第九章:その7
「つまり、子爵領で野盗を倒したのはお前らじゃなくてランス将軍の亡霊だと言いたいのか」
「さっきからそう言ってるだろうが」
一通り説明を終えた俺に対して傭兵たちが投げかけてきた問い。
何なら最初にそう言ってから話し始めたはずなんだが、念押しとばかりに聞いてくる。
しかも複数回、複数回だ。
「どう思う」
「こんな変わった話作るセンスがホソダにあると思うか」
「夢でも見たんじゃねえの」
「そっちの線はなくはないな」
そしてなんでこんなひどい言われようなんだ。
俺の背後、相変わらず別の席で独り飲んでる少尉が顔背けてプルプル震えてるのが伝わってくる。
というか少尉も俺が言ったままを目にしたんだから証言してくれないだろうか、してくれないんだろうな。
悲しくなってきた。
「まあホソダだし何でもアリだろう、本当なんじゃないか」
「そうだな」
「確かに」
どういう結論だそれは。
俺はそんなに意味不明な事態に遭遇しがちと思われてるのか。
いや事実以外の何物でもないんだが、そんな同情とか憐憫みたいな感情を向けられるのはだいぶ困る。
後ろからは「ンブッ」みたいな声が聞こえたし。
……正直少尉も同じようなもんだろうがと言いたいんだが、言ったらすごい顔で睨まれそうなので黙っておこうと思う。
「それで、ランス将軍の亡霊は強かったのか?」
「めっちゃ強かった」
他ならぬ俺自身がそうだったように、傭兵たちもランス将軍の亡霊が”魔法の杖”だとは全く想定していなかったらしい。
そりゃあそうだ、亡霊と聞いて想像するのは普通人間サイズだろう。
しかも攻撃方法が物理とか、どう考えても亡霊のカテゴリに入れて良い存在ではないと思う。
さておきその強さ、剣技ついて俺が解説できることは何もない。
ヘンリーくんあたりに聞けばきっと楽しそうに語ってくれるだろう。
だが残念なことにこの場にいるのは知識も技術もないが故に光景を言語化できない俺と、会話に混じる気が全くない少尉だけ。
これでは上手く説明しようがない。
まあ傭兵連中もそのあたりは察してくれたのだろう、あまり突っ込んで聞いては来なかった。
少し残念そうにしていたので、そこは申し訳なく思う。
「それで、次はどこに行くんだ七不思議部は」
代わりに飛んできたのはそんな質問。
質問者の表情が半笑いなのは「次はどこでトラブルに巻き込まれに行くんだ」という質問とほぼイコールなせいだろう。
これまで七不思議部として活動するたびにとんでもないことに巻き込まれてきた俺たちには、そんな信頼感がある。
否定できないというか否定しようがないのが腹立つな。
まず最初にやった学園探索ですらトラブったわけだし。
ちなみに腹を立ててるのは現実とか運命に対してだ。
俺が一体何をした。
そんなに前世での徳が足りなかったのか。
「夏休み中に各地のお祭りを巡る予定」
こんななんてことのない、ただの観光ツアーみたいな予定ですら不安になってくる。
七不思議部として行く以上、巡る予定の祭が奇祭だらけになりそうなのも拍車をかける。
この世界の奇祭といえばどんな物があるかわからないのも怖い。
というかこれ本来話が出た時点で不安視しておくべき事案のような気がするんだが、なんで不安視どころか楽しみにしてたんだあの時の俺。
まああいつらと旅するのは楽しそう、という感覚が圧倒的に勝ったせいなんだろうけど。
「「ああ、祭ね……」」
そして俺の答えを聞いた傭兵たちは一様に「これは間違いなくなにか起こるな」という表情を浮かべていた。