲイェの表情からは、二人の関係が善いものであったというのが容易に想像できる。


ゲイェはしばらくの間、静かにその虚空を眺めたまま動かなかった。

まるで、故人に何かを語りかけているかのように。


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