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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第九章:一般人男性、祭を巡る。
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第九章:その9

「帰れ」

「え、ひど」


夜、俺の部屋。

窓から侵入してきたメアリに対して放った命令形の言葉はいつも通りの不採用。

門限が過ぎた頃に当たり前のようにやってきて、当たり前のように冷蔵庫を物色して寛ごうとする少女に対して、果たして俺は何ができるだろう。

というか俺自身が状況に慣れ始めてる気がする、絶対良くないよなこれ。


七不思議部に入ってからもメアリは変わらず、ほとんど毎日何かしらの理由をつけて俺の部屋にやってきていた。

そして俺やベルガーンと他愛のない話をして、時間が来れば帰っていく。


冷蔵庫に関しては既に”勝手に飲むor食べる”という段階にはない。

メアリが持ち込んだ食べ物や飲み物が複数、冷蔵室にも冷凍室にも入れられている有様だ。

今日も来るなり持ってきたものをせっせと入れている。

勝手知ったる何とやら、もはやここはメアリの第二の部屋と言っても……いや過言だな、過言ということにしておこう。


こっそりやってるわけでもないので当然アンナさんには見つかっているし、だいぶ前に「私の方からオーモンド嬢には言っておきます」と言っていたのだが……何も変わっていないのはどういうことだろう。

どういう結論が出たのかは気になって仕方ないが、微妙に聞くのが怖い。


そんなメアリも、さすがにテスト前後は部屋にやってこなかった。

忙しかったのか遠慮したのか、個人的には両方のような気がしている。

メアリは正直変な奴以外の何者でもないと思うが、常識は一応あるし。

勉強を頑張っていたのも知っている。


今日は俺が傭兵たちと飲んだ日から約一週間。

テスト結果も出揃い、学生たちの打ち上げも落ち着き、そろそろ来るんじゃねえかと思っていたら案の定来たとかそんな具合だ。


待ち遠しかったとか寂しかったとかそういう事実はない。

昼間はちゃんと顔を合わせていたし、そもそも夜な夜な女学生が部屋に来るのを楽しみにする年上の男とかただのやべえやつだろう。

俺はそこの変な一線だけは越えたくない。


「んでタカオはテストどうだったん?」

「なんとか全部受かったぞ」

「おー、良かったじゃん」


メアリに答えた通り、俺は無事受けた教科で全て合格点を取ることができた。

とはいえ評価点は割とギリギリ。

学園はプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズというFPSみたいな成績評価がされるのだが、俺の成績はシルバーとブロンズがほとんどを占める。

なのであまり成績が良かったとは言い難い。


ちなみに不合格は「なし」。

アイアンは存在しないようだ、残念。


手応えはそれなりにあったのだが、そのとおりにはならなかった。

不合格がなかっただけ御の字と言ったところではないだろうか。

やはりこれは文字やら考え方やら、俺がこの世界自体の初心者なせいだろうとは思う。


むしろ勉強の下地が全くできていなかった俺をここまでにしてくれた少尉やアンナさん、あとたまに勉強を教えてもらっていた七不思議部の面々には頭が下がる。

なお先程この気持ちを少尉とアンナさんに伝えたところ、少尉からは珍獣を見るような目で見られた。

解せぬ、というか何故。

俺だってお礼くらい言えるんだが。


『メアリのほうはどうだったのだ』

「おっ、それを聞いてくれるとはさすがベルガーン!タカオとは違うね!」

「何でだよ」


ベルガーンの問いにメアリが胸を張り、そして何故か俺をdisってくる。

何でだよ、これから聞こうとしてたかも知れないじゃねえか。

まあ聞く気はなかったから正しいんだけど。


実のところ、メアリの成績に関して俺は既に知っている。

というより、この学園にいる者ならば皆知ってるのではないかとすら思う。

それほど大きな話題として、学園中の噂になっているのだ。


受講した科目の合計評価が最も優れていた者に贈られる称号、ダイヤモンド。

やっぱりFPSじゃねえかと言いたくなるが、要するに学年首席を指すその称号を得た一年生がメアリなのである。


思い出されるのは入学式の時の教授たちの反応。

俺にはなんというかパンダがはるばる動物園にやってきたみたいなノリで人が群がって来ていたが、メアリに対しても教授たちは積極的に話しかけていたように思う。

それも俺に対するそれとは違い、穏やかかつ理知的な態度で。


何で俺に接するときはあんなやべえことになるんだここの教授連中。

少しは取り繕ってくれ、怖いから。


さておき、メアリの学力に関しては教授たちが入学前から注目するレベルだったらしい。

一方で少尉が「公爵の親馬鹿だと思っていた」みたいなことを言っていた記憶があるので、恐らく少なからぬ人間がそう思っていたのも事実だろう。

並オブ並の俺には理解できないプレッシャーとかもあったはずだ。


そんな中でメアリはきちんと自身の実力を証明してみせた。

これに関しては立派だと思う。

こいつは変人だが、凄いのだ。


ベルガーンに説明しながらチラチラと俺の方を見てくるメアリを見ながらそんなことを考える。


「頑張ったな」

「えまだ説明終わってないんだけど」


褒めるタイミングは、間違えた。


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