第八章:その14
「で、どうするんだ?」
誰のせいでこうなってるのかなどと考えるのはやめて前を向こう。
俺は悪くない、俺の星の巡りもたぶん悪くない。
悪くないったら悪くない。
「とりあえずは予定通り情報収集でよろしいかとは思うのですが……」
ウェンディはそこで一旦話を切り、俺たちの顔を見た。
こいつが何を言おうとしているのかはもう察せられる。
付き合いはそんなに長くないのに、わかるようになってしまった。
慣れってのは恐ろしい。
この短期間でこれに慣れたという事実はもっと恐ろしい。
「いかがでしょう、私たちにできる事があれば今この地で起こっている問題の解決に協力いたしません?」
ウェンディは善良だ。
少々おかしな挙動をすることは多々あるが、基本的に根っこは善人だと言い切れる。
いやごめん、おかしな挙動が少々で済むかは自信ない。
「いいと思う!」
「賛成ッス」
そしてメアリとヘンリーくんもそれは同じ。
皆間違いなく”いい子”たちだと思う。
元来の精神性によるものか教育によるものか、あるいは若いからこそか。
いずれにしても時々眩しく感じることもあるくらいだ。
そして同時に、おそらく魑魅魍魎が跋扈する貴族政治の世界でやっていけるのだろうかと不安……というよりどちらかと言うと心配してしまう。
……やべえ、思考が老け込みすぎている。
俺はそんなに年はとっていない。
まだおっさんに片足突っ込んだくらいの年齢だ。
断じてまだおっさんではない。
「ホソダさんはいかがです?」
いかん、自身の老け込み具合について思考を巡らせすぎた。
気を取り直そう、というか忘れよう。
俺はまだ若い、まだまだ若いと信じよう。
「俺もいいと思うぞ」
反対する理由はない。
極端に言えば「目の前で困っている人を放っておけない」という考えなわけだが、それを否定する理由もないし否定するつもりもない。
元の世界で俺一人ならスルーしたかもしれないというかまず間違いなくスルーしたが、この世界での俺はやけに善人だなと思う。
若い連中に引っ張られたのだろうか。
……いかんまた思考が老け込んだ。
「では決まりですわね」
かくして俺たち、七不思議部の方針は決まった。
エドガー・ランス将軍の亡霊に関する情報収集と、子爵領で何が起こっているかについての情報収集、その二つの同時進行。
何ならランス将軍の亡霊については後回しで、とかそんな感じだろうか。
「ではまずは……」
再びウェンディが言葉を区切る。
「どうしたらいいでしょうか……?」
ズッコケた。
今度は先程と違い、続ける言葉が浮かばなかったが故の区切りだったようである。
こいつ本当におかしな挙動が多いな。
とはいえどうしたらいいか、その問いに対する答えは俺には浮かばない。
メアリとヘンリーくんも困っている。
情報収集というものは難しい。
ゲームなら手当たり次第に話しかけていけばだいたいわかるが、これは現実だ。
手当たり次第に話しかけるには人が多く、時間は少ない。
一応俺たちには学園で七不思議探しのために情報収集をやった経験はあるが、あの時は聞く相手が同じ学生ということもありだいぶ難易度は低かったように思う。
対して今回は見ず知らずの人に聞かねばならない。
学園では世間話の延長で情報収集も、ということができたが今回は世間話を振るところから一苦労だ。
ランス将軍の亡霊だけなら簡単だったかも知れない。
観光客としての立場で気軽に聞ける質問だろうし。
しかし何が起こっているかすら分からない子爵領の異変に関しては、聞き方からして浮かばない。
「どうしたらいいと思う?」
『余に答えを求めた理由に純然たる興味がある』
いやだってお前何でも知ってそうだし……。
ともあれベルガーンも今回は頼りにならないようだ。
なんか頼りにするのが間違いみたいに言われた気もするが気のせいだろう。
「酒場に行ってみたら」
そんな中、意外な人物からアドバイスが飛んできた。
少尉である。
「ただし平民向けの、安い方の酒場ね」
その時俺たちが彼女に向けた視線は、救世主を迎える民衆のようだったのではなかろうか。




