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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第七章:一般人、立ち向かう。
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第七章:帝国の或る平穏な一日

私の名前はウィンストン・ローレル。


名門ローレル公爵家の当主であり、現在は帝国の宰相も務めているとても偉い男である。


さて、帝国内には秘境やダンジョンなどと呼ばれる場所が未だ多く存在する。

”轍”と呼ばれる深い谷、レーバリーの水中洞窟、ヘイロー族の聖地”御使いの降りる山”、”死の砂漠”……。

我が領地にもビドゥエルの鍾乳洞と呼ばれる深い洞窟が存在する。


有り体に言ってしまえば危険な場所のことだが、その危険さは多種多様。

魔獣が多く生息している、まるで誰かが来るのを拒むような地形、周囲に住まう人々が異常に排他的など様々だ。

中には政治的、外交的な理由から立ち入りが禁止されている場所も存在する。


しかしそういった場所で発見される動植物や鉱物、太古の遺産などは珍しく、高値で取引される物であることが多い。

ビドウェルの鍾乳洞の深部で採れる鉱石などは、もはや宝石もかくやという値段だ。

故にそれ目当てで足を踏み入れる者、俗に冒険者などと呼ばれる連中は大勢存在する。

その人数たるや、世界中からかき集めれば一国の軍隊に匹敵する程とも言われる程。

冒険者ギルドなどという互助会か管理組合のような組織が必要とされる程だ。


正直私から見ればならず者に毛が生えたような連中でしかないが、帝国では彼らを積極的に利用しているため表立ってそれを言うことはない。

帝国の発展のため、上手く付き合っていかねばならない者たちなのだ。


帝国がそうして冒険者を利用するだけでなく軍内に専門の部署まで作って秘境やダンジョンの調査や探索に積極的な理由は、物だけでなく地理的な要素も大きい。

人里近くに危険があるなら排除したいし、開発できるなら開発してしまいたいのだ。

そこに道を通せれば。

そこに街を、軍事拠点を作れれば。

そう思う場所は、数多く存在する。


さて、まさしくそんな地理的要因から重要視されていた”闇の森”と呼ばれる場所が存在した。

東部と南部を繋ぐ街道のほど近く、そこに道を通せれば大幅に所要時間の短縮ができる位置。

時折観測される巨大な魔力反応が危険視されたこともあり幾度となく調査が試みられて来たが、危険な魔獣の存在などによりことごとく頓挫してきた場所───そう、過去形である。


”闇の森”は突然消えたのだ、綺麗さっぱり。


はじめにその報告を受けた時は地図の印刷ミスの話でもしているのかと思った。

「なんでそんな話をいちいち宰相である私に報告するんだ」と言ったら怒られた。


というか数日が経ち、正式な報告書に目を通して尚この話が現実と信じることができない。

なんというか「森の奥に存在する結界の向こうには闇に閉ざされた街がありそこではリビングデッドやスケルトンが跋扈、それを乗り越え空飛ぶドラゴンの相手を仲間に託している間に儀式魔法を解除したら森が消えた」と言われてもその、困る。

病人の見る夢かと思うくらいに情報が散らかっているな、という感想が真っ先に来た。


だが少なくとも”闇の森”が消え、そこに街が出現したというのは現実で間違いないらしい。

周辺の貴族から同様の報告が次々に上がってきているし、気の早い者は領有権の主張まで始めている。

突然現れた無人の街とか、もう少し警戒すべきではなかろうか。


ともあれ、今後しばらくは再調査と取り扱いに関する協議で忙しくなるだろう。

間違いなく帝国にとっては喜ばしい話だが、面倒だ。


「それにしても、またこいつか」


私はそう呟きながら、げんなりした気分でもう一度報告書に目を落とす。

ホソダタカオ、そこには当たり前のように異世界人の名前があった。

どうやら彼も調査隊に参加して、大活躍したらしい。


正直もうこいつの活躍についてはどうでも……ドラゴン相手に時間を稼いだ?

思ったよりも凄まじいな。


さておき、何故彼は毎回毎回大きな出来事の中心にいるのだろう。

もはや次に何が起こるのか……何をしでかすのか、不安で仕方がない。

今回のように帝国にメリットがある出来事ならば良いのだが。


「運は……悪いんだろうな……」


異世界からこの世界に飛ばされた、という時点で間違いなく彼の運は悪いと断言できる。

一体何をやらかしたらそうなるのか、見当もつかない。

そしてこれほどの頻度で厄介事に巻き込まれ、挙句の果てにあの女帝に気に入られるとかもはや同情したくなるレベルだ。


どう取り扱うべき存在なのか、ずっと悩んでいる。

女帝は彼と子を為すとか言っているが、いまだに色良い返事が返ってきた様子がないのも困りものだ。

もういっそ全力で反対したほうが帝国のためにも、他ならぬ異世界人のためにもなるのではなかろうか。


「もしかして運が悪いのは、私もか?」


嫌な疑問が頭をよぎった。

そしてそれを否定する要素は、まるで思い浮かばない


苦労人の見本市とさえ言われる歴代宰相の中でも、異世界人の来訪などという札を引いたのはおそらく私だけ。

考えれば考えるほど補強されていく説に、私は頭を抱えた。


お久しぶりです。

体調不良やらリアルのごたつきやらで遅くなってしまいましたが、またよろしくお願いします。

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