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魔王と行く、一般人男性の異世界列伝  作者: ヒコーキグモ
第七章:一般人、立ち向かう。
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第七章:その17

本当に少し、極々僅かな力を入れただけで指がめり込んだ。

その時の感触を例えるなら「卵に指が入った」になるだろうか。


───これ、大丈夫なんだろうか。


不安がよぎる。


正直、結界が割れた事に関してはどうでもいい。

そもそも結界をどうにかして突破するのが目的だったわけだし、こんなにも脆くなるのはむしろ良いことだろう。


問題は指だ。

普通にめり込んじゃった俺の指。

結界の影響で良くないダメージを受けてたりとか消えてなくなってたりとか、そういうのは大丈夫だろうか。

不安で仕方ない。

指を引き抜いて確認すれば早いが、確認するのが怖い。


「「ホソダタカオ、指を抜いてみろ」」


そして指が入ったことがダブルジョンにバレた。

いやそりゃバレるよな、間近で手元覗き込んでるんだし。


指示を受けた俺は恐る恐る指を抜き───あった。

あった、指あった。良かった。

そんな強い安堵とともに大きく息を吐く。


「「失礼」」


そして残念ながらダブルジョンの興味の対象は俺の指ではない。指を抜いた後の結界だ。

俺の指になんて目もくれず、むしろ邪魔だと言わんばかりに俺の前に入り込む。


「兄さん、これはもう叩けば壊れるかな」

「そうだな弟よ、とりあえず叩いてみるか」


そうしてしばらく結界のセメント化した部分を観察した後、彼らはそう言いながら軽くその場所を叩いた。

返ってきたのは軽く、そして硬い音。

そして、たったそれだけの衝撃でヒビが拡大していく。


「「よし」」


何が「よし」なんだ、と思った瞬間。

二人はおもむろに足を上げ、そして結界に向けて同時に蹴りを放った。

「バキィ!」という、明らかに何かが割れたことを示す音が森に響く。

音の発生源である結界には二人の足のサイズよりも大きな穴が空き、その周囲もパラパラと崩れ落ち始めている。

この調子だと、少なくともセメント化した部分はすぐに消えて無くなるだろう。

ダブルジョン、もう数発は蹴りをぶち込む気満々だし。


「兄さんあれは建物だね」

「それなりに大きな街があるように見えるな、弟よ」


その後二人から三発ずつの蹴りを叩き込まれ、結界には大人一人が余裕で倒れそうな程の大穴が空いた。

穴の向こうに広がるのは森ではなく暗闇。

そしてその中にぼんやりとだが、複数の建物の輪郭が見える……ような気がする。

どうもダブルジョンにはこの暗闇の中が割としっかり見えているようだが何の影響だろう。

視力強化の影響で俺の夜目も強化されているはずなんだが、あまりはっきりとは見えない。

もしかすると獣人ならではの夜目とかなんだろうか。


「弟よ、とりあえず入ってみるか」

「そうしようか、兄さん」

「待てや」


当たり前のように穴をくぐって中に入っていこうとするダブルジョン。

トントン拍子に話進めすぎだろこの兄弟。

慎重とかそういう言葉が辞書に載ってないタイプの人種か。

例えばそう、ウェンディみたいな。


「「ウィル、先に行くよ」」


俺の静止は完全に無視された。

何ならちゃんと耳に入っているかどうかすら怪しい。

ロンズデイルに対しての言葉もお伺いを立てる感じではなく、ただの宣言でしかないように聞こえる。


「わかった」


そしてロンズデイルの返事も、まるで止める気が感じられないもの。

彼にしては珍しい雑な判断だがこれはダブルジョンへの信頼から来るものか、それとも止めても無駄だという諦観から来るものか。

俺にはいまいちどちらなのか判断がつかない。

というか口調からして随分と気安い仲に見えるが、三人はどういう関係なのだろうか。

若干気になってきたので、機会があれば聞いてみよう。


「入って大丈夫か、これ」

『何から何まで大丈夫とは断言せぬ』

「またかよ!」


さておき「これは俺もダブルジョンに続くべきなのか」と思いベルガーンに問うてみたところ、返ってきたのは先日”狭間”で聞いたような微妙極まる答え。

こいつもしかしてこの言い草が気に入ったんじゃあるまいな。

お前に求められてるのは説得力のある助言なんだから何から何まで大丈夫と断言しろ。

あるいは駄目なら駄目と言ってくれ。


「入った方がいいですか?」


やむを得ず、背後のロンズデイルに問いかける。

俺としては正直入りたくない。

何しろ中を……結界内部の暗闇を見ていると、ものすごく嫌な予感がしてくるからだ。

これは俺のシックスセンス以前の問題で、森の中に結界と暗闇に包まれた街とかあったら誰だって嫌な予感がするだろう。

むしろ進んで入っていく奴がおかしい、お前らのことだぞダブルジョン。


「そうですね、入りましょう」

「ですよね」


だが、ロンズデイルの返事は予想通りのもの。

俺たちはここの調査に来たんだから、探索せず帰るという選択肢がないのは当たり前だ。

ここに至るまでに負傷者が多数出た等の危機的状況なら話は変わってくるのだろうが、今回は順調すぎるほど順調にたどり着いてしまった訳だし。


「……変なもん出ませんように」


意を決して俺は結界の穴をくぐり、闇の中へと侵入する。

何も出ないでほしい、何事もなく平和に終わって欲しいとは思うがきっとこの願いは叶わないだろう。


今日のWIN5、やっぱり買ったのは未来人なんでしょうか。

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