第九章:その29
「ド根性!!」
突然だが俺は今、凄まじい爆発の中にいる。
謎の爆発とかではない。
一つ目の巨人が放った大量の光弾の爆発……光弾の原理とかが謎っちゃ謎だが、とりあえずそれらを正面からまともに食らっているだけだ。
突然爆発したとか巻き込まれたとかでもない。
状況的には光弾が少尉に降り注ぎそうだったので俺の方から突っ込んだ形。
いくら少尉でもこれをまともに食らったらどうしようもなさそうな気がしたのでけっこう必死に割って入った。
ちなみにいつも通りオルフェーヴルの魔法障壁が勝手に発動して全部防いでくれたので、爆発のダメージはない。
さすがオルフェーヴルは最強だ。
───そう思って顔を上げたら、爆煙の先に先程よりも数多くの光弾が見えた。
「ウッソだろお前」
別な方向に飛んでいってくれたら良かったが、生憎全て俺宛のプレゼントらしい。
大量のおかわり、光弾が降り注ぐ。
爆発、爆発、また爆発。
衝撃が凄い。
俺は今身を低くして顔の前に折り畳んだ腕を突き出す、古き良き格ゲーのガードの体勢なのだが圧力に押されて段々と後ろに下がってるのがわかる。
棒立ちだったらとうの昔に吹っ飛んでいたことだろう。
踏ん張れ俺の脚。
魔法障壁には障壁がぶっ壊れるダメージ量と、壊れはしないものの衝撃を殺しきれず発動者もろとも吹っ飛ばされるダメージ量があるらしい。
俺自身何度かその吹っ飛ばされるダメージ量の攻撃は食らっているので、それは割と身にしみて理解している。
この「防げてるけど吹き飛ばされる」がけっこう怖い。
相手の攻撃が魔法障壁を貫通したりぶち破ったりしてダメージが入ったんじゃないかと不安になる。
一応使用した魔力量に比例して強度が上がりはするらしいんだが、いかんせん俺は自分で魔法障壁を展開してる訳ではなく自動発動なのでどの程度の魔力が使われているのかわからない。
できれば一生破られることなく異世界ライフを過ごしたいところだが、どうなることやら。
……いかん脳が現実から逃避していた。
まあこんな矢継ぎ早に、わんこそばみたいに次から次に目の前で爆発が起こってたら逃げたくもなるってもんだ。
普通の人ならとっくの昔に魔法障壁はぶっ壊れて”魔法の杖”ごとお亡くなりになってるんじゃなかろうか。
そう考えるとやはりオルフェーヴルは最強だ。
そう思わないとやってられない。
そうこうしているうちに、長らく俺の前で炸裂し続けた爆発と光がついに止んだ。
結局俺は何分くらい耐える羽目になったのだろうか。
もしかすると一分も経ってないのかも知れないが、体感時間は間違いなく分単位。
そんなことを考えつつ、ビビり散らしながら顔を上げる。
視線の先にはのっぺりとした頭と一つ目が特徴的な巨人が見える。
なんというか、某格闘ゲームのビリヤードで攻撃してくる奴みたいな頭だな。
アレより目が生々しくてグロいが。
《お前ハ何者ですノ?》
「どんな口調だよ」
不意に一つ目からそんな言葉が飛んできて思わずツッコんでしまったが、いやホントにどんな口調だ。
中途半端にウェンディのモノマネしたみたいになってるぞ。
見た目と全く合ってない。
「通りすがりの異世界人だ」
なんか名前は名乗りたくなかったので、通じるかはさておきそう返す。
というか一度でいいからやってみたかったんだよ、通りすがりのなんちゃらって自己紹介。
満足した、満足したので帰りたい。
「お前は”デーモン”か?」
一つ目は”デーモン”で間違いないだろう。
さっきまで俺に降り注いでた光弾はあいつら特有の攻撃方法だし、この”魔法の杖”を若干グロくしたような見た目や雰囲気もそれっぽい。
とはいえさすがに人語を話す奴と出会うのは初めてだ。
もしかして”デーモン”の中でも上位の存在とかなんだろうか。
《素晴ラしい》
「いや何がだよ」
またツッコんでしまった。
いやなんでこいつはいちいちツッコミ入れたくなる言動なんだよ。
というか会話する気あんのか、一応俺は答えたんだからお前も質問に答えろ。
《異世界人、異世界人、なんテ素晴らしい出会イなんだロう》
まるで神に感謝でも伝えるかのように一つ目が両手を大きく広げ、天を仰ぐ。
しかも目をぐにゃりと、笑みとしか言いようがない形に変形させて。
その声や挙動は「恍惚とした様子で」としか説明しようがない。
なんか背筋がゾワッとした、まごうことなき悪寒である。
何がそんなに一つ目の琴線に触れたのだろう。
いやまあたぶん俺が”異世界人”と名乗ったのが原因なんだろうが、そうなった理由についてはさっぱりわからない。
わからないからなおのこと怖い。
ヘヴン状態の一つ目と、ドン引きしている俺で、テンションは完全に正反対。
なんか一つ目の方は上がってく一方で、俺は上がる要素がない点もそう。
《今日は最高ノ日だ》
上ずった声でそう言いながら、一つ目は右手に持ったレイピアらしき武器を構える。
完全に戦闘態勢だが、目は相変わらず笑みの形のまま。
そのアンバランスさがすげえ不気味である。
「俺は最悪なんだけど」
───果たして俺はこの一つ目相手にまともに戦えるのだろうか。
そんな不安を抱えながら、俺もまた雑なファイティングポーズをとった。