第七章:その23
「「賛成だ」」
ダブルジョンが短くそう言って手を挙げる。
二人で同時に違う方の手を挙げてるのが面白い。
いやまあ同じ手でも面白かったろうけど。
「可能か?」
「「実物を見てみなければわからん」」
恐らく「それならそうしよう」という流れに持っていこうとしたであろうロンズデイルが固まった。
それで賛成すんな、そして自信満々に言うな。
もしかしてこいつら、ここで使われている儀式魔法に興味があるだけなんじゃないだろうか。
さすがにこの状況でダブルジョンに続いて賛成する者は出ない。
おそらくはこの場で最も知識がある連中、儀式魔法の解除ないし破壊を受け持つことになるであろう連中がこの調子で何を頼りにすればいいというのか。
発案したメアリすら困ってるし、これじゃロンズデイルも決定を下すのは難しいだろう。
どうしたらいいんだこれみたいな空気になってやがる。
「お前はどう思う」
仕方なく俺はベルガーンに問いかけた。
どう問えばいいかわからなかったせいで質問がめちゃくちゃふんわりになったのは許して欲しい。
『用いられている儀式が未知である、という不安要素は排除できぬ』
儀式魔法は基本的に組み合わせる魔法次第で効果は千差万別、何なら日々新しいものが研究され生まれる分野らしい。
そのためベルガーンですら全てを網羅するのは不可能。
この街を覆っているそれが儀式魔法であるのは間違いないと断言できるが、どういうものかは全く説明できないんだそうだ。
『だが余ならば進むであろうな』
「なんで?」
『貴様らが、貴様ら自身が思っているよりも優秀だからだ。余は解決可能と踏んでいる』
突然褒められたぞ。
まあ確かに、俺はともかくとしてここにいる皆は優秀なんだろう。
そうでなければ”闇の森”か先程のゾンビ襲来で脱落する人が出るか、最悪壊滅していただろうなと思うし。
俺だってオルフェーヴルを使えば強い……まあオルフェーヴルが強いだけなんだが、そういう自覚くらいはある。
というかベルガーンが言っていることとダブルジョンが言ってること、同じはずなのに説得力が違うのは何なんだ。
これが「あんたほどの実力者がそう言うなら」ってやつか。
「ホソダさん、ベルガーン様はなんと?」
ロンズデイルの言葉で我に返る。
気づけば、皆の視線がこちらに集中していた。
半数はベルガーンに、もう半数は俺に。
そうだ、ずっとベルガーンのことが見えるやつとばっかり行動してたから失念していたが、今回のメンバーは半数が見えないんだった。
きっと俺のことは虚空に向かって話しかけて何か納得してる変なやつにしか見えなかったことだろう。
はい少尉が顔を背けましたね。
「解決可能だと思うので自分なら進む、って言ってます」
「なるほど」
それっきり、沈黙が流れる。
映画なんかだと時計の音だけが響きそうな場面だが、生憎とここに時計はない。
そのため響くのは床板が軋む音くらいのものだ。
「アダム、ダリル、儀式魔法を必ず何とかしろ」
ややあってロンズデイルの口から出たのはそんな命令。
ブラック企業の指示かよと言いたくなるような無茶な言葉。
「「心得た」」
だがダブルジョンはそれに応諾する。
その返事が自信から来たものか、それとも信頼関係から来たものかはわからない。
いずれにしてもこの短い会話で、俺たちの方針は決まったらしい。
「少し休んだ後、屋敷への移動を再開します」




