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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第九章:一般人男性、祭を巡る。
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第九章:その39

その狼の姿を見て、俺は一つ確信したことがある。

それは「この狼も精霊だ」ということだ。


大きさはまるで違う。

他の精霊さんたちが手のひらサイズなのに対して狼は普通の……いや俺普通の狼知らんな、大型犬サイズと言っておこう。


一方で共通点もある。

まず狼は他の精霊さんたちと同様に淡く色のついた光に包まれている。

それに放っている気配……うまく言えないが、生き物ではなく一種の魔法を見てる気分になるとかそんな感じの気配も同じ。


とはいえマスコットキャラクターとしか言いようのない可愛らしい見た目だった他の精霊さんたちと、見た目が実在の生物に近くそして威圧感のようなものを放っている狼を同じように扱うのはなんか抵抗がある。

他の精霊さんたちとの差異を考えると……この狼は大精霊とでも呼ぶか、心の中で。

うんしっくりくるな大精霊、決定決定。


『その不遜な態度、変わらぬな』

〚貴殿ノ尊大サモ変ワラヌ〛


そしてどうやらベルガーンと大精霊は知り合いらしい。

これまでは知り合いどころか知識レベルでベルガーンのことを知っている者、何なら伝承として残っていることすら皆無だったので、かなり驚いた。


「精霊ってそんな長生きなのか?」

『放っておけば永遠に生きるやもしれぬ連中だ』

「すげえな精霊」


不老不死というやつだろうか。

確かに死ななさそうな雰囲気はあったが、まさかマジでそうとは思わなかったぞ。


ただまあそれでも何かしらで死ぬ……あるいは消える理由があるのだろう。

ベルガーンが以前精霊のことを『現代にはもういないと思っていた』みたいに言ってた記憶があるし。

例えば寿命はないけど負傷したら死ぬとかそんなん。


『それで、貴様とはどれくらいぶりになる』


それは、果たして現在はベルガーンが生きた時代からどれ程の時を経ているのかという問いに等しい。

もしかすると大精霊が居ると分かったときから、聞きたくて聞きたくて仕方なかった質問なのかも知れない。


〚知ラン、我ラハ時ヲ数エヌ〛


だが”大精霊”の回答は一刀両断。


ただまあそりゃそうだよなとは思う。

永遠に近い時間を生きることができる種族、そしてその中でも実際に生きてきた個体が何日とか何年とかを数えている方が驚きだ。

ぶっちゃけそんなもん数えるより、他に考えたり覚えたりすることはあるだろう。


ベルガーンも納得したのか『そうであったな』などと言って苦笑している。


〚貴殿ガ金色ノ巨人ノ召喚者カ〛


そして大精霊は俺の方に向き直り、そんなことを聞いてきた。

旧知の存在ベルガーンとの会話は一段落、といったところだろうか。

話を振られると思ってなかった俺は若干キョドる。


「そうッス」


キョドったせいで地味に噛んだ、これじゃヘンリーくんじゃねえか。


〚本当二幼キ者タチヲ連レテ行ク気カ〛


重ねて投げかけられた問いに再び混乱。

幼き者たちって何だと聞き返そうとして、それがあの精霊さんたちを指す言葉だと思い至る。


大精霊から見ると精霊さんたちは幼いのか。

見た目と挙動は確かに「幼い」と言われても納得できるが、セラちゃんが生きてた頃からここにいるってことは三桁歳くらいになるんだよな?


精霊さん界隈の時間の流れの独特さをしみじみと感じる。

果たして大精霊はこの世界でどれだけの時間を重ねてきたのだろう。

そして俺達定命かつ短命の生物は、彼らの目にどう映っているのだろう。


「本気だし仲間とも話し合ったが……迷惑なら諦める」


俺の答えに大精霊は値踏みするような、どこか警戒するような視線を向けてくる。


何を考えているのかまではわからないが、警戒しているのならそれは当然だろう。

何しろ精霊さんたちはずっと他種族から排斥されてきた歴史のある種族、ぽっと出の異世界人……異世界人でなくとも得体の知れない個人がこんなことを言ったって普通は信用できない。

自分で誘っておいて何だが、俺が誘われる側ならいきなり信用するのは無理だ。


〚……魔王ヨ、貴殿ノ意見ハ?〛

『余は問題ないと考える』


ベルガーンは肯定してくれた。

こいつは無理なら無理、無謀なら無謀とはっきり言ってくれるはずなのでひとまずは安心。

あとは精霊さんたちの選択次第だ。


それにしても大精霊、ベルガーンに肯定した理由聞かないんだな。

なんか黙って考え込んじゃった。


ホントにどんな関係だったんだろうなこいつら。

なんか俺と同じくらいベルガーンのこと信頼してるっぽいし。


〚ワカッタ、貴殿ニ幼キ者タチを託ス〛


そしてしばしの沈黙の後、大精霊は静かに俺の目を見据えてそう言った。


決意、その目に宿っているものを言葉にするとしたらそれしかないだろう。

鋭い視線だが俺を威圧する意図は感じられない。


「承りました」


だから俺も静かにその目を見つめ返しながら、そう答える。

あんまり人の目を見て話すのは得意ではないんだが、ここで目を伏せるのは失礼以外の何物でもないだろうと思って我慢した。



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