第九章:その3
七不思議部の次の目的……というか夏休みの予定が決まった次の日、俺たちは学園に戻った。
当初は子爵領への滞在は最長で一週間、何も見つからなかったら切り上げて戻ろうという予定だったのが移動と観光も入れて四日、何をどう考えても早い。
ちょっとした遠出の最中に野盗騒ぎに巻き込まれた、はたから見ればそう映るのではなかろうか。
……いやもしかしてそれが正しいのか?自信無くなってきたな。
いずれにしても早々に学園に戻ってきた俺たちを待っていたのは、まずクラスメイトたちからの質問攻め。
ちなみにまず質問されたのは子爵領で起きたことに関してではない。
そもそも他の学生たちは俺たちの行き先を知らないのだから、それに関しては聞かれなくて当たり前だ。
聞かれてたのはでっかく「帝国七不思議部」と描かれた車両についてである。
俺たちが乗ったあの車両、分類的にはキャンピングカーになるのだが外観はどう見ても軍用車両。
何なら「とてもではないがキャンピングカーには見えない」と言っても過言ではない。
そんな車両が複数台やってきただけでも何事か気になるのに、うち一台にデカデカと「帝国七不思議部」などと描かれていたら関係者に聞きたくなって当たり前だ。
そして「帝国七不思議部」というワードに関係する人物、つまり俺たちはめちゃくちゃ有名。
どのくらいかというと、もはや学園内では七不思議部と言えば「ああ、あいつらか」と即座に俺たちの顔が浮かぶくらいらしい。
まずはウェンディとメアリの家格の人間性、これだけでもとても目立つ。
辺境伯家と公爵家のご令嬢が一緒にいるというだけでも目立つのだが、こいつらの場合そこに”変人”という属性が加わる。
もはや目立たない訳が無いという領域だ。
そしてそこに俺という人間の物珍しさが加わる。
当初からよくわからん人物ということで目立ってはいたのだが、最近そこに一つの強烈なスパイスが加わった。
異世界から来た男という噂が流れているのである。
一応事実以外の何物でもないのだが、そんな噂が流れた理由も信じる奴がいる理由もまるでわからない。
というかここの世界観的に異世界人って信じる余地あるんだろうか、聞きたいが聞くのが微妙に怖い。
いずれにしてもそんな輩がご令嬢二人と一緒にいたら目立つなんてものではない。
唯一そっち方面のキャラが濃くないヘンリーくんが……いやまあ彼も有力貴族の子だし少し変だが、どちらも属性としては強くないにも関わらず一緒に奇異の目で見られているであろう彼が少しだけ不憫に思える。
何ら気にしてなさそうではあるが。
そこに活動の派手さが加わればもうエンタメが服着て歩いているようなもの。
活動内容が派手になったことに関しては俺たちのせいでも何でもないんだが、どうしてこうなった。
「とはいえあれは何だと言われてもな……」
一応説明はできる。
”闇の森”攻略の褒美としてオレアンダー……皇帝陛下から賜った物なのだが、これをストレートに言って良いものなのかわからない。
何か後ろ暗いものがあるとか信じてもらえなさそうとかそんな理由ではなく、なんか言ったらドン引きされそうな気がしてならないのだ。
というか俺なら引く、何だ皇帝陛下から直々に賜った高級車両って。
そんなエピソード某独裁国家でしか聞いたことねえぞ。
「すまん、よくわからん」
若干悩んだ末に俺はそう答えることにした。
「まあ、そうだろうな……」
そして、その答えで多くの質問者は納得してくれた。
この反応が返ってきた理由としては他の七不思議部メンバー、特にウェンディとメアリの存在が大きいのだろうと思う。
そういうことを思いつきそうなブッ飛んだ思考力と実行に移しそうな行動力とそれを可能にする財力、それら全てを兼ね備えているのだから仕方がない。
なんかあいつらに変な濡れ衣を着せる形になった気がするが、俺は何も言ってないのでセーフ。
俺は何も悪くない。
「それで、今回はどこに行ってきたんだ?」
そしてひとしきり車両に関する質問が終わったあと、ついにその質問が飛んできた。
これに関しては誤魔化しようがないし、嘘もつけない。
いやまあそもそも誤魔化したり嘘をつく理由自体がないんだけども。
「ちょっとドブソン子爵領に」
そんなわけで正直に答えたところ、大方の予想通りそちらでも質問攻めにあった。
子爵領での野盗騒ぎはもうとっくに噂として広まっていたらしい。
ワンチャン「あそこ良い観光地だよな」で終わってくれねえかなと思ったが、甘かった。
「お前ら本当にどこ行っても凄い体験するよな」
仲の良い傭兵の一人が半笑いで放ったその言葉に反論する語彙を、俺は持ち合わせていない。