第八章:その1
「「カンパーイ!」」
ここは帝都にある酒場。
俺が普段接している人々とは違う荒くれ者、おそらくは冒険者とか傭兵とかそんな職業の人々が集まっている店。
テーブルの上には肉や魚、野菜を雑に煮たり焼いたりした料理とビールジョッキが並ぶまさしく場末の酒場。
そんなファンタジーではお馴染み感があるが、この世界では初めて訪れる空間で俺は酒を飲んでいた。
一緒にテーブルを囲んでいるのは学園でよく喋る傭兵たち。
俺が”闇の森”を攻略したという話をどこからともなく聞きつけた連中が詳しく話を聞かせろと言い出し、殆どなし崩し的に飲み会へと拉致されて今に至る。
「たまにはいいんじゃない」と珍しく黙認してくれた少尉は一人別テーブルで酒を飲んでいる。
見知らぬ野郎どもから何度かナンパされているが眼力だけで追い払っているあたりは流石だと思う。
ベルガーンは街についた瞬間どこかに行った。
もはやいつものことである。
ちなみに門限以降の外出は「酒を飲みに行く」というふざけた理由で許可が出た。
それでいいのか学生寮とは思うが、時間を気にせず飲めるのならまあ良しとしよう。
「にしてもあそこ攻略はすげーよ」
「俺はほとんど何もしてないけどな」
「嘘つけ、どうせ活躍したんだろ」
何でこいつら俺の評価こんなに高いんだ?
とはいえ頑張ったのは確かなので俺がやったことを説明すると「ほらやっぱり」とゲラゲラ笑われた。
「ホソダにはわからないかもしれんが、ドラゴンって遭遇イコール死くらいの勢いだからな?」
傭兵に限らず危険に身を置くことを職業にしている連中からすると、もうドラゴンは天災みたいな扱いらしい。
既に世界には殆ど存在しない種族なこともあり彼ら自身や周囲に遭遇したことがある者はいないそうだが、それでも危険性に関しては脈々と語り継がれているんだそうだ。
まあそりゃそうだろうなと、件のドラゴンの強さを思い返して納得する。
「それ相手に囮ができるホソダはなかなかの化け物だな」
「様付けで呼ぼうぜ」
「やめてくれない?」
なんというか、すげえ懐かしい雰囲気の飲み会だった。
からかいながら、からかわれながら、とりとめのない話をして酒を飲む。
元の世界では同僚やら友人やらとこんな感じで飲む機会がそれなりにあったが、それがもう遠い昔のことのように思える。
この世界に来てからそこまでの時間は経ってないんだが。
帰りたいかと言われれば、正直そこまででもない。
言葉は通じるし周りも良くしてくれるせいだろう。
あとはよく言われる、俺のメンタルが図太いのが原因かもしれない。
それでも、あいつはどうしてるだろうかとかあれはどうなったんだろうかと想いを馳せることはある。
たぶん考えても仕方のないことだろうとは思うけど。
「どうしたホソダ、なんか遠く離れた故郷を懐かしんでるみたいな顔になってるぞ」
「なんでそこピンポイントで当たるんだよ」
いやほんとに何で当たったんだ。
そんなに顔に出てたか?
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