第九章:その35
魔力を回し、火の玉をイメージ。
たったそれだけのことで、俺の周りに無数の火の玉が生まれた。
思わず「おお」と感嘆する。
普段の俺がまともに使える魔法は光を出すとかその辺の基礎も基礎のものだけ。
攻撃魔法なんかはとてもではないがまともに使えない。
ちなみに使えなさを正確に表すなら「出ない」ではなく「制御できない」の方。
俺の有り余る魔力を形にしようとしたら暴発するとかそんな感じ。
少尉からは「絶対に屋内で練習するな」とまで言われている。
当然魔力障壁なんかも同様にまともに使えないため、武器も格闘術も赤点ギリギリな俺は生身の戦闘では役立たずを通り越した何かである。
そんな俺が今攻撃魔法……あくまでも”らしきもの”だが、それを使って戦っている。
感動的な状況だ、やっぱりファンタジー世界といえばこれだろう。
「食らえェ!」
方向を決めて飛んでいくイメージを浮かべたら、実際にその通り火の玉が飛んでいく。
しかも思いのほか速い上になかなかの威力……だいたい”デーモン”の使う光弾と同じくらいじゃないかと思う。
いや破格も破格、これで連射が効くとか神かよ。
マジでテンション上がってきた。
まあ、強いて言うなら当たる気配があんまりないのが難点か。
一つ目の野郎全部避けやがる、一発くらい当たってくれ。
〚魔力 ダイジョウブ?〛
「余裕そう」
〚スゴイ〛
上機嫌で精霊さんの問いかけに答えたら感心された。
今のところ、すべてにおいて大量の魔力を使っているというのは何となくわかる。
火の玉とかは多分……いや間違いなくとんでもない無駄遣いのはずだ。
なんというか、パチンコ台に吸い込まれる玉くらいの勢いでぶっ放してるし。
そんなアホな使い方をしてなお全然大丈夫というのも、これまた何となく肌感覚で理解できている。
これが俺の持つ才能「神の如き無尽蔵の魔力」とかいう奴の効果だろう。
名前は今考えた。ルビは特に思い浮かばない。
正直この膨大な魔力、これまでの俺にとっては宝の持ち腐れと言っても差し支えのないものだった。
何しろ使うあてがない。
オルフェーヴルと同調すれば動き回るだけで結構な量の魔力を食うが、それにしたって俺からすると微々たるもの。
やはり「あるんならドカッと使いたい」と思うのは人の性だろう。
それをできるようにしてくれた精霊さんには感謝の気持ちしかない。
素晴らしい爽快感をありがとう。
サンキュー精霊さん、フォーエバー精霊さん。
《調子ニ乗るナ!!》
不意に、一つ目がそんな怒声を発した。
同時に急激な方向転換、強く地を蹴りこちらに向かってくる。
そしてここで俺の狙いの甘さ……知識と経験の浅さがモロに出た。
迎撃のために放った火の玉はことごとく回避され、まるで役に立たない。
焦ってしまったせいで狙いがブレまくっているのも原因だろう、当たる気配もなければ足止めにもならない有様だ。
さらに、せめて動き回りながら火の玉を出せば良いものを棒立ちのままだったのも悪かった。
そこそこあった距離はあっという間に詰められ、気づけば再び先程と同じレイピアの間合い。
俺にとっては悪夢の距離がやってくる。
「うおっ!?」
一撃目は何とか回避。
風を切る音が顔の横を通り過ぎる。
俺自身が炎を纏っていることで周りが若干明るいせいか、はたまた精霊さんのおかげで動体視力も強化されているのか。
いずれにしても真っ黒いレイピアの軌道は先程よりもよく見えた。
ただ相変わらず魔法障壁は役に立っていない様子。
僅かに減速した気配すらない。
これはやはりレイピアが何かしらの特性を持っているが故に魔法障壁が無効化されている、という可能性が濃厚だろう。
「精霊さん何か方法ない!?」
次から次に繰り出される刺突の雨、時々斬撃を何とか回避───たまに避けきれず掠らせながら、俺は精霊さんに助けを求める。
さっきより見えてるのに避けきれないってどういうことだよこんちくしょう。
〚壁 ツクル〛
「なるほど!?」
壁、壁か。
火の玉を生み出すノリで壁を作れば、普段の魔法障壁より堅い壁が作れるとかそんな感じだろうか。
「うおおおおファイアウォール!!」
火属性の壁ならばきっとこんな名前だろう。
そんな思考とともに俺は炎の壁をイメージし、自分の前面に魔力を回す。
そしてその瞬間、レイピアの軌道上に半透明の赤い膜のようなものが出現したのを俺は見た。
レイピアがその膜に押し留められ、俺に届く寸前で静止する様も。
───やった、成功だ。
そんな歓喜を口に出そうとした瞬間。
赤い膜が眩い光を放ち───そして、大爆発を起こした。