第八章:その7
乗り込む際にも一悶着あった。
一両目に俺と少尉。
二両目にウェンディ、メアリ、ヘンリーくん、アンナさん。
こんな謎の割り振りが前もって決められていたせいである。
「それはだいぶおかしいと思うんスけど」
それを聞いたヘンリーくんの第一声がこちら。
見たことのないくらいの真顔だった。
わかる。
というか真っ当極まる主張としか言いようがない。
普通に考えて男女で別れるべきところだろうこれは。
俺自身ヘンリーくんと一緒に乗るつもりだったし。
ウェンディもメアリも「私たちは気にしない」と言っていたがそういう問題ではない。
年頃のお嬢様方と同じ空間に一人放り込まれるというというのは、俺にもヘンリーくんにも荷が重すぎる。
しかもお嬢様方の”格”は圧倒的に上。
さっきロンズデイルに「寛いでください」とか言われたが、とてもじゃないが寛げる気がしない。
世の中にはそういう状況を喜ぶやつもいるかもしれないが、俺には無理だ。
お嬢様方ももう少し、ほんの少しでいいので気にしてはいただけないだろうかと思う。
門限過ぎた後に窓から男の部屋に侵入するのが日常になってるお嬢様には難しいかもしれないが。
この国の女性は上の階級に行けば行くほど距離感がバグるのだろうか。
「我々と一緒でも構わなければ三台目に───」
「一向に構わないッス!!」
結局ロンズデイルの提案をヘンリーくんが食い気味、というかもはや「二台目でなければどこでもいい」と言わんばかりの勢いで受け入れたことでこの問題は解決した。
どことなくロンズデイルの顔が「まあそうなるよな」と言いたげなものだった気がするのは気のせいだろうか。
というか、何で俺と同じ一台目の車両に乗るっていう選択肢が用意されてないんだ。
さておき、俺たちは兵士たちに促され各車両に乗り込むこととなった。
前途に若干の不安を感じながら。
「靴はこちらにお願いします」
「あっはい」
まず階段を上がり車内に入ろうとしたところ、靴を脱いで入口横の棚にしまうよう指示された。
どうやらこの車は土足禁止、土禁ちゃんであるらしい。
ちなみに俺と少尉二人分のスリッパがきちんと用意されていた。
サービスが手厚い。
「うわ、すげ」
そんなこんなでついに車内に入った俺は、率直に感動した。
内部は予想通りのキャンピングカー。
しかしその中身は俺が見たことがあったり、辛うじて想像していたものとはまるで違う。
狭いながらも整った、きちんとした部屋をそのまま備え付けたかのような空間だった。
入ってすぐ、目の前にあったのはキッチンと戸棚、そして大型の冷蔵庫。
どれもこれも簡易的なものでなく本格的な、ご家庭で使うような機能とサイズの代物である。
どうやら水も出るらしく普通にシンクもあるのが驚きだ。
向かって右側、運転席のある方を向けばそこには大きめの四角いテーブルとそれをコの字に囲む椅子。
椅子は人一人が寝転がれる長さで電車の座席のような代物だが、あれよりもソファに近いように見える。
恐らく座り心地は雲泥の差だろう。
向かって左側、車両後部にはまず二段ベッドとその向かいに二つの扉。
手前の扉はトイレ、ちゃんとした洋式で洗面台までついている。
次の扉は……なんと狭いながらもシャワールームだった。
どんだけ水を潤沢に使える設定なんだこのキャンピングカーは。
そして一番奥には大きなベッド。
大きさはおそらく二人分。
一人ならば余裕で大の字になれるし、二人で寝ても手狭などとは感じないだろうサイズ。
天井には開閉可能な窓がついており、夜は星空が見放題である。
……以上がこの高そうなキャンピングカーのおおよそ全て。
あとは多くの収納スペースがあることと、壁につい触りたくなるスイッチが沢山並んだ場所があることくらいか。
まあこのスイッチはたぶん明かりのオンオフだろうと思うので、後で弄ってみよう。
それにしても、ほんとに高そうだな。
もし現実世界に同じような代物があったとしたら果たしていくらくらいだろう。
家くらい余裕で建つお値段と言われても驚かない。
「何でこんなもん寄越したんだ」
ため息をひとつつき、俺はそう問いかけた。
頑張ってスルーしていたが、もう限界だ。
俺が向き直った先には、一人の人物がいる。
椅子の一角を占領し、テーブルを埋め尽くさんばかりに並んだ酒を飲みながらずっと俺の方をニヤニヤと眺めている女。
「もう少し身体全体で歓びを表現したらどうじゃ」
その名はオレアンダー。
何がどう気に入ったのか相変わらずメイド服を着た女帝が、当たり前のようにそこにいる。