第九章:その40
「というか二人ってどういう関係なんだ?」
精霊さんたちの同行に関する話は一段落ついたようなので、気になったことを聞いてみる。
双方態度がツンツンしていて仲が良さそうには見えないが、逆にそんなことを言い合える程度には仲が良いとかの可能性もある。
むしろ後者であってほしい。
『知己、としか言いようがないな』
〚同意スル〛
正直どんな答えが返ってくるかと微妙に期待していたんだが、割とあっさり一蹴された。
知己って何だ知己って。
俺が期待してたのは戦友とか気の置けない友人とかライバルとか宿敵とか、そんな関係なんだよ。
良いも悪いもないただの知り合いとか逆に予想外すぎるわ。
流石に納得がいかなかったので突っ込んで聞いてみたが、二人はマジで数回会ったことがあるというだけの「知り合い」でしかなかった。
当然肩を並べて戦ったこともないし、争ったこともない。
そんな微妙極まる関係なのにこの態度ということは、もしかするとこいつらは二人揃って礼儀がなってないのではなかろうか。
いや絶対にそうだ、無礼で偉そうな輩二人による奇跡のコラボレーション。
欲を言えばここにオレアンダーを放り込んでみたい。
さておき、この二人がただの知人となると別なことが気になってくる。
「それならなんでさっきアドバイス求めたんだよ」
ただの知人に相談するには、間違いなく内容が重すぎる。
何なら精霊という種族の未来に関わることのように思うんだが。
〚異ナコトヲ聞ク〛
当たり前の疑問だと思うんだが、大精霊的には異なことだったらしい。
〚魔王ノ言ハ信ジルニ足ル、ソレダケノ事ダ〛
だからその信頼はどこから……と思ったがよくよく考えたら俺自身、出会って間もない頃からやたらとベルガーンのアドバイスを信用していたことを思い出す。
しかもメアリのような若い連中はもとより、ロンズデイルのような軍人ですらこいつの言葉を判断基準にしていることがあるのだ。
理由は恐らくこいつの言葉にある得も言われぬ説得力と、そして実際に的確なことを言ってきたという実績故だろう。
説得力の部分は重々しい声と態度のデカさが影響しているのかも知れない。
〚我ラ精霊モ、随分ト魔王ニハ助ケラレタ〛
遠くを見、何かを思い出しているような言葉。
精霊という種族には昔から色々あったということはベルガーンから聞いている。
だが果たしてベルガーンが彼らに対して何をしたのかは、聞いた記憶がない。
そんな中で大精霊が「助けられた」と言ったわけだが……なんとなく、ベルガーンらしいなと思った。
こいつは見た目と態度とあとは強さ、所謂第一印象になりうるものに関しては「まさしく魔王」としか言いようがないんだが、実際の言動や行動に関してはあまり魔王らしくない。
いつも問いには答えをくれるし、頼れば助言もしてくれる。
俺自身も、初対面で身体を乗っ取ろうとしてきたことを忘れそうになるくらいには世話になっている。
きっと精霊たちも同じようなものだったのだろう。
きっと知己とは言ったが良好寄り、かといって友人や同胞と言うほど近くはないみたいな関係に違いない。
友達以上恋人未満的な……知人以上友達未満って何かいい関係に聞こえないな、忘れよう。
『……アルタリオンにいた者たちは、どうなった』
割と本気でくだらないことを考えている俺を尻目に、ベルガーンが大精霊にそんなことを尋ねた。
アルタリオン、今は”死の砂漠”に飲み込まれた都。
かつてベルガーンが魔王として統治していた場所。
あの場所が何故ああなったのか、あの場所にいた者たちがどうなったのかをこいつは知らない。
そして調べようにも文献、口伝問わず何も残っていないときた。
辛うじて「約二千年前には既にあの場所は”死の砂漠”だった」ということが分かった程度で、それ以前のことはストーンハマーのおっさんやダブルジョンといった学者連中に尋ねても手がかりすら得られないというのが現状だ。
そんな中で大精霊は、ようやく出会えた”当時を知る者”。
もしかするとベルガーンがこの場に来たのは俺に精霊たちの同行に関する話をまとめさせたかったのではなく、これを問いたかったからなのかも知れない。
〚知ラヌ、アノ地ニ居タ者タチニハ誰一人出会ッテイナイ〛
だが残念ながら、答えは返ってこなかった。
口ぶりから察するに大精霊はベルガーンが何らかの理由で”狭間”に飛ばされた時、アルタリオンにはいなかったのだろう。
だから答えようがないと言ったところだろうか、これは仕方ない。
『アルタリオンで何があったのかもわからぬか』
〚尋常デナイ魔力ヲ感ジタ、トシカ答エラレヌ〛
あの場所で何が起こり、その場にいた者たちはどうなり、そしてそれはどれ程昔に起こったことなのか。
結局、どれ一つとして疑問の答えを得ることが出来ていない。
流石のベルガーンも苦笑……僅かながら落胆の色を浮かべている。
大精霊に文句を言う事でもないのがまた辛いなこれ、何も悪くないし。
〚アノ地デ何カガ起コッテカラ、世界ハ狂ッタ〛
と、それで終わるかと思った会話には続きがあった。
大精霊が静かに淡々と、それでいて重く言葉を紡ぐ。
〚風モ大地モ大イニ荒レ、ソシテソレガ落チ着イタ頃大キナ闘争ガ始マッタ〛
───気付けば多くが死んでいた。
締めくくりは、そんな言葉。
話を聞いていて、なんとなくだが想像がついたことがある。
それは「歴史が途切れたのはきっと、その時期の出来事が原因だ」ということ。
凄まじい天変地異と、相当にヤバい規模の戦争。
大精霊の言う「多くが死んだ」というのは本当に、洒落にならないほどの数だったのだろう。
それこそ、全てが失われるほどに。
〚魔王ヨ、アノ時アノ地デ何ガ起コッタノダ〛
今度は逆に、大精霊からの問いかけがべに飛んだ。
大精霊はそれらのきっかけ、あるいは直接の原因がベルガーンの近辺で起こった”何か”であると感じているのだろう。
もしかすると確信に近いものがあるのかもしれない。
だから問う。
ベルガーンならばそれを知っていると信じているからこそ。
『あの時、あの地で禁術が行使された』
禁術。
確か出会った時にベルガーンが言っていた、こいつを”狭間”に押し込めた魔法。
これまで全く感情を表に出さなかった大精霊が眉を顰めたところを見るに、名前の通りよろしくない代物なのだろう。
……俺はそれに近いことを無意識にやらかしてこっちの世界に来る羽目になったんだよな。
なんとも言えない気分だ。
『それ以外、何もわからぬ』
ベルガーンにわかるのはそこまで。
誰が、何のためにといった部分はまるでわからないらしい。
『だからこそ、探している』
その言葉は、重かった。
以上で第九章は終了です。
九章中に多くの方にブクマ・評価をしていただいたおかげで評価Pが300を超えました、本当にありがとうございます。
この話を書き始めてからおよそ二年が経ちました。
二年も経てば文体も変わるもので現在冒頭から加筆修正をしております。
十章は加筆修正が終わり次第書き始める予定ですのでしばらく間が空くかと思いますが、投稿の際はまたよろしくお願いします。