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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第九章:一般人男性、祭を巡る。
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第九章:その38

そして、また暗闇がやってきた。

先程みたいに太陽が得体の知れないもので覆われたが故の暗闇ではなく、シンプルに日が沈んだからやってきた夜闇。

遠くで鳥や獣の鳴き声、虫かなんかが奏でる音の聞こえる……夜特有の心が落ち着く静けさが辺りを包んでいる。


そんな気持ちよく眠れそうな空気の中、俺と少尉、そしてベルガーンは町の広場を歩いていた。


「俺疲れてんだけど」

『わかっておる』


わかってんのかよ、なら帰らせてくれよ。


一つ目との戦闘の後も、地味に大変だった。


まず合流した他の面々、特に儀式魔法の解除にあたっていたらしいロンズデイルたちへの状況報告。

説明は主に少尉がやってくれたのだが、当然ながら俺にも質問は飛んでくる。

一つ目のことやら精霊さんのことやら、俺の口から直接説明しなければならない事や補足説明を求められる事が多く、やたらと時間がかかった。

まあ、その後町にやってきた子爵軍やその増援の帝国軍に対する説明はロンズデイルに任せることになるのでこれは仕方ない。

むしろ助かりますありがとうございますと言うべきところだ。

儀式魔法の解除も変な怪物が出てきて大変だったらしいし、文句を言ったらバチが当たる。


そして次にウェンディたちと、精霊さんたちを今後同行させていいかどうかの話し合い。

こちらは提案自体は即座に全会一致で可決されたんだが……その後がちょっと長かった。

主にウェンディとセラちゃんが精霊さんの話で盛り上がってしまったのだ。

キャンピングカーのところに戻り、椅子に座ってお茶を飲みながらという普段ならそこまで苦ではないはずのシチュエーションが、戦闘後なこともあってなんかしんどかった。

疲れてる時に同じ体勢でいるとなんか疲れるのってこれ歳のせいなんだろうか。


そして最後に、押しかけてきた町の住人たちからの感謝。

これが一番辛かった。

夕暮れ時、よりによって俺がたまたま車の外に出たタイミングで押しかけてきた連中が一人一人、俺の手を強く握りながら感謝の気持ちを述べてきたのだ。

「町を守ってくれてありがとうございます」と何度も言われたんだが、正直めちゃくちゃ破壊した記憶しかないので反応にだいぶ困った。


あれ全部で何人くらいいたんだろう。

他の面々を呼びに行くこともできず、誰かが気付いて出てきてくれるわけでもなく……結局俺は一人で全員分の感謝を受け止めることになってしまった。

正直握手会開いてるアイドルを尊敬したくなる程度には辛かった。


そんなこんなで精神的にも肉体的にもヘロヘロになりながらベッドに横たわり、過酷な一日がようやく終わると思ったタイミング。

そこで俺はベルガーンによって外に連れ出された。


「こんなところに一体なんの用なんだ?」


周囲を見回す。

瓦礫やら何やら戦闘の痕跡が色濃く残る広場には、当たり前だが人の気配はない。

単純に立ち入り禁止になっているのもあるが、得体の知れない怪物がワラワラ湧いて出たりド派手な戦闘が起こった場所に夜間近づきたいとは思わないのが普通だろう。

俺だって近づきたくない、また何か出てきそうだし。


こんなところに何の用があるのか、聞いてもいないし見当もつかない。

渋々とはいえ、そんな何もわからない外出に付き合ってる俺は相当付き合いが良いのではなかろうか。


まあこれに関しては「護衛だから」で同行してくれてる少尉にも言えるな。

ちなみに彼女の渋々具合は俺の比ではない。

めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていたし、何なら今もしている。


『待ち人がいる』

「お前に?」

『意外か』


いや意外だろどう考えても。

少なくとも俺はベルガーンが誰かと待ち合わせしている姿を見たことがない。

「ふらっといなくなる事があまりにも多いので見る機会がないだけ、普段も誰かと待ち合わせしている」という可能性がないわけではないが、正直全く情景が想像できない。


それに時々忘れそうになるが、大半の人間はこいつの姿を見ることができない。

なのでこいつと待ち合わせできそうな人物を全く思い浮かべることができない、というのもある。


ついでにそれに俺が付き合わされている理由もわからない。


「まあ待ち合わせするのはいいけど、なんでこんな時間に……」

『約束をしたわけではない』

「うん?」


こいつは一体何を言っているんだ。


もしかして俺は、来るか来ないかもわからない人を待つのに付き合わされているのか。


反応に困っている俺の横で少尉は……表情だけで「意味分かんないんだけど、帰っていい?」って気持ちを表現していた。

とてもわかる、というか俺も帰りたい。

帰ってすぐに寝たい。


「お前なあ……」


そして俺がとりあえず文句を言おうとした時───風が吹いた。


よくある穏やかな夜の風。

だが不思議とその風には”存在感”があった。

まるで何かが横を通り過ぎていったかのような、不可思議な感覚。

どうやら少尉も同じものを感じとったようで、先程までの気怠げな様子とは打って変わり、剣に手を当てて周囲に警戒を向けている。


『待ちかねたぞ』


ベルガーンのその言葉は、間違いなく独り言ではない。

近くにいる誰か、俺たちではない何者かに向けた言葉。


〚ソレハ貴殿ノ勝手ダ〛


風に乗って聞こえたのは低くノイズのかかった、声とも音ともつかない言葉。


同時に、風が渦巻く。


そこにいたのはまるで風の中から現れたかのような───あるいは、まるで風がその形を取ったかのような存在。

ぼんやりと薄緑色に光る、一匹の狼が俺たちを見上げていた。


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