第九章:その1
野盗との戦闘から二日、俺たちはまだ子爵領に留まっている。
理由は、あまりにもスピード解決が過ぎたから。
当初の目的であったランス将軍の亡霊探しも、到着してから目的になった野盗退治も、両方まとめて初日に解決してしまったのはいくらなんでも早すぎるだろう。
よもやよもやだとしか言いようがない。
それでも昨日は襲撃のあった村の片付けを手伝ったり合流したロンズデイルに報告したりと割と忙しかったが、今日はそれも終わって完全フリー。
やることが終わったのならさっさと学園に帰るべきなのかもしれない。
しかしせっかく来たのにもったいないという意見が多数を占めた……というかもう俺も含めて全会一致だったので、今日一日は子爵領を観光することとなり今に至る。
さすがに観光シーズンにはまだ少し早いのと野盗騒ぎの余波が重なったこともあってレジャー施設はまだ閉まっており、回れる場所は多いとは言えない。
できる観光と言えばせいぜい開いているレストランやカフェ、酒場を巡る程度。
そしてそんな状況で俺たち以外に観光客がいるはずもなく、街は静かなものだ。
それでも到着した当初よりは遥かに街の雰囲気が明るくなった。
人通りも増えているし、街行く人々の顔も心なしか穏やかに見える。
やはり討伐隊を退けながら一週間も領内に居座った野盗に対する恐怖は大きかったのだろう。
良かったなあなどと思いながら俺たちは今街角のお洒落なカフェ、そのオープンテラスでケーキを食べている。
ちなみに店は当たりを引いた。
「そいえば次って決まってます?」
ふとメアリがそんなことを尋ねた。
次というのは当然七不思議部の次の目的のことである。
もう行くのは確定事項だ。
「行きたいところはたくさんありますが……まずは期末試験ですわね」
「あーね」
ウェンディの顔にもメアリの顔にも、何ならヘンリーくんの顔にも、テストを間近に控えた学生特有のなんとも言えない嫌そうな表情が浮かんでいる。
多分だが、俺も今そんな顔をしているのだろう。
そう、アーカニア魔導学園にも期末試験なるものが存在するのだ。
学園は好きな授業を好きなように受け、授業に応じたテストを受けたりレポートを提出したりで合格すれば単位を取得できる。
要するに俺の世界の大学みたいなシステムを採用しているのだが、もうすぐそのテストの一発目がやってくる。
「タカオは大丈夫なん?」
「たぶん……」
メアリの問いに俺は自信を持ってイエスと答えることができない。
俺が受けている授業のテストは実技のものと筆記のものがあり、ぶっちゃけ実技の方は多少自信があるのだが筆記の方はどうしても不安が勝る。
やはり問題はこの世界の言語の読み書き。
少尉には今でもほぼ毎日家庭教師をしてもらっているし、他のメンバーに教わったりもしている。
そのおかげでだいぶ上達したとは思うのだが、いかんせんテストを受けて問題がないレベルなのかはわからないというのが正直なところだ。
「そんな気負わず、気楽に受けてくださいまし」
「そーそー、もうけっこう単位出てんだし」
とはいえ女子二人が言う通り、俺は進級に不安があるかというとそういうわけではない。
───座学や実技に優れた者は未来の帝国を担う宝だが、現在の帝国に貢献する者も当然宝である。
そんな理念の下に存在する、学園外で軍や貴族に協力して何かしらの活動をすることで単位が出るシステム。
その恩恵を俺たちはめちゃくちゃ受けているのだ。
この仕組みを利用して得られる単位は、活動内容に応じて学園側が判断するためまちまち。
当然難易度が低ければ少なく高ければ多いという具合になるのだが……そこは俺たちがこなした任務は”闇の森”の攻略、少ないはずがない。
しかもロンズデイルの話だと、今回の野盗騒ぎでも単位を申請してくれるらしい。
解決したのは黒騎士だし、実際に野盗と戦闘したウェンディやヘンリーくんと違って俺やメアリは特に何もしていない気がするがそこは問題ないとのことである。
ロンズデイルには野盗や黒騎士に関する報告までやってもらっているので、かなり申し訳ない気持ちがある。
黒騎士の件くらいは俺たちがレポートまとめるべきじゃないかと思ったが、何でも「あまりに珍しい事例かつ歴史学的にも重要な発見という扱いがされる可能性が高いので、軍が証人兼窓口になったほうが良い」とのこと。
本当に助かる。
「まあ親身になって色々教えてもらった手前な」
というわけで現状、俺は単位に関して大変余裕がある。
それでもテストで手を抜く予定はない。
授業自体が楽しいのもあるが、こんだけ世話になっておいてやる気がありませんはさすがに失礼だろう。
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