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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第二章:一般人男性、振り回される。
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第二章:その1

「ふう」


車を降りた俺がまずやったのは軽いストレッチ。

長時間座ってると腰に来る。

俺は断じて年寄りではないが、痛いものは痛いんだから仕方ない。

というか変な体勢で長時間寝たせいで肩も腰もバッキバキだ。


車列は夜通し走り続け、夜が明ける頃ようやく”死の砂漠”を抜けた。

いつまた魔獣たちの襲撃があるかもわからないので止まるわけにはいかなかったというのもあるだろうが、かなりの強行スケジュールだったように思う。

運転してない俺でも体力を消耗したので、少尉を始め運転を担当してた人たちの疲労はいかばかりか。

とりあえずお疲れ様と思う。


そうして今現在、俺たちがいるのは緑の平原地帯。

遠くには同じように緑豊かな山々も見えるし、周囲に点在する木々からは鳥の鳴き声なんかも聞こえてくる。

まさしく大自然といった風情の、何とも気持ちのいい場所だ。


こうしてみると、見渡す限り砂アンド砂アンド砂だった“死の砂漠“の有言実行っぷりに感心する。

あそこはマジで死の大地だった。

あれも自然と言えば自然なんだが……一般的に「大自然」と言われて想像する場所ではないよな。

ベルガーンの言う『昔は緑豊かだった』というのが本当なら、何をどうやったらあそこまで砂漠化したのか気になるところだ。


「ホソダさん、ご無事で何よりです」


リズムを刻みながら身体を動かしていた俺のほうに駆け寄ってきたのはロンズデイル。


”死の砂漠”を抜ける前……先行していた車列に追いついた時点で、少尉が無線か何かを使い戦闘の流れや負傷者の有無を報告しているのを俺は横で聞いていた。

ハンズフリーだったあたり、やはりこの世界の文明はだいぶ発展してんなあと思う。

さておき、その際に俺の状態を割と事細かに伝えているのも聞こえてきた。

ロンズデイルが今こうしてわざわざやってきたのも労いの言葉をかけるためではなく、自分の目で確認するためだろう。

改めて自分の価値……まあ”人としての”ではないのが少しだけ微妙な気持ちになるが、それでも価値がある存在として見られていることを再認識する。


「”ワンド”を召喚してどこかに向かった、と報告を受けたときは肝を冷やしましたよ」

「すいませんご迷惑を……」


同時に申し訳なさもふつふつと湧いてくる。

あの段階で俺がどこかに行ったとなれば、最も可能性として高いのは逃走。

実際には逃げたわけではなく少尉たちの救援に向かったわけだが、「ならばヨシ!」という話にはならない。

どっちにしろ大問題だし、危険性で言えば戦闘の方が高い分なお悪いとすら言える。


「いや本当に申し訳なかったです」


何にしても俺はロンズデイルにめちゃくちゃ迷惑をかけた。

どれだけ謝っても謝り足りないだろう。

そう思って頭を下げようとしたところ、制された。


「今回に関しては私にも油断がありました」


彼は何に対してとは言わなかったが、言いたいことは何となくわかる。

たぶん魔獣の襲撃に対してと、俺を一人でぶらぶらさせたことに対してだろう。

比重としては後者の方が大きいかも知れない。


俺はあの拠点で随分と自由にさせてもらった。

俺の監視に割ける人的余裕がなかった、砂漠の真ん中という環境的に逃げようがないと思われた、あるいは単に優しさから……理由は色々思い浮かぶが果たしてどれかはわからないし、たぶん聞いてもはぐらかされるだろう。


何にしても俺はそれに甘えて好き勝手に動きすぎた。

今後は監視がつくか、何なら拘束されてもおかしくはないんだよなあ。

少しと言わずかなり不安になるが、正直仕方ない。


ただそれに関してロンズデイルから特に明言されることはなく、その後は簡潔に今後の予定について説明されるだけにとどまった。


俺たちが次に向かう場所はオーモンド公爵領の都市オーレスコ。

そこで数日間補給と休養のために滞在した後帝都に向かう、という流れになっているらしい。


会話の中で俺が気になったのは「オーモンド公爵領」という部分。

気になったと言っても何かが引っかかったとかではなく、「帝国って貴族いるのか」と思ったというだけの話だ。

異世界といえば貴族みたいなところはあるが、こんなに文明が発達した国というか世界でもそれは変わらないらしい。


「オーレスコではホソダさんの身体的な検査をさせていただくことになると思います」


きっとその言葉を聞いた時、俺は少し顔をしかめたことだろう。

検査と言われて漫画とかでよくあるマッドな検査を想像してしまったというのもあるが、最大の原因はあの考古学者連中の顔が思い浮かんだこと。

俺は随分とあの連中がトラウマになってしまっているらしい。


というかあのおっさんたちも無事だろうか。

いやまあ無事でいて欲しいとは思うが会いたいとかそういうわけでは───


「おお!お主無事じゃったか!」

「うわぁ出た」


思わず率直な感想を口に出してしまった。

会いたくない時ほど会う、そんな世の中の仕組みはどうやら異世界でも変わらないらしい。

しかもよりによって、またもや俺を脱がせようとしたおっさんだ。

めちゃくちゃよく会うなこいつ。


「あー、えっと、ご無事で───」

「“ワンド“を召喚したという話を聞いたんじゃが、良ければ見せてくれんかのう!!」


会話する気ゼロかよ。

そして耳が早すぎる。


「ストーンハマー教授、ホソダさんも疲れていますのでそういったことは日を改めて……」

「ホソダというのか!そういえば自己紹介もしとらんかったのう!」


ロンズデイルが気を遣ってとりなしてくれてるが、おっさんは聞いてるのかだいぶ怪しい。

無敵かこのおっさん。


「ワシはグレタ・ストーンハマー、帝国のアカデミーで古代遺跡分野の研究をしとる」

「はあ、どうも、細田隆夫です」


名前、すげえゴツいな。


とりあえず古代遺跡と俺は関係ないだろと言いたかったが、言ってしまうと関連性を長々と説明されそうな気しかしないので口をつぐんだ。

たぶんこのおっさんにベルガーンのことが見えてたらヤバかったろうな。

その点ベルガーンは命拾い……いや待て、まさかベルガーンの分まで俺が絡まれてるのか?


「まあ少佐がそう言うなら仕方あるまい、オーレスコまで我慢するとしよう」


もう諦めてくれよ。

というか、まさかこのおっさんも俺の検査に参加するとかか?

どうしよう、確認したいけど怖くて聞けない。


「ホソダくん、お主にはこの国の考古学の未来がかかっていると言っても過言ではない。期待しておるぞ、がはは」


いくらなんでもそこまで期待しないでほしい。

個人が背負える荷物の量じゃない、押しつぶされて死んでしまう。

あとその期待は俺じゃなくてベルガーンに向けてくれ、頼むから。

本当に見えてないのが悔やまれる。

何とかこのおっさんにベルガーンの姿を見せる方法はないものだろうか。


凄まじいテンションで笑うストーンハマー。

そしてその横で苦笑しているロンズデイル。

二人が何事か話しながら去っていった後、俺はまさしく嵐が過ぎ去っていった後のような疲労感に襲われた。


「勘弁してくれ」


そう言ってガックリと肩を落とす今の俺の後ろ姿は、さぞかし哀愁にまみれていることだろう。


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