第七章:その33
「七不思議部もこれで解散か」
「解散いたしませんわよ!?」
しみじみとした俺の発言はウェンディからの猛抗議を受けた、解せぬ。
俺たちは今、部室でお疲れ様会と称した打ち上げをやっている。
メンバーは俺、メアリ、ヘンリーくん、ウェンディ、セラちゃんという七不思議部メンバーに少尉とベルガーン。
何に対するお疲れ様かと言えば当然”闇の森”の探索だ。
テーブルの上にはそれぞれが持ち寄ったお茶やお菓子、軽食が並んでいるが酒はない。
この世界というか帝国での成人は二十歳より前だしそもそも成人前に飲んでも問題はないらしいが、この場に酒は存在しない。
俺くらいの年齢になるともう打ち上げといえば酒。
もはや打ち上げで酒を飲むために行事をやっているのではないかと思うようなことも多かったので、逆に新鮮だ。
いや違うな、なんか懐かしい気持ちになると言ったほうが正しい。
あれは高校の学祭でお化け屋敷を───
「えタカオそれどんな表情」
気付けばメアリが珍妙な物を見るような表情で俺の顔を覗き込んでいた。
そんなに珍妙か、俺の顔は。
ただ過ぎ去りし青春の日々に思いを馳せていただけだというのに。
「いや、こういう雰囲気懐かしいなと思って」
「大丈夫?急に老け込んでない?」
「どんな心配だ」
まあメアリに限らず学生たちと一緒に暮らしてると老け込んだ気分になることはあるが。
若い子は眩しすぎる。
あとエネルギッシュすぎる。
「いや、これでお前らともお別れかと思うと……」
「ですから解散いたしませんわよ!?」
またもや否定された。
「でももう学園に不思議残ってないだろ、本格的に」
これを言うのも二度目だ。
前回はミスティック・ネストとかいう廃墟みたいな寮に行ってなんとか繋いだが、あれは最終手段みたいな口ぶりだったと記憶している。
ならばもう本格的にネタ切れなのではなかろうか。
まあ正直なところ、俺としてはこのままダラダラ存続してもいいんだが。
面倒事は嫌だが、このメンバーで集まるのは嫌いではない。
ウェンディの反応が面白くてついついからかってしまうだけだ。
「それに関しては私、妙案を思いつきましたの」
しかし今回、この問いかけに対するウェンディの反応は違った。
ドヤ顔。
そう、ドヤ顔である。
「言わなくていいぞ」
「何でですの!?」
そりゃお前、嫌な予感がするからだよ。
俺の第六感は全力で「ウェンディに喋らせるな」と言っている。
しかもドヤ顔を見た瞬間、背筋を寒気がゾクゾクと駆け抜けていった程度には強い予感だ。
とはいえ俺にはウェンディを黙らせる方法はない。
仮に物理的に黙らせようとしたなら、黙るのは確実に俺の方になるし。
「私”闇の森”を探索して思いましたの、世界には数多くの不思議があると」
よし、早くもオチが見えてきたぞ。
これは面倒事だ、面倒事以外の何物でもない。
「というわけで今後、学園七不思議部は帝国七不思議部として活動を継続していきたいと思っておりますわ!!」
力強い宣言に対し、周囲からは拍手。
学生たちは思いっきり乗り気な様子だ。
これ、俺も付き合わなきゃいけないんだろうか。
付き合わなきゃいけないんだろうなぁ……。
何とも言えない脱力感がある。
どうしてこう、若者というのはやたらにエネルギッシュなのだろう。
遠い昔……いや遠くもねえな、とりあえずだいぶ前に俺の中からは失われていた感覚だ。
まあ、しゃーないか。
それでも俺の結論はこれ。
面倒だし面倒だし面倒だが、結局は付き合う。
浮かんできた苦笑はそんな自分に対してか、学生たちに対してか、あるいはその両方か。
いずれにしても俺のハチャメチャは、まだまだ終わりそうにないということは確定した。