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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第九章:一般人男性、祭を巡る。
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第九章:その17

「それは仕方ない……のかも、知れませんわね」


何とか状態異常:激辛から回復し事情説明、というかもはや言い訳じみたものを述べた俺に向けられた感情は、困惑。

納得しようとしてくれているのは凄く伝わってくるのだが、ウェンディも他の皆も言葉の歯切れがとても悪い。

奥歯にものが挟まった言い方、とはこういう感じなのかという見本のようですらある。


「ウケでも狙ったのかと思った」


そしてそんな中、俺から顔を背けてプルプル震えている少尉が放った言葉のナイフは、マジで刺さった。

すいません、本当にウケ狙いじゃなかったんです。

ウケてくれてるとこ悪いんですが、誤解なんです。


「悪いな、めっちゃ迷惑かけて……」

「いや、被害受けたのタカオだけだし」


メアリの言葉は優しさだろうか、そうであってほしいと思う。

こいつが困った顔で半笑いになってるのがむしろ辛い。

からかってもらえたほうが、少尉のような反応ばかりのほうが気分的にマシだったかもしれない。


「ホソダ様も回復したことですしそろそろ祭りも始まります、参りましょう」

「あら、もうそんな時間でしたの?」


───話題を変えたい。


アンナさんとウェンディの短いやりとりからは、そんな強い意志が感じられた。

特にウェンディの方、めっちゃ食いつき良かったし。

まあ俺としても恥ずかしいやら情けないやらの感情と向き合い続けるよりそっちのほうがいい、とても助かる。

さっさと前を向こう、次に行こう。


結局およそ全員が半ば無理矢理意識を切り替え、足早にメイン会場へと向かうこととなった。

ちなみに例外は少尉とベルガーンで、少尉はちょくちょく俺の腫れの引かない唇を見て吹き出すしベルガーンは哀れみしか込められてない視線を向けてくる。

とりあえず、肩身が狭いので許してほしい。


そんななんとも言えない空気感の中で俺たちが向かったメインイベント会場は、広場。

しっかりと整備されたスポーツ大会でも開けそうなほど広い広場は、恐らくは一時的に設置されたものだろう高めの柵で囲われ立ち入ることができなくなっている。

そしてその周囲には、たくさんの見物客。

地元民のみならず、俺たちのように遠方からこの日のためにとやってきた者たちも数多く混じった群衆たちが、祭りの開始を今か今かと待っている。


そして彼らの視線の先、会場の中でひときわ目を引くものがある。

それは城門を模した巨大な櫓だ。

門と石造りの壁は絵で骨組みは木、まさしく書き割りのような建造物だがサイズが凄い。

二階建ての家くらいの高さにそれ三件分の長さ、あとは学園の廊下ほどの幅。

果たしてこれを建てるのにどれほどの時間が必要だったのだろうか。

製作者たちの気合が感じられる、なんとも凄い逸品だ。


今現在はその書き割り城門の後ろに備え付けられた、おそらく支えの役割も果たしているだろう階段から頂上へ次々に木箱が運び込まれている。

ちらりと赤いものが見えたので中身はトマトで間違いない。

たぶんとんでもない量だと思うんだがあれを投げるんだろうか、投げるんだろうな。


「どんなルールで何をやるんだこれ」

「あそこに丸太あるじゃないッスか、あれに投げるらしいッスよ」


ヘンリーくんが指さした先にはド派手な仮装をした集団と、一本の大きな丸太。

仮装はたぶん”重武装”と形容するのが正しいだろう。

フルフェイスのヘルメットみたいな被り物にフルアーマー、それらを飾り付けたもの……飾り付けで必死に誤魔化してるけど完全に防具だよなそれ。

隠せてねえぞ。


そして丸太にも何やら板のようなものが大量にくっついているのが見て取れるのだが……あれもデコっているのだろうか。


「あの板にそれぞれ点数が書いてあって、倒した得点の高かった方の勝ちッスね」

「そうなのか……って勝ち負けあるのこれ」

「ッスね」


それなりに広い領土を持つドチャーティ伯爵領は大きく北部と南部に分かれており、それぞれの地域の農家を統率する組織、農協的なものがある。

この祭り、このイベントはその二つの組織の対抗戦となっているらしい。


破城槌に見立てた丸太を門に向けて運ぶ側とそれに向けてトマトを投擲する側、それを双方一度ずつ行い総得点を競い合う。

丸太にくくりつけられた板を何枚打ち抜いたかの他に、門に到達するまでのタイムも審査の対象。

そんな思ったよりゲームらしいなと思える内容のバトルが、この世界におけるトマト祭りなんだそうだ。


「なんか思ってたのとは全然違うな……」


思ったより楽しそうだな、と思う反面全く参加したいとは思わない。

これで投げるのがあの激辛トマトではなく、俺の世界の普通のトマトだったらもう少しやってみたいと思ったかも知れない。

できれば丸太を運ぶ方ではなくトマトを投げる方で。

まあ俺の場合、なんやかんやで丸太運んでそうだけど。


そんなことをしみじみと考える俺を尻目に花火と、歓声が上がった。

間もなく、この世界のトマト祭りの火蓋が切って落とされる。


昔のトマト祭りは現在のようなゲーム形式ではなく、トマトを投げられた侵略者役の人々が途中で「うわーやられたー」と撤退していくというどちらかと言えば節分の豆まき的なイベントだったらしい。


ただこの手の酒が入りやすい祭りという場で相手を一方的に攻撃できるイベントの抱える潜在的な危険性といつか、宿命じみたものがある。

モラルが徐々によろしくないことになっていったり、突然ヤバい奴が参加したりするという現象だ。

トマト祭りも例外ではなく、投擲側が侵略者役の人たちを挑発したりなど目に余る行動が増え始め───運営がこりゃ注意喚起したほうがいいなと思った矢先、侵略者役の人たちがあっさりとキレた。


普通に丸太を櫓に叩きつけたんだそうだ。


叩きつけられた回数は二度、ずいぶん昔の出来事なのに回数までしっかり伝わっているあたり衝撃的な光景だったことが容易に想像できる。

運良くなのか櫓がそれだけしっかり作られていたのか、崩壊したり怪我人がでたりとかはなかったそうだが流石に運営側も即座に対応。

二年間の休止と検討を経て、現在のような対抗戦に舵を切ったんだそうだ。


いやまずトマト投げるのやめろよと思わなくもないが、そこはあんまり譲りたくない一線なのだろうか。

たぶん俺には理解できない何か理由があるんだろうけども、正直危ないからやめたほうがいいと思う。


「クソッ!動きが早い!」

「足を止めろ!足だ!」


ぶっちゃけ今のルールでも、飛び交ってる言葉がだいぶ物騒だし……。


そう思いながら書き割り城門の上に目を移した時、投擲側も相当な重装備だということに気づいた。

流石にヘルメットとかそういう装備ではないが目出し帽にゴーグル、服も手袋も相当な厚手。

テロリストか特殊部隊か、そんな風体だ。


中にはスリングでトマトを投げている者もいる。

投げる時に誤って握りつぶしたら大変とかそんな理由からの重装備だろうか。


うん、やっぱり物騒というか危険だわこのイベント。


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