第八章:その20
かくして俺たち七不思議部の目的は野盗の掃討ということに決まった。
ランス将軍の亡霊探しは後回し……というよりもうできないだろう。
まあこれに関しては今の時期しか出ないとかそういう事情があるわけでもないので問題ない、はずだ。
そもそも出るか出ないかすらわからないわけだし。
「少佐たちには謝ったほういいよね」
とりあえず最初にすべきことは、メアリの言う通りロンズデイルたちへの謝罪だろう。
彼と彼の率いる部隊は、七不思議部から見ると引率の先生や保護者みたいなものだ。
仲間というのはちょっとおこがましいような気がする、世話になりっぱなしだし。
今回彼らは「ランス将軍の亡霊に関する調査」という目的のために同行してくれているので、それを脇に置いて別なことを始めるとなると謝罪は必須だろう。
いやまあ謝るならそもそもこんなくだらない目的に付き合わせていることからのような気がしてきたが。
……何で付き合ってくれてるんだろう、忙しいだろうに。
「それは大丈夫だと思うよ」
そこに口を挟んできたのは少尉。
普段は俺たちの会話に入ってくることなんてまずないのに、今回はやたらとアドバイスをくれる。
どういう心境の変化だろう……と思って見つめていたら微妙に変な目で見つめ返された。
「国内の治安維持は軍人にとって最優先事項だからね」
気を取り直してというか俺の存在を意識の彼方に追いやったと思しき少尉に軽く凹みながらも、なるほどと納得する。
確かに何かしらの事件が起こっているのに「いや今他の任務中なんで」って言って無視したらボロクソに叩かれそうだな。
余程重要な任務なら別だろうけど。
「子爵家への根回しも少佐にお願いしたほうがよろしいのではないでしょうか?」
「ああ、それが良いと思うよ」
そしてアンナさんも助言をしてくれて、少尉がそれに同調する。
なんというか、彼女たちもちゃんと保護者をやってくれている。
やはりこういう場面で大人の社会経験から来る助言はありがたい。
俺も大人なはずなんだが、こういう事が出来ないという問題には目をつぶろうと思う。
仕方ないだろう、まだこの世界に来て一年も経ってないんだから。
いつか今のように振り回されっぱなし頼りっぱなしでなく、俺から何かしらの助言ができるようになりたいなあとは思う。
思うんだが、そうなるビジョンがいまいち想像できないんだよなあ。
哀しい。
それにしても子爵への根回し、やっぱり面倒なんだろうな。
ここは子爵領……要するに子爵の縄張りだから必要なのは当たり前だ、無視して勝手にやったら間違いなく大問題になるだろう。
子爵家と関係が深かったり、そこまでいかずとも同派閥だったりすれば許可が簡単に下りたり事後承諾でも許してもらえたりすることもあるだろうが、残念ながら俺たちの中にそんな都合の良い立場の人間はいない。
「許可、下りるでしょうか……」
不安がるウェンディの実家だけでなく、メアリの実家もロンズデイルや少尉の属する帝国軍も子爵家との関係は良くない。
アンナさんは王宮直属とはいえメイドであり、立場は明確に下。
唯一ヘンリーくんの家だけは良くも悪くもない関係らしいが、南部閥の一員というわけでもないそうなのであてにはできない。
「少佐、そういうの得意だから」
わずかに肩をすくめながら少尉が言う。
そのあたりはさすができる男ロンズデイルといったところか、奴にできないことなどないのかもしれない。
というか恐らくロンズデイル、というより軍が取り仕切ってくれたほうがまだ角が立たないだろうなとは思う。
彼らが手を焼いた野盗をたまたまそこにいた部外者が討伐するという流れになる場合、その部外者は学生よりも帝国軍だったということにしたほうが子爵家の面子は保たれる。
後々文句は頂戴することになるかもしれないが、俺たちの存在を前面に押し出した場合子爵家は南部閥内で悲惨な風評被害を受ける可能性が高い。
自分たちの動きが鈍かったことを棚に上げたい連中から、それこそ文句や言い訳すらも許されない程度にだ。
それならまだ「軍が首を突っ込んできた」と文句を言える方がまだマシなはずだ。
そういう点でも、ロンズデイルに任せるのがこの場合は正解だろう。
「でしたら少佐にお願いしてみましょうか」
ウェンディの言葉に異論は出ず、こうして俺たちの予定は確定した。
あとは、ロンズデイル次第。
というかウェンディの反応を見てて思ったんだが、まさかこいつ根回しのこと何も考えてなかったのか。
暴走特急の擬人化かこいつ。