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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第八章:一般人男性、亡霊を探す。
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第八章:その15

少尉は普段七不思議部の方針には口を出さない、出したことがない。

それが今回は方針が迷子になったタイミングで明確なアドバイスをくれた。

実にありがたい話である、まるで教え子を見守る先生だ。


よく考えたら俺にとっては先生だな、勉強を教えてもらってるし。


「理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「皆様が行くような施設は基本的に従業員の教育が行き届いていますので、客を不安にさせる情報は伝えないはずです」


意外にもウェンディに対する少尉の返答は、敬語だった。

まあウェンディは貴族で立場的に少尉より上だから当たり前と言えば当たり前なんだが。


そういえば少尉がウェンディやメアリと話しているのを見るのはこれが初めてだと気付く。

もしかするとメアリに対してもこんな感じなんだろうか。


さておき少尉とウェンディの会話についてだ。

二人はこの街における店や施設のランク分けについて話している。


旅行するには多くの金と時間が必要なのはこの世界でも俺の世界でも変わらない。

この世界の場合航空機や列車の類が存在せず、さらに危険な魔獣などが出没するせいで旅行のハードルは俺の世界よりも高いように感じるが、それでも多くの観光客がこの街を訪れるらしい。

それほどこの国、もしくはこの世界に生きる人々は裕福で逞しいのだろう。


しかしそんな裕福な観光客の中にも格差というものは存在する。

使える金も、時間も大きく違うのだ。


平民……旅行できるって時点である程度は金も時間も余裕がある層だが、そういった人々が気合を入れてこの子爵領に来ても滞在はせいぜい一週間程度。

対して貴族や商人のように”上”の連中は一ヶ月やそこら平気で居座る。

それも別荘や高級ホテルのように金を食う場所に、だ。

中には夏から秋にかけてずっと滞在し、ここで仕事をこなすような連中もいるというから恐ろしい。


当然ながらそういう層は飯を食う場所も、遊ぶ場所も平民とは違う。

明確なランク分け、断絶に近いものがそこにはある。


俺が具体例として挙げられるのは帝国ホテルだろうか、帝都の施設だがあれはヤバかった。

あそこは何をどう考えても俺のような人間が泊まる場所ではない。

今住んでる学園の貴族寮も大概俺が住むべき空間ではない気がするが、帝国ホテルはそれ以上。

きっと平民が普通に働くだけでは、一泊分の料金すら捻出できないだろう。


そしてそういう高級な空間ではしっかりと教育を受けた者が接客をしているため、余計なことはしないし言わない。

帝国ホテルでもそうだったし、きっとこれは俺の世界でも同じはずだ。


……元の世界ではそういう場所に行ったことどころか、近づいたこともないので断言できないのがなんか悔しいな。


さておき、そういった高級な場所と違い平民向けの施設や店は教育が緩いか、そもそもされていない。

感覚的にはこちらはバイトの教育に近いだろうか、動画見て終わり的なやつ。

そして地元の連中も利用することが想定される安い酒場のほうが人々の口も軽く情報収集にも向いているのではないか、というのが少尉の提案だ。


「よくわかりました」


どうやらウェンディは少尉の説明に納得したらしい。

まあゲームとかでも定番ではあるしな、場末の酒場での情報収集。


「ですがそういった場所は、私たちが行っても大丈夫なのですか?」


彼女たちはそういう場所での作法を知らない。

それで浮いたりいらんことを言ったりしてそれがトラブルの元になったりしないか───というのがどうやら不安であるらしい。


実際のところ、いくら奇行多めかつ気安い性格と言動であったとしても、かなり高位の貴族だという事実は変わらない。

所作や礼儀作法には明らかに厳しく仕込まれたであろうものが見て取れる。


下手すると俺とかダブルジョン、あとはロンズデイルやその部下の兵士たちくらいしか平民と接したことがないとかも十分あり得る。

不安になるのはもっともだろう。


「そうですね、車でお待ちいただいたほうがスムーズに行くかもしれません」


断言こそしないものの、少尉としてもそこは懸念事項ではあったらしい。

故に提示した方針は、待機。


それがいいと俺も頷きかけたところでふと気づく。

そしてどうするのか、続く言葉が完璧に予想できた。

予想、できてしまった。


「ここは誰がどう見ても平民にしか見えない人物に任せましょう」


本日二度目、俺に全員の視線が集中する。

ノータイムで連想するな、少しは悩んでくれ。


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