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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第二章:一般人男性、振り回される。
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第二章:その5

結局メアリに言われた通り、検査結果は早々に出た。

全く問題なし、俺は未知の病原菌を持っているわけでもこの世界の病原菌に弱いわけでもないらしい。

結果には安堵したが、なんか内容の割に結果出るの早くないかと困惑したし驚いた。

もしかして適当にやったんじゃないだろうかという不安は若干ながらあるし、もしそうでないならこの世界の科学技術は進歩し過ぎじゃないかとなる。

まあ魔法との合わせ技だからこそ、とかはあるかもしれんが。


いずれにしても現状俺にとって悪いことは何もない。

暇から解放されたこと、そして変な病気をばら蒔かずに済んだことに関しては大変喜ばしいことだと思う。


そんなわけで隔離から解放された俺が大喜びで向かった先は研究所の食堂。

俺は何かから解放されると腹いっぱい飯が食いたくなる事があるのだが、今回はまさにそれ。

一日にも満たないとは言え隔離生活は……いやこの世界に来てから砂漠、車中、隔離とストレスが溜まる環境にばっかりいたからその反動なのかもしれない。


検査結果を伝えに来てくれた職員さんに位置とおすすめのメニューを聞き、ウキウキでやってきた食堂。

温かいものを腹いっぱい食べるぞと意気込んでやってきた食堂。


そこで俺の行く手を阻んだのは、券売機だった。


なんの変哲もない、俺の世界にもあるような券売機。

そこに書かれているこの世界の文字を、俺はどれ一つとして読むことができなかったのだ。

見本があれば照らし合わせることもできるだろうがここはレストランではなく社食、そんな気の利いたものがあるわけもない。


というか何で券売機なんだよ、絶対に口頭での注文だと思ってたわ。

現代人の俺には生々しすぎるから、もう少し異世界ファンタジー的な風情を出せ。


「何してんの?」


そんな、ほぼ完全にフリーズしていた俺の背後からかけられた声。

振り向いた際に見えた美しい少尉のご尊顔は、マジで救いの女神のようだった。


……すっげえ嫌そうな顔だったけど。


そして紆余曲折の末、俺は昼飯を少尉に奢ってもらうこととなる。

そう、俺は金も持っていなかったのだ。

というかこの国の金なんて持っているはずがない。

もはや食堂に何しに来たんだというレベルである。

少尉が偶然やって来なければ俺はトボトボと部屋に引き返す羽目になっていたことだろう。

情けないったらない。

いや現状も十分に情けないか。


「キミちょっと勢いで行動しすぎじゃない?」

「返す言葉もございません」


いやほんとに返す言葉もねえわ。

元の世界ではここまで酷くなかったはずなんだが。

もしかしなくても、俺はこの世界に来て浮ついているのだろうか。


ちなみになんだが、少尉はかなりの大食いだった。

俺は自分がけっこう食べる方だと思っていたし実際今回も大盛りを頼んだんだが、少尉はそれプラスもう一品。


何でそんなに食ってそんなにスタイルいいんだ。

食べたものは一体どこに消えているんだ。

様々な疑問が湧いてくるが、さすがに聞ける内容ではない気がしたので黙っていた。


「ところで少尉、メアリ・オーモンドって女の子知ってます?」


そして食事も一段落ついた頃、俺はその質問を少尉にぶつけてみた。


「キミ、この街治めてる公爵の名前覚えてる?」

「覚えてない」

「即答……?」

『オーモンドだたわけ』


二人してそんな冷たい目で見ることないじゃねえか、ちょっと忘れてただけだろう。

というか俺人の名前覚えるの苦手なんだよ。


それにしてもオーモンド、オーモンドか。

まさかメアリって……。


「まさかメアリが公爵───」

「娘だよ」


はいハズレ。

少尉の視線は冷たいまま、何なら温度がさらに下がったかもしれない。

ちくしょう、ちょっと間違えただけじゃねえか。


さておき、オーモンド公爵の話だ。


帝国内でも強い影響力を持つ有力貴族である公爵には、二人の息子と一人の娘がいる。


武芸に秀でた長男エドワード。

政治手腕に優れた次男ジョージ。

そして年の離れた長女メアリ。


「父と兄たちにそれはもう可愛がられたらしいよ、蝶よ花よってやつ。その結果───」

「わがまま放題に育った?」

「いや、とんでもない変人になったって」


ああ、と思わず納得してしまった。

なんというか、メアリにわがままとか自己中の要素がないとは言わないが、確かにそれより”変人らしさ”の方が印象に残っている。

そのため非常にしっくりくる表現と言わざるを得ない。


どういう甘やかされ方をしたら変人になるのか、公爵家の教育方針が気になって仕方ない。


「それで、なんで公爵の娘の名前なんて知ってるの」

「昨日部屋に来たんだよ、そいつ」

「……はい?」


───お前は何を言っているんだ。


少尉の顔は露骨にそう言っていた。

内容が内容なので信じてもらえないのは仕方ないとは思う。

というか俺でも信じないと思う。


それでも……それでも傷つくからその顔はやめてほしい。


『確かに昨晩そのように名乗る娘が此奴の部屋に現れた』

「えぇ……」


ベルガーンの補足が入ると、さすがに少尉も信じざるを得なくなったらしい。

今現在少尉が浮かべている表情を一言で表すなら“げんなり“である。

めんどくさいとき、かかわり合いたくないとき、俺もこんな顔になることがある。

というか次にメアリが来たとき、俺はまさしくこんな顔になるかもしれない。


「少佐に報告しておくよ……到着したその日の内にキミの存在と所在地を公爵の娘が正確に把握して会いに来たって……」


口振りから察するに、俺の存在は秘密にしてたなこれ。

マジでメアリはどんな情報収集能力してるんだ。

行動力もだが、甘やかされて育った貴族の娘に出来ることじゃないだろう。


「そ、それはそうと」


話を変えよう。

変えると言ってもまたメアリの話だが、この話題よりはたぶんマシな空気になるはずだ。

というかなって欲しい、なってください、お願いします。


「メアリもベルガーンが見えたんだが、何が原因だと思う?」


この世界で俺が出会った人物の中で、ベルガーンのことが見えるのは少尉だけ。

調査隊にいた兵士や考古学者はもとより、この研究所にいる連中も見えていない。


見える見えないには何かしらの原因や理由があるのだろうとは思うが、俺には知識がなさすぎて何とも見当がつかないというのが現状だ。

俺にだけ見えるというなら話が早いしわかりやすいんだけど。


『単純に、魔導師としての能力であろう』


答えは少尉ではなく、ベルガーンのほうから返ってきた。


『クロップはもとより、あの娘からも極めて強い魔力を感じた。あれも優れた魔導師なのではないか?』

「詳しくは知らないけど、メアリ・オーモンドが魔法に関して天才的な素質を持っているって話は聞いたことがある」


言い終えた後に「親バカだと思ってた」という内容の小声が聞こえた。

もしかしてその話を触れ回ってるのは親父か、親父なのか。

真実にしろ誇張にしろ、どんだけ娘大好きなんだオーモンド公爵。


「と言うことは、少尉も天才的?」

「……そういうことになるのかな」


おっ、満更でもなさそうにしている。

やっぱり少尉も面と向かって高く評価されると嬉しいのだろう。


まあ、実際少尉はかなり強い。

その力は”死の砂漠”でこれでもかと言うほど発揮されていたので知っている。

”デーモン”と戦っている間、ちょいちょい少尉の白銀の騎士の姿が目に入ったが……なんというか、まさしく無双とか一騎当千とかそんな感じで魔獣をなぎ倒してたんだよな。


強くて美しい軍服エルフとか属性てんこ盛りすぎるだろうと思う。

今は軍服着てないけど。


「ガチの天才にしか見えない、とかなら面白いな」

『あり得ぬ話ではない』


調査隊も研究所も、皆が皆並の魔導師ってことはないはずだ。

有能も混じっているはずだし、何なら組織の上澄みで構成された集団という可能性も十分ある。


それでも、現状ベルガーンのことが見えるのは俺を除けば少尉とメアリの二人だけ。

こうなるとメアリの実力の程が気になってくるのは、人情というものだろう。


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