第七章:その28
少尉の参戦により状況は大きく変わった。
別に有利になったとか撤退する余裕が生まれたとかそういうわけではない、ただ反撃ができるようになったというだけの話だ。
しかし反撃どころか逃げることもできず、ただドラゴンの間合いから一方的にボコられるしかなかった先程までの状況とは雲泥の差だろう。
精神的にもだいぶ余裕が生まれた。
「これ一人でとか無理でしょ、よくやる気になったね」
「見た瞬間逃げたくなったんだよなあ」
少尉と、ついでに俺も接近して攻撃を加えられるようになって判明したことがある。
それはこのドラゴンのとんでもなさだ。
元からわかりきっていたことではあるが、新発見があった。
俺も少尉も接近戦主体のため、攻撃に移るにあたってドラゴンの懐に入り込まなければならない。
図体がデカい奴はだいたい小回りが効かないという弱点があるように思うし、実際このドラゴンも移動という点での小回りは苦手としてそうな様子はある。
なので少しは楽な戦いになるかと思ったが、そんなことはなかった。
このドラゴン、死角らしい死角がほとんどないのだ。
ブレスに鋭い牙に爪、長い尻尾。
場合によっては胴体や首といった肉体そのものも武器となる。
どこにいようとどれかは必ず飛んでくる、これらの攻撃を掻い潜りながらの戦闘は容易なことではない。
特に俺はパンチやキックに体当たりといった超接近戦しかできないし。
少尉は軽々掻い潜ってるように見えるが、間違いなく見た目ほど楽ではないだろうなと思う。
もう一つの問題は、防御力だ。
というかこちらが最大の問題じゃないかと思う、やたらと堅い。
まず俺の攻撃を弾き返しまくっている魔法障壁。
”デーモン”の魔法障壁なら俺でも貫通できたがこいつのは無理だ。
ただどうやら俺のように全方位に常時展開という無駄遣いではなく、攻撃に合わせて一部に展開する一般的な展開の仕方であるらしい。
そのため少尉はちょくちょく魔法障壁に遮られることなく攻撃を叩き込めている。
だがその攻撃は鱗、ドラゴン自身の装甲が防ぐ。
竜鱗がやたらと硬いのはこの世界でも共通らしい。
剣に魔法、ありとあらゆる攻撃を食らっているが全く効いているようには見えない。
二重の防御態勢は、鉄壁だ。
というかあんなに硬い装甲があるんなら俺の攻撃だけ魔法障壁で防ぐな、俺にも直接殴らせろ。
「めんどくさ」
空耳かもしれないが、少尉のそんな言葉が風に乗って聞こえた気がした。
これに関しては確かに、と頷くほかない。
ベルガーンには抑え込めと言われたが、それすらも難易度が高すぎる。
「魔王様は?何かアドバイスくれないの」
「二人で抑え込めってだけ言ってどっか行った」
「嘘でしょ」
おそらくはごく短い時間となるであろうインターバル。
ようやく僅かながらも俺たちに対し警戒の色を向けるようになり距離を取ったドラゴンを見据えながら、俺と少尉が空中で並び立つ。
ベルガーンは既にいない。
口ぶりから察するにメアリやロンズデイルたちの方に行ったのだろうとは思うが、あいつの場合寄り道してるかも知れん。
細かい指示や攻略法の類は残されてていない。
漠然と「二人で抑え込め」と言われただけだ。
それでも───
「あいつがやれって言う以上は、できるんだろ」
俺一人の時は「逃げ回れ」と言ったベルガーンが「抑え込め」と言うのならきっと、不可能ではないのだろう。
難易度は超絶高そうだが。
あいつはそういうところはっきりしてるし、そういう眼力も信用していいと思う。
少なくとも俺は、そう思っている。
少尉が何か言葉を返してくるより先、インターバルが明ける。
文字通り口火となるのはドラゴンのブレス、奴は俺たちに向けて大きく口を開け───
刹那、ドラゴンの全身から口へと向け走った赤い光の線を見た俺は、猛烈に嫌な予感がした。
どのくらい嫌な予感だったかと言うと、何か考えるより先に体が動いた程度。
少尉が動いたのもほぼ同時。
それから一秒にも満たない時間の後。
アニメやゲームでしか聞いたことのない効果音とともに放たれたビーム砲のような赤い光が、俺の視界を真っ赤に塗りつぶした。
新時代の扉良かったです。
ガチャは良くなかったです。