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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第七章:一般人、立ち向かう。
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第七章:ウイリアム・ロンズデイルとゴールド兄弟

「何かわかりそうか?」


指揮官は、問いに答えが返ってくることを期待していない。

果たして視線を本と端末とに向ける双子の獣人に自身の言葉が届いているか、それすらもわからないのだから。

それほどの集中。

それほどの没頭。

長い付き合い故に指揮官はそれを理解し、尊重している。

だから彼は手近な椅子に腰掛け、待つことにした。


双子の獣人は今、ミスティック・ネスト内の自室にてあるものの解読に勤しんでいる。


地下室にて発見された、一冊の本。

通常時を経れば劣化するはずの紙の本であるにも関わらず、まるで街同様時が止まったかのように良好な状態でそこに在った。


彼らはこの本にあの都市で何が起こったか、あるいはあのドラゴンは何なのかという疑問を解き明かす記述があると期待した。

だがページに踊る文字はまるで未知のもの。

古文書や情報部のデータベースなどと照らし合わせながら解読を試みているものの、作業はまるで進んでいない。


「「駄目だな」」


双子の獣人は同時にそう言い、同時に手を置いた。


「お疲れ様」


指揮官は苦笑しながら二人に労いの言葉をかける。

彼にとって二人は友人であると同時に、最も頼りにしている学者でもある。

そんな者たちが無理だと言うのなら、軍の研究所や学園に持ち込んでも変わるまいという確信があった。


「「既知の言語と一切合致しない」」


情報部のデータベースには過去に発見された場所、モノ、伝承などが膨大な量記録されている。

帝国周辺の歴史約二千年分がほぼ網羅されていると言っても過言ではないだろう。

指揮官の権限でアクセスできるのがその全てではないとはいえ、普通ならば十分すぎる量と質。

だがその中に本に記された文字と合致するどころか手がかりになりそうなものは、何一つ存在しない。


それは領内てに突然未知の文明の痕跡が発見されたということを意味する。

しかも、ほぼ完全な形で。


予想外かと言えば必ずしもそうではない。

そもそもデータベース上にはあの場所に街があったことを示す記録も存在していないのだから。

ならばそこで使用されていた言語が未知のものというのは想定し得たこと。

それでも実際に確定すると驚き、そして感嘆のような感情が湧き出すのは止めようがない。


「あそこに街があると言い出したのは誰だったかな、弟よ」

「魔王だね兄さん、僕らは見たことがないけど」


双子の獣人だけでなく、指揮官も魔王の姿を見たことも声を聞いたこともない。

だが確かにそんな存在が異世界人の傍らに居るというのは、現実として受け入れている。


思い返せば魔王たちが現れた”死の砂漠”もまた、そこに街や城があったことを示す文献や口伝は存在していなかった。

”死の砂漠”も”闇の森”も、そこに存在した文明は高度。

何しろ紙が使われていた程だ、狩猟文明の痕跡が出土するのとはわけが違う。

それらの存在や消失を示すものが一切他から出ないというのは、あまりにも奇妙であった。


「儀式魔法については何か当たりはつけてないのか?」


現在から辿りうるものがあるとすれば二つ。

ドラゴンの骨と、街を覆っていた儀式魔法そのもの。


ドラゴンの骨に関しては街の二次調査の際に回収、軍の研究所で解析が行われるとのことで、完全に指揮官らの手を離れる。

そもそも指揮官にも双子の獣人にも、それを調べる術は元からなかったのだが。


だが儀式魔法であれば。

帝国でも屈指の知識量を誇り、実際に解除に携わった二人ならばと指揮官は問いかける。


「たぶん死者の蘇生が一番近いよね、兄さん」

「そうだな、弟よ」


そして返ってきたのは断言とは言い難いが、具体的な答え。


死者の蘇生。


この世界においても死者の蘇生を企図した魔法、あるいは儀式は禁忌とされている。

理由は地域や国によって違えど、実行に移さずとも準備のみで重い罪となるのは共通。

「それでも尚」と手を伸ばす者たちが”邪教”と呼ばれ問題となっていることも、共通。


双子の獣人は知識としてそれを知っているのみであり、実際に動いているのを見たことはない。

故にあの街の儀式魔法が同じであると断言もできない。

それでも似ていると、強くそう感じていた。


「住人を?ドラゴンを?」

「「それはわからない」」


あの街に存在したものの中で最もしっかりと形を維持していたのはドラゴンで間違いない。

また、儀式魔法の解除とほぼ同時に崩壊が始まったこともわかっている。

儀式魔法の意図が死者の蘇生であったとしたら、その対象として一番可能性が高いのはドラゴンだろう。


とはいえ住人が対象であった可能性も、捨てることはできない。

何しろもはや人とは呼べない存在へと成り果ててこそいたが、彼らもまたあの街にずっとあり続けたのだから。


「「結局、これが読めなければ何もわからない」」


三人の視線が一冊の本に注がれる。


答えはすぐ近くにある。

だが彼らはそれを知る方法を、持ち合わせていない。


これにて第七章終了です。

もし面白いと思っていただけましたら高評価・ブックマークのほうよろしくお願いします。


次章が書き上がりましたら投稿を再開させていただきたく思います。

またお会いしましょう。

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― 新着の感想 ―
ん~… 街そのもの不死にしようとして失敗した、かな?なんとなく
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