第九章:その36
まだ高い位置にある太陽を遮るものはなくなり、強い光が差し込んでくる。
体感的には随分と長い時間戦っていた気がするが、ほとんど時間は経っていないようだ。
そして光に照らされて周りの状況がよく見えるようになると……周囲は破壊の痕跡だらけ。
抉れた地面、崩壊した建物、あちこちに散らばる何かの破片。
そのほとんどが俺と一つ目の戦いの痕だという事実からは目を背けたい。
前半は一つ目が、後半は俺がバカスカ爆発を引き起こしてたからなあ。
特にひどい、若干クレーターになってる爆発痕なんかは俺のやらかしが原因。
反省はしているが正直どうしようもなかったと思う、俺にはそんなスマートに戦う能力はない。
ちなみに”狭間”と繋がっていた時空の歪みや地面を侵食していた謎の水面、大量にいた怪物たちは綺麗さっぱり消えた。
俺が一つ目を倒したからか、誰かが何か───例えば”闇の森”の時みたいに儀式魔法を解除したからか、それとも案外時間経過によるものか、どれが理由なのかはわからない。
まあ正直、解決したなら何でもいいんだけど。
「疲れた……」
ひとまずオルフェーヴルとの同調を解除した俺は、そのままその場にへたり込んだ。
過去イチ疲れたと言っても過言じゃないなこれ。
『大丈夫ですか?』
そんな俺の顔を、セラちゃんが心配そうに覗き込んでくる。
「めっちゃ疲れたけど平気平気、魔力も全然余裕あるよ」
『良かったです……』
色々な心配はあるだろうが、特に気になっているのは魔力の使用量だろう。
俺自身アホみたいに浪費した感覚はあるので、「使いすぎると生命が削れて最悪死ぬ」という前提があるなら心配されて当然だ。
俺も聞いた時結構ビビったし。
ただ、まだまだ余裕があるというのは強がりでも何でもない。
例えるなら日課のジョギングを始めてすぐくらい、下手をすればまだ一桁歩くらいの感覚でまだまた走れる。
疲れ自体は感じるがこれは間違いなく気疲れが原因で、魔力消費によるものではない。
命のやりとりは何度やっても慣れないな……という前置きから始まる疲労感だ。
〚ホント スゴイ〛
セラちゃんの隣には淡い赤の光……精霊さんがいた。
声とも音ともつかない無機質で不思議な言葉には先程までとは違って喜び、嬉しさのようなものが乗っている……ような気がする。
光の中にはぼんやりとクリオネのようなものが見えるので、これが精霊さんの形なんだろう。
どっちかというと精霊っていうより妖精の方が印象として近いな。
「精霊さんもありがとうな」
一つ目に勝てたのは間違いなく精霊さんのおかげ。
あの凄まじい強化がなければ……俺だけではどうにもならなかっただろう。
相手にならなかったとかそんな次元だ。
なので心からの感謝を伝えたところ、なんか精霊さんが嬉しそうに左右に揺れている。
可愛いな。
〚スゴイ〛
〚スゴイ〛
〚カッコイイ〛
そして気付けば、色とりどりの精霊さんたちが俺を取り囲んでいた。
光の色に浮かぶ姿は様々で、各々”属性”っぽい感じの特徴がある。
炎っぽい羽の生えたクリオネをはじめ、ポコポコと泡立っている水みたいなトカゲ、クランチチョコみたいな球体……他にも色々、中にはギャラリーに絵や彫刻で展示されていたような姿の子もいる。
サイズは皆フィギュアみたいなサイズで怖さとか威圧感とかはない。
正直可愛らしさが先に来る。
そんな群れに囲まれてすごいすごい褒め称えられるというのは何とも不思議な気分になる状況だ。
ファンタジーといえばファンタジーだが、どちらかと言うと絵本的なファンタジー。
俺に合うかと言われると……まあ合わんな。かなりむず痒い。
「精霊さんたちはセラちゃんが連れてきてくれたんだよな、助かった」
『お役に立てたなら良かったです』
セラちゃんの顔には「心の底から安堵した」という感情がありありと浮かんでいる。
精霊さんたちを呼びに行く前、ベルガーンに何度も念押ししていたしマジで心配してくれていたんだろう。
何なら精霊さんたちの力を借りる以前の問題で、俺が戦うという段階からして。
心配かけてすまん……というかベルガーンが代わってくれればこんな心配かけることもなかったんだ。
何だ『いい加減痛い目を見るべきだ』って。
俺はしばらくこれ根に持つからな。
……などと考えて辺りを見回したところ、当のベルガーンが少尉と何事か話しているのが見えた。
まず俺の心配をしろ、そして労えこの野郎。
その35を投稿し忘れていたので割り込み投稿しました。