第九章:その12
「ひとまず今後の予定は追々詰めていくとして、まずはどちらに向かいますか?」
「ええっと、それでしたら……」
ロンズデイルの問いにウェンディが慌てて地図とメモを取り出す。
反応を見るにおそらく、というか間違いなく道々で俺たちとどこに行くかを話し合いながらのんびり旅をする予定だったのだろう。
気持ちはわかるし俺ならそうする。
何ならそれも旅行の楽しみの一部だと思うし。
というか、というかだ。
もしこれがただの学生の旅行だったなら、軍の大所帯が突然同行を申し出てくるのは頭がおかしいと見なされるところだが、生憎と今回は学生側……護衛もつけずに集団で旅をしようとしていた有力貴族の子供たちの方がどう考えてもおかしい。
いやまあ俺自身感覚が麻痺してて今の今まで何とも思ってなかったわ。
よくこんな無謀な計画に許可出したな実家。
「貴族寮に来るのは初めてだね、兄さん」
「そうだな弟よ。時にこれを建てた建築家はキャメロン・アントウィだったか?」
「合っているよ兄さん、彼らしさが出てる建築だよね」
そんなことを考えていた時、ふと横からそんな会話が聞こえてきた。
独特のリズムで交わされる言葉には覚えがある、というか忘れようがない。
「何でお前らがいるんだよ」
俺は思わず、本当に思わず声をかけた。
かけずにはいられなかった。
そこにいたのは双子の獣人、ジョンAとジョンDのゴールド兄弟。
”闇の森”にて共に行動し、そして共に事態を解決に導いた……なんというか、変な奴らだ。
「弟よ、異世界人が奇妙なことを言っているぞ」
「まるで僕たちがここにいるのがおかしいみたいな言い草だね」
「いやおかしいから言ってんだよ」
俺は流石にダブルジョンの正確な立ち位置を知らない。
ミスティック・ネストとかいうオンボロ学生寮に住んでいる以上、一応まだ卒業していない学生だというのはわかる。
ロンズデイルという正規の、それも優秀な軍人が助言や協力を求める程度程度には優秀だというのもわかる。
恐らくイメージとしては教授とか助教授とか、入学してからずっと大学に居続ける学者的な立ち位置が近いのではなかろうか。
そんな連中が何故俺たちの旅行についてこようとしているのか。
そこがさっぱりわからない。
学生という点に注目すれば友達でも何でもない集団の旅行に同行しようとするのは頭がおかしいだろう。
学者という点に注目すれば「奇祭巡り」に行くこと自体は納得しかないが、わざわざ学生の旅行についてこずに自分たちで行けって話でこちらも頭がおかしいだろう。
結局、納得の行く理由付けが全く浮かばない。
「「お前たちに同行したら面白いものが見られそうだからな」」
そして実際の理由は、それらを上回るくらい意味不明で理不尽だった。
「どんな理由だ」
それ以外にどんな感想を抱けというのか。
二人の口ぶりから察するに、前回と違ってロンズデイルから依頼があったというわけではなさそうだ。
完全に自分の意志、自分の判断で面白がってついてきたということになる。
いや本当に、どんな理由だ。
「この車はどうしたんだよ」
「「買った」」
即答、まさかの私物である。
買ったじゃねえよ、何なんだ本当に。
このキャンピングカーは高い。
それこそ家一軒分くらいの価値がある程度には、高級品だ。
だいたいの値段をオレアンダーに教えられた時はドン引きした。
まあもらえたことは感謝するしもらった以上はありがたく使わせて貰うけれども。
「お主らの貢献に比べれば安い」そうだし。
とにかくそれを普通に買えるダブルジョンは何なんだ。
何故そんなに金があるのかとか、何故そんなに金があるのにあのオンボロ寮から出ないんだとか聞きたいことが雨後のタケノコのように生えてくる。
本当に、こいつらは一体何なんだ。
「「期待してるぞ異世界人」」
そんな期待を俺に向けるな。
またなんかろくでもないことが起こる気がするからやめてください本当に。