第九章:その37
その後はしばらくセラちゃんや精霊さんたちとその場で話し込んだ……というより彼女たちの会話を聞いていた。
何となくそんな気はしていたが、精霊さんたちはセラちゃんが生きていた頃からいる子ばかり。
様子を見ている限りではどうやら仲も良好だったようで、精霊さんたちの挙動がめっちゃはしゃいでいる。
そのせいで思い出話やお互いの現状報告に花が咲き、俺は時々話を振られたり解説してもらえたりとかそんな程度。
あんまりというかほとんど会話に参加しているという感覚はないが、別に不満はない。
何しろ百年ぶりくらいの再会なのだ。
お互いに嬉しそうで、セラちゃんなんかは涙ぐんでいたりもする様を見ていると「良かったなあ」という気持ちの方が強くなる。
むしろ俺のことなんて無視してくれていいのに、とすら思う。
〚嫌ワレタト 思ッタ〛
『そんなことないよ!』
そして精霊さんたちと住民との距離が昔より開いているのは、どうも突然セラちゃんが”神喚び”に顔を出さなくなったのが原因らしい。
ただでさえ忌避感や嫌悪感を抱かれて居場所を失っていた種族だっただけに、仲の良かった子が何も言わず突然来なくなったことがショックだったのだろう。
その時セラちゃんは重い病気で、その後は故郷に戻ることなく遠く離れた帝都で死んでしまったのだから何とも哀しいすれ違いと言う他ない。
セラちゃんの方もさぞや無念だったろう。
『ホソダさんたちのおかげでまた会いに来れたんだよ』
そんな彼女が幽霊になって学園に居着き、俺たちと出会って色々あってこの場所に帰って来れたというのは……正直もう運命の悪戯とかの範疇は軽く越えていると思う。
奇跡と呼んでも許されるはず、というか他に適切な呼び名があるなら教えて欲しいくらいだ。
何しろ幽霊になるとか異世界から来た男と出会うとか、一つ一つの要素からして意味がわからない。
前世で何やったらそんなことになるんだと
……いやこれ俺もか。
ホントに何でこんなことになったんだ?
誰か教えてくれ、俺が一体何したって言うんだ。
「そういえば精霊さんたちってこの祭り以外はどうしてるんだ?」
ふとそんな疑問が湧いた。
この”神喚び”というお祭り以外で精霊さんたち……”神様”とか呼ばれる存在と人々が何かしら関わる機会があるという話は今のところ聞いたことがない。
〚静カニシテル〛
「そ、そうか……」
なんか聞き分けの良い子供みたいな答えだな。
言動や挙動が子供っぽいからなおのことそう感じる。
さておき話を聞く限り、どうやら精霊さんたちはこの儀式以外は近くの森の中でひっそりと暮らしているらしい。
誰とも何とも関わらず、孤独に。
過去受けてきた扱い的に、そういう生き方を選ばざるを得なかったのだろう。
この地で”神様”という扱いを受け、ある程度受け入れられてなお一年に一度の機会以外人々と関わろうとしなかったのも、再び忌避されることへの恐れが原因かもしれん。
なんというか、あまりにも不憫だ。
「一緒に来るか?」
思わず、そんな言葉が口をついて出た。
セラちゃんが驚いたようにこちらを見てくる。
精霊さんたちの表情は分からないが……なんか固まってるしこれ困惑してるか驚いてるかだな。
「いや今後も力貸してくれたら助かるし」
そして俺は何で言い訳してるんだろう。
「一緒に帰ろう」と女の子を誘う男子か。
「少なくとも俺たちは、精霊さんたちの事情もわかってるからな」
七不思議部の面々が精霊さんたちの同行に反対することは、まずないと思う。
ウェンディなんかは「苦労しましたのね」と言ってむしろ積極的に勧誘する気が……いや気がするじゃ済まんな、あいつなら間違いなくそうするな。
感傷的な理由だけでなく、実利の面でも同行して欲しい理由はある。
七不思議部は……というか俺はやたらと厄介事に巻き込まれやすい。
それも戦闘が避けられないタイプの厄介事だし、敵がだいたい強い。
もし次にまたそういう事態に遭遇した時、強くなる手段が身近にあるというのは非常に助かる。
俺ならば今後も精霊さんたちの力を借りても大丈夫だろうって自負もあるし。
〚ドウスル?〛
〚ドウシヨ?〛
〚ナヤム〛
再びピコピコと左右に揺れ始めた精霊さんたちが顔を見合わせている。
迷うってことは一緒に来たいって気持ちもあるんだろうけど、すぐに結論は出そうにないなこれ。
「検討してみてくれ」
まあとりあえずゆっくり話し合って欲しい。
こっちは急がないというか、こっちはこっちで他の面々に説明しなきゃならん。
そっちはセラちゃんも協力してくれそうだし、悪い結論は出ないだろうけど。
「俺たちはしばらくこの町に……いるよね?」
断言しようとして、この町にどのくらい滞在する予定なのか俺は全く知らないことに思い至る。
助けを求めてセラちゃんに水を向けるも、回答は『た、たぶん……?』という曖昧極まるもの。
結局その後少尉のおかげで「事後処理の関係で数日は動けない」ということが分かったのだが……精霊さんたちを連れて行くことに関しては何とも言えない珍妙な顔をされた。