第八章:その21
その後はトントン拍子に事が進んだ。
まずロンズデイルに謝罪しつつ事情を説明し、子爵家への根回しをお願いできないかと聞いたところ快諾。
どうやら彼らも子爵領で起こっていることに関して調査が必要という方針を決めていたらしく、反対する理由はないとのことだった。
このできる男、話が早すぎて引くわ。
オレアンダーの方も「好きにせよ」と言って反対はせず。
というかこっちは興味すらなさそうだったんだがそれでいいのか皇帝。
そもそもなんで七不思議部の活動についてきたんだ皇帝。
こいつの行動に関しては謎は尽きないが、考えたらダメなヤツの可能性が高いなこれ。
さておき、以降の情報収集は専門家でもある兵士たちに引き継ぎ、俺たちは報告を待つこととなった。
……こういう状況というか立場になって初めて知ったことなんだが、ただひたすら待つというのはなかなかに辛い。
落ち着かないし、本を読んだり何をするにも集中できない。
いっそ寝ようかと思うが、眠れるかも怪しいくらいだった。
自分たちで動くのは大変だし面倒だが、そのほうがよほど精神的に楽だったと言い切れる。
こういうところで自分が人を使う立場に向いていないというのがわかるのは、なんとも悲しい話だ。
対してウェンディやメアリ、ヘンリーくんはさすがに上位貴族としての教育の賜物か、人を使い結果を待つのに慣れているようだった。
こういう住んでる世界の違いを感じることは、けっこうある。
そして同時に、これは彼ら彼女らの個人的な資質によるものなのだろうが、わずかにそわそわしているように見えて「ああうん同じ人間なんだな」と若干失礼なことを考えることもある。
学園に入ってから、こいつらと付き合いだしてから俺が感じるようになった”いつものこと”である。
さておき、最終的に兵士たちが情報収集を終えて戻ってきたのは日が落ちた頃。
どういう調べ方をしたのかはわからないが野盗の襲撃があった集落と物流ルート、あとは子爵軍の討伐隊が戦闘になった場所が判明。
被害や戦力などの詳細はまだわからないそうだが、正直かなり早いと思う。
さすが情報部所属、さすがプロと感心してしまった。
とりあえずそれによって判明したのは、被害が発生しているのは子爵領北西部だということ。
そしてそれを受けて、俺たちも参加した話し合いが持たれ……恐らく次に事が起こるとすればまた北西部だろうという予測が立った。
そして行動は早い方が良かろうという話になり、子爵との会談のために街に残るロンズデイル以外の者たちは夜のうちにキャンピングカーごと北西部にある無事な集落へと移動することも決まった。
そして到着した集落がこちらになります。
いやホント早かったわ、情報収集を終えた兵士たちが戻ってくるまでが長く感じたから特に。
さておき、集落だ。
恐らく呼称は村になるであろう小さな集落は、まだ寝静まるには早い時間帯であるにもかかわらず暗く静まり返っている。
まるで嵐をやり過ごそうとしているかのように。
ベルガーンによると人の気配はするらしいので、恐らく建物内で息を潜めているのだろう。
怖いなら避難すれば……とは思わなくもないし、きっとそれは子爵家からも打診されているはずだ。
それでも村に残っている者たちが、確かにいる。
もしかすると多くは避難し、残っているのは一握りなのかもしれない。
土地を捨てて逃げるという選択は難しいものだということを俺は知っている。
「ここを捨ててどこに行くというのか」という言葉を聞いたこともある。
どちらも実感や実体験ではなく、ただの知識でしかないが。
「我々の立場でこう言うのは憚られますが……助かります」
そして俺たちの来訪に意外な反応を示した者たちがいた。
村に駐留していた、子爵配下の兵士たちである。
事前に連絡を入れて訪問を伝えてはいたらしいが、それでも俺たちは村の手前で車を停めるように言われ、銃も向けられた。
だが俺たちが野盗ではなく軍の兵士や学園の生徒たちであることを証明した後に伝えられたのは、感謝。
追い返されるかもとすら思っていただけに、意外だった。
『この人数で村を守れと命令する者の気が知れぬ』
車から降りた時、ベルガーンを含めその場にいた面々がかなり険しい顔をしたのも無理はない。
配備されていた兵士たちの数はせいぜい十名程度。
平和な時なら十分すぎる人数かもしれないが、討伐隊を退ける程に強い野盗の相手をするにはいくら何でも少なすぎる。
俺たちの車列を止めるのですら勇気が必要だったはずだ。
いかに南部閥と軍の折り合いが悪いからと言って、現場の人間が危機に瀕してなおその”対立”に従えるかといえば、無理だったのだろう。
「皆様はお休みください、今晩の警備は我々が引き継ぎます」
ウェンディの言葉に、彼らが心から安堵したように見えるのがその証左だ。