第八章:その3
「やっぱりあいつら色々知ってたわ」
傭兵たちとの飲み会から数日が経ち、七不思議部員が集合した日。
俺は傭兵たちから聞いた不思議な出来事をまとめたメモ書きをテーブルの上に置いた。
当初は口頭で良いじゃないかと思っていたが、「酒が入ってる人間の記憶力がまともに働くと思う?」という少尉の言葉に反論できなかった結果のメモ書きだ。
実際書いてる最中に詳細が思い出せなくなったものがあるから困る。
まあ書き文字の練習にもなって良かったとは思う。
さすがにもう慣れては来たが、地名などの固有名詞はまだちょっと苦労する。
「さすが国内外の戦場を渡り歩く傭兵の皆さん、と言ったところですわね……」
複数枚のメモ書きを見たウェンディの第一声は「こんなにありますの!?」だった。
永遠に秋が続く森、夜星空のように光り輝く砂地、空に浮かぶ小さな島、鏡のような葉を持つ植物、喋る本……。
他にも様々な場所や物を教えてもらった。
どれもこれも興味を引くものばかり。
さすがファンタジーな世界と、聞いてるだけでめっちゃテンション上がった。
ちなみに実際に目にしたことはあったりなかったりで、教えてもらった場所や物全てが実在するかはわからないとのこと。
それでも情報収集としては大成功と言えるだろう。
感謝の言葉しか浮かんでこない。
「うーん、全部行ってみたい!」
「それは無理だろ」
笑顔でそんなことを言い出したメアリに苦笑を向ける。
載っているもの全てを見て回ったら間違いなく学園生活に影響が出る、それほどの数だ。
”闇の森”みたいに単位が出るなら話は別だが、出るわけがないしな。
「そうですわね、全てというのはさすがにロンズデイル少佐のご都合も……」
「なんでロンズデイル?」
ウェンディの口から突然出てきた名前に思わずツッコミを入れる。
もはや顔なじみと言っていい軍人、ロンズデイル。
直近でも”闇の森”を共に攻略した仲ではあるが、何故その名前が出てきたのかがよくわからない。
まさか七不思議部の活動に付き合わせるつもりなんだろうか。
だとしたらいくらなんでも迷惑すぎるだろう。
彼にも仕事が───
「七不思議部として学外に出る際は協力する、とおっしゃっていただいておりますの」
と思ったらよもやよもやである、既に話がついていた。
「何で!?」
わからん、ホントにわからん。
それでロンズデイルになんの得があるんだ。
学生に振り回されて、本業に支障が出るだけじゃないのか。
「少佐のことだから、キミについて行ったらまた何かあると思ってるんじゃない?」
問いの答えは背後、少尉の口から飛んできた。
解せぬ。
いや軍人がそんな変な行動指針でいいのか。
これまで奇妙な出来事に巻き込まれる率が高かったから今後もそうとは限らないぞ。
正直自分でも「これまでもそうだったし、これからもそうだろうな」とは思うけど。
「少佐、たぶん今かなり自由に動ける立場なんじゃないかと思う」
「まさしくそうおっしゃっておりましたわ」
言ってたのかよ。
「自由に動ける時間を俺に託すなよ……」
少佐、いくらなんでもその期待は重すぎやしないだろうか。